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エピソード

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国民生活と文化W(1961〜1980年、体験的映画・音楽論)
 ここでは1961〜1980年を扱います。一度でも聞いたり、見たりした音楽・映画・TVを扱っています。
 1961(昭和36)年
流行語:レジャー・プライバシー・わかっちゃいるけどやめられない・不快指数・六本木族・地球は青かった
流行歌:「東京ドドンパ娘」渡辺マリ/「銀座の恋の物語」石原裕次郎・牧村旬子/「君恋し」フランク永井/「スーダラ節」植木等/「上を向いて歩こう」坂本九/「王将」村田英雄
映画:『名もなく貧しく美しく』松山善三監督・高峰秀子・小林桂樹主演/『赤穂浪士』松田定次監督・片岡千恵蔵主演/『不良少年』羽仁進監督・山田幸男主演/『用心棒』黒澤明監督・三船敏郎主演
洋画:『ウエストサイド物語』(米)/『草原の輝き』(米)/『素晴らしい風船旅行』(仏)/『地下鉄のザジ』(仏)
TV:『娘と私』/『夢で逢いましょう』/『シャボン玉ホリデー』/『七人の刑事』/『アンタッチャブル』/『スチャラカ社員』
 1962(昭和37)年
流行語:人づくり・無責任時代・ハイそれまでよ・吹けば飛ぶよな・総会屋・青田買い
流行歌・「可愛いべイピー」中尾ミエ/「いつでも夢を」橋幸夫・吉永小百合/「遠くへ行きたい」ジェリー藤尾/「下町の太陽」倍賞千恵子
映画:『キューポラのある街』浦山桐郎監督・吉永小百合主演/『切腹』/小林正樹監督・仲代達矢・三国連太郎主演
洋画:『情事』(伊)/『101匹わんちゃん大行進』(米)
TV:『ベン=ケーシー』/『判決』/『てなもんや三度笠』
 1963(昭和38)年
流行語:バカンス・番長・ハッスル・カワイコちゃん・三ちゃん農業
流行歌:「高校三年生」舟木一夫/「東京五輪音頭」三波春夫/「こんにちは赤ちゃん」梓みちよ/「浪曲子守唄」一節太郎/「男船」井沢八郎
映画:『天国と地獄』黒澤明監督・三船敏郎主演/『武士道残酷物語』今井正監督・中村錦之助主演/『五番町夕霧楼』田坂具隆監督・佐久間良子主演/『にっぼん昆虫記』今村昌平監督・左幸子主演
洋画:『アラビアのロレンス』(英)/『007は殺しの番号』(英)/『大脱走』(米)/『奇跡の人』(米)
TV:『花の生涯』/『鉄腕アトム』/『夫婦善哉』
 1964(昭和39)年
流行語:根性・おれについてこい・ウルトラ・トップレス・シエー
流行歌:「お座敷小唄」和田宏とマヒナスターズ/「アンコ椿は恋の花」都はるみ/「涙を抱いた渡り鳥」水前寺清子/「柔」美空ひばり
映画:『越後つついし親不知』今井正監督・三国連太郎主演/『赤い殺意』今村昌平監督・西村晃・春川ますみ主演/『愛と死を見つめて』斎藤武市監督・吉永小百合主演
洋画:『マイ=フェア=レディ』(米)
TV:『赤穂浪士』
 1965(昭和40)年
流行語:期待される人間像・しごき・007・夢の島・公害
流行歌:「さよならはダンスの後に」倍賞千恵子/「愛して愛して愛しちゃったのよ」田代美代子/「函館の女」北島三郎
映画:『日本列島』熊井啓監督・宇野重吉主演/『赤ひげ』黒澤明監督・三船敏郎主演/『東京オリンピック』市川崖監督
洋画:『サウンド=オブ=ミュージック』(米)
TV:『太閤記』/『11PM』/『おばけのQ太郎』
 1966(昭和41)年
流行語:黒い霧・びっくりしたな−もう・ケロヨーン・ダヨーン
