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「戦争放棄条項をめぐる論争」

『資料戦後二十年史』
「昭和二十一年六月二十八日付衆議院本会議
 野坂参三議員質問
 (中略)偖て最後の第六番目の問題、是は戦争抛棄の問題です。此処には戦争一般の抛棄と言ふことが書かれてありますが、戦争には我々の考へでは二つの種類の戦争がある。二つの性質の戦争がある。一つは正しくない不正の戦争である。是は日本の帝国主義者が満州事変以後起したあの戦争、他国征服、侵略の戦争である。是は正しくない。同時に侵略された国が自国を護る為めの戦争は、我々は正しい戦争と言って差支へないと思ふ。此の意味に於て中国或は英米其の他の連合国、是は防衛的な戦争である。是は正しい戦争と言って差支へないと思ふ。一対此の憲法草案に戦争一般抛棄と言ふ形でなしに、我々は之を侵略戦争の抛棄、斯うするもがもっと的確ではないか、此の問題に付て我々共産党は斯う言ふ風に主張して居る。日本国は総ての平和愛好諸国と緊密に協力し、民主主義的国際平和機構に参加し、如何なる侵略戦争をも支持せず、又之に参加しない、私は斯う言ふ風な条項がもっと的確ではないかと思ふ。(中略)
 吉田首相答弁
 戦争抛棄に関する憲法草案の条項に於きまして、国家正当防衛権に依る戦争は正当なりとせらるるやうであるが、私は斯くの如きことを認むることが有害であると思ふのであります。(拍手)近年の戦争は多くは国家防衛権の名に於て行はれたることは顕著なる事実であります。故に正当防衛権を認むることが偶々戦争を誘発する所以であつと思ふのであります。又交戦権抛棄に関する草案の条項の期する所は、国際平和団体の樹立にあるのであります。国際平和団体の樹立に依って、凡ゆる侵略を目的とするならば、其の前提に於て侵略を目的とする戦争を目的とした国があることを前提としなければならないのであります。故に正当防衛、国家の防衛権に依る戦争を認むると言ふことは、偶々戦争誘発する有害な考へであるのみならず、若し平和団体が、国際団体が樹立された場合に於きましては、正当防衛権を認むると言ふことそれ自身が有害であると思ふのであります。御意見の如きは有害無益の議論と私は考へます。(拍手)」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)