相生の昔話

(10)風鈴(ふうりん)


 さむらいの子と、町人の子と、百姓の子とが、同じお師匠(ししょう)の所へ本を読みに通うていた。
 お師匠さんの家に、風鈴がひとつさがっていて、よい音でリン、リンと鳴っていた。

 三人の子供は、その風鈴をもらいたいというて、銘々(めいめい)、お師匠さんに頼んだ。

 お師匠さんは、
 「ほんなら、お前等、風鈴の歌を一つづつ作れ。一番ようできたもん(者)にやろ」
というた。

 三人は、みな、一番になろうと思うて考えた。
 まず、さむらいの子は、
  りんりんりん りん(凛)と持ったるこの刀 ひとふりふれば 首が散るらん
とやった。

 つぎに、町人の子は、
  りんりんりん りんと持ったるこの桜 ひとふりふれば、花が散るらん

 百姓の子は、
  りんりんりん りんと持ったるこの鯖(さば) ひとふりふれば 塩がちるらん
とやった。

 どれも、みな、よくできた。

 お師匠さんは困って、風鈴を手に握(にぎ)りながら、
  りんりんりん りんと持ったるこの風鈴 だれにもやられん アカスコベロリン

注1:「銘々(めいめい)」とは、「それぞれ別々に」の意味です。
注2:「一番ようできたもん(者)にやろ」の「やろ」とは、「与えよう」という意味です。
注3:「師匠」とは、学問などを教える人、または、先生という意味です。
注4:「首が散るらん」などの「らん」は、現在の事柄についての推量を表す助動詞で、「首が散るであろう」という意味です。
注5:「アカスコベロリン」はよく分りません。ただ、「アカンベー」のアカンは、目の下側を剥(む)いて赤目にすること、「ベー」は舌を出すことです。つまり、赤目にして舌を出すことは拒絶する意味として使われてきました。それと関係があるのかもしれません。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