流行歌:「星影のワルツ」千昌夫/「君といつまでも」加山雄三/「骨まで愛して」城卓矢/「夢は夜ひらく」園まり/「霧氷」橋幸夫/「バラが咲いた」マイク真木/「こまっちゃうナ」山本リンダ
映画:『白い巨塔』山本薩夫監督・田宮二郎主演
洋画:『市民ケーン』(米)/『戦争と平和』(ソ)/『男と女』(仏)
TV:『おはなはん』/『笑点』/『ウルトラマン』/『銭形平次』
 1967(昭和42)年
流行語:対話・ボイン・ヤマトダマシイ
流行歌:「小指の想い出」伊東ゆかり/「ブルー=シャトー」ジャッキー吉川とブルーコメッツ/「帰ってきたヨッパライ」ザ=フォーク=クルセダーズ/「世界は二人のために」佐良直美/「命かれても」森進一
映画:『日本春歌考』大島渚監督・荒木一郎主演/『上意討ち』小林正樹監督・三船敏郎主演/『日本のいちばん長い日』岡本喜八監督・三船敏郎主演
洋画:『夕陽のガンマン』(伊)/『夜の大捜査線』(米)
TV:『ハノイー田英夫の証言』
 1968(昭和43)年
流行語:昭和元禄・ハレンチ・ズッコケる・サイケデリック・とめてくれるなおっかさん・ゲバルト/ノンポリ・タレント候補
流行歌:「盛り場ブルース」森進一/「受験生ブルース」高石友也/「花の首飾り」ザ=タイガース/「天使の誘惑」黛ジュン/「恋の季節」ピンキーとキラーズ/「好きになった人」都はるみ/「ブルーライトヨコハマ」いしだあゆみ
映画:『黒部の太陽』熊井啓監督・石原裕次郎主演/『神々の深き欲望』今村昌平監督・河原崎長一郎主演
洋画:『俺たちに明日はない』(米)/『猿の惑星』(米)/『卒業』(米)
TV:『連想ゲーム』/『巨人の星』
10  1969(昭和44)年
流行語:あっと驚くタメゴロー・ニャロメ・造反有理・やったぜ、ベイビー・オー、モーレツ!
流行歌:「今日でお別れ」菅原洋一/「長崎は今日も雨だった」内山田洋とクールファイブ/「港町ブルース」森進一/「いいじゃないの幸せならば」佐良直美/「フランシーヌの場合」新谷のり子/「黒猫のタンゴ」皆川おさむ
映画:『心中天網島』篠田正浩監督・岩下志麻主演/『私が棄てた女』浦山桐郎監督・浅丘ルリ子主演/『男はつらいよ』山田洋次監督・渥美清主演
洋画:『真夜中のカーボーイ』(米)『ローズマリーの赤ちゃん』(米)
TV:『巨泉・前武ゲバゲバ90分』/『裏番組をブッ飛ばせ』/『水戸黄門』/『8時だヨ!全員集合』/『ムーミン』
11  1970(昭和45)年
流行語:ハイジャック・ウーマンリブ・鼻血ブー・ヘドロ・スキンシップ
流行歌:「圭子の夢は夜ひらく」藤圭子/「男はつらいよ」渥美清/「笑って許して」和田アキ子/「走れコウタロー」ソルテイ=シュガー/「知床旅情」加藤登紀子/「戦争を知らない子供たち」全日本アマチュア=フォーク=シンガーズ/「傷だらけの人生」鶴田浩二
映画:『戦争と人間』山本薩夫監督・滝沢修・芦田伸介主演/『家族』山田洋次監督・倍賞千恵子・井川比佐志主演/『エロス+虐殺』吉田書重監督・岡田莱荊子主演
洋画:『イージー=ライダー』(米)/『明日に向かって撃て』(米)
TV:『樅の木は残った』/『時間ですよ』/『細うで繁盛記』/『日本史探訪』
12  1971(昭和46)年
流行語:脱サラ・ニアミス・ガンバラなくっちや・シラケ
流行歌:「また逢う日まで」尾崎紀世彦/「よこはま・たそがれ」五木ひろし/「わたしの城下町」小柳ルミ子/「おふくろさん」森進一/「さらば恋人」堺正章/「水色の恋」天地真理/「純子」小林旭/「雨の御堂筋」欧陽罪非
映画:『椀という女』今井正監督・岩下志麻主演/『沈黙』篠田正浩監督・デイビッド=ランプノン・マコ主演
