長い話
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話の好きな金持があった。 「わしが、もーえー、ちゅうまで(いうまで)話をしてくれた人があったら百円やる」 というた。 誰も、もーえー、といわれるまで話のできる者はなかった。 一人の男が考えて、また話にいった。 「百円の金を先に出して、積んどいてくれたったら、あんたがもーえー、というてのまで、話をします」 というた。 金持はその通り、百円の金を出して、その男の前に積んだ。 その男が、話をはじめた。 |
「よそに池がありました。池のはたに岩がありました。岩の横に樫の木が一本はえて、大(おお)けになって、仰山(ぎょうさん)に実がなりました。 秋になってその実がうれて落ち出しました。はじめ、ぽろっと一つ技から離れて、下の岩にかちんとあたって、池の中へどぶんと飛びこみました。 二つ目の実も、ぽろっと枝から離れて、下の岩にかちんとあたって、他の中へどぶんと飛びこみました。 三つ目の実も、ぽろっと枝から離れて、下の岩にかちんとあたって、池の中へどぶんと飛びこみました。 これから段々、しげうに実が落ち出して、ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん、どぶん。ぼろっ、かちん、どぶん。…」 「おい、その話はもうわかった。なんぞほかの話をしてくれ」 「へえ、この話がすんだらほかの話をしますが、これがまだすみまへん」 |
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それから一日たちまして、そのあけの日になっても、 「ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん、どぶん。…」 「おい、もうわかった。ほかの話にしてくれ」 「へえ、まだこの話がすみまへんのじゃ」 それから三日目も、 「ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん。どぶん。…」 「ええ、もー聞きとうない。もーええ、もーええ」 「おっと、その百円はこっちゃへもろときます」 というて、男は百円を取った。 |
注1:「大(おお)けに」は”大きく”という意味、「仰山(ぎょうさん)」は”たくさん”という意味です。 注2:ちょん髷姿は、明治の断髪令以後も見られました。 |
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挿絵:立巳理恵 | |
出展:『相生市史』第四巻 |