洋画:『ライアンの娘』(英)/『ある愛の詩』(米)/『屋根の上のバイオリン弾き』(米)
TV:『スター誕生!』/『仮面ライダー』/『新婚さんいらっしゃい』
13  1972(昭和47)年
流行語:恥ずかしながら・三角大福・日本列島改造・総括・あっしにはかかわりのねえことで・バイコロジー・恍惚の人・未婚の母・同棲時代
流行歌:「結婚しようよ」よしだたくろう/「学生街の喫茶店」ガロ/「男の子女の子」郷ひろみ/「瀬戸の花嫁」小柳ルミ子/「女のみち」ぴんからトリオ/「喝采」ちあきなおみ
映画:『忍ぶ川』熊井啓監督・栗原小巻主演/『軍旗はためく下に』深作欣二監督・丹波哲郎主演/『故郷』山田洋次監督・井川比佐志・倍賞千恵子主演
洋画:『死刑台のメロディ』(伊)/『ゴッドファーザー』(米)/『キャバレー』(米)
TV:『木枯し紋次郎』
14  1973(昭和48)年
流行語:石油ショック・省エネ・じっと我慢の子であった・日本沈没・ちょっとだけよ
流行歌:「危険なふたり」沢田研二/「神田川」南こうせつとかぐや姫/「あなた」小坂明子/「なみだの操」殿さまキングス
映画:『仁義なき戦い』深作欣二監督・菅原文太主演/『津軽じょんがら節』斎藤耕一監督・江波杏子主演
洋画:『ジャッカルの日』(仏)/『ジョニーは戦場へ行った』(米)
TV:『刑事コロンボ』/『国盗り物語』/『子連れ狼』
15  1974(昭和49)年
流行語:便乗値上げ・狂乱物価・金脈・ストリーキング・青天のへキレキ・ゼロ成長
流行歌:「うそ」中条きよし/「襟裳岬」森進一/「ひと夏の経験」山口百恵/「昭和枯れすすき」さくらと一郎
映画:『葦麗なる一族』山本薩夫監督・佐分利信主演/『赤ちょうちん』藤田敏八監督・秋吉久美子主演/『砂の器』野村芳太郎監督・加藤剛主演/『サンダカン八番娼館・望郷』熊井啓監督・栗原小巻主演
洋画:『ダラスの熱い日』(米)/『エクソシスト』(米)/『エマニエル夫人』(仏)
TV:『宇宙戦艦ヤマト』
16  1975(昭和50)年
流行語:赤ヘル・乱塾・アンタあの娘のなんなのさ・ワタシつくる人ボク食べる人・中ピ遠
流行歌:「港のヨーコ=ヨコハマ=ヨコスカ」ダウンタウン=ブギウギ=バンド/「シクラメンのかほり」布施明/「心のこり」細川たかし/「ロマンス」岩崎宏美/「およげ!たいやきくん」子門真人/「北の宿から」都はるみ
映画:『青春の門』浦山桐郎監督・大竹しのぶ・吉永小百合主演/『金環蝕』山本薩夫監督・宇野重吉・仲代達矢主演
洋画:『タワーリング=インフェルノ』(米)/『JAWS・ジョーズ』(米)/『デルス=ウザーラ』(ソ連)
17  1976(昭和51)年
流行語:灰色高官・記憶にございません・ゆれるまなざし・はしゃぎすぎ・○○さんちの○○君・ピーナッツ
流行歌:「春一番」キャンディーズ/「横須賀ストーリー」山口百恵/「嫁にこないか」新沼謙治/「メランコリー」梓みちよ/「あばよ」研ナオコ/「かけめぐる青春」ビューティ=ペア
映画: 『はだしのゲン』山田典吾監督・三国連太郎主演/『犬神家の一族』市川昆監督・石坂浩二主演
TV:『となりの芝生』『徹子の部屋』
18  1977(昭和52)年
流行語:円高・魚ころがし・翔んでる・ルーツ・たたりじゃ−・よっしゃよっしゃ・落ちこぼれ・普通の女の子に戻りたい
流行歌:「津軽海峡冬景色」石川さゆり/「北国の春」千昌夫/「勝手にしやがれ」沢田研二/「ウォンテッド」ピンクレディー「UFO」ピンクレディー
映画:『八甲田山』森谷司郎監督・高倉健・北大路欣也主演/『宇宙戦艦ヤマト』舛田利雄監督/『幸福の黄色いハンカチ』山田洋次監督・高倉健・倍賞千恵子主演/『はなれ瞽女おりん』篠田正浩監督・岩下志麻主演
洋画:『ロッキー』(米)
TV:『ルーツ』
19  1978(昭和53)年
流行語:サラ金・ナンチャッテ・アーウー・不確実性の窓ぎわ族・嫌煙権・家庭内暴力・減量経営
流行歌:「夢追い酒」渥美二郎/「与作」北島三郎「プレイバック Part2」山口百恵/「ガンダーラ」ゴダイゴ
映画:『サード』東陽一監督・永島敏行主演/『曾根崎心中』増村保造監督・梶芽衣子主演童/『事件』野村芳太郎監督・松坂慶子主演
洋画:『未知との遭遇』(米)『スター=ウォーズ』(米)『サタデー=ナイト=フィーバー』(米)
TV:『権力と陰謀』
20  1979(昭和54)年
流行語:ウサギ小屋・ワンパターン・夕暮れ族・激○・エガワる・地方の時代・天中殺・インベーダー・ナウい・ダサイ
流行歌:「YOUNG MAN」西城秀樹/「魅せられて」ジュディ=オング/「燃えろいい女」ツイスト/「舟唄」八代亜紀/「関白宣言」さだまさし/「おもいで酒」小林幸子/「贈る言葉」海援隊/「おやじの海」村木賢吉
映画:『復讐するは我にあり』今村昌平監督・絹形拳主演/『銀河鉄道999』りんたろう監督/『もう頬づえはつかない』東陽一監督・桃井かおり主演
TV:『3年B粗金八先生』
21  1980(昭和55)年
流行語:クレイマ一家庭・カラスの勝手・それなりに・タブラン・竹の子族
流行歌:「ダンシング=オールナイト」もんた&ブラザーズ/「風は秋色」松田聖子/「雨の慕情」八代亜紀/「昂」谷村新司
映画:『天平の菱』熊井啓監督・田村高広主演/『影武者』黒澤明監督・仲代達矢主演
洋画:『地獄の黙示録』(米)『クレイマー、クレイマー』(米)『青い珊瑚礁』(米)
TV:『シルクロード』
 この項は、『近代日本総合年表』・『昭和・平成現代史年表』などを参考にしました。
新婚さんいらっしゃい、木枯紋次郎、フーテンの寅さん、幸せの黄色いハンカチ
 私は、今(2006年7月)、毎週、見ているTVは、『新婚さんいらっしゃい』とNHK教育テレビの『裏千家の茶道教室』くらいです。
 以前は、人気が出る前の『行列の出来る法律相談』における島田伸介さんの当意即妙の話術に度肝を抜かれましたが、今はマンネリ化して見ていません。『どっちの料理ショー』における関口博さんと三宅裕司さんの掛け合い、現地素材のプロの食材造り・探し、料理人の技術を堪能していましたが、食材のよさを活かしてシンプルな造りでなく、殺すようなゴテゴテした料理造りに辟易して、今は見ていません。
 時々、靖国問題や教育問題(奈良の高1生による義母・弟妹放火殺人事件など)があると、TVを見ますが、その前後のお笑い芸人を呼んでのトークにはついていけません。社会が疲れているので、せめてTVだけでも明るくという演出かも知れませんが、現実との差が大きすぎるように思います。
 つくづく、自分の身は自分でしか守るしかないと考え込んでしまいます。
 1961年から1980年までに作られて作品で、特に印象に残ったのを紹介します。
 山田洋次監督・渥美清主演の『フーテンの寅さん』は、1969年に第1作目が封切られ、渥美清さんがなくなる直前の1995年に第48作目が封切られました。
 森川信が「おいちゃん」役をしているビデオ(1〜8巻)はすべて購入しました。今の時々、取り出しては見ています。NHKのBSで、全48作放映しているので、楽しんでいます。
 山田洋次監督は、黒澤明監督から、「シナリオが書ける監督にならないとダメだ」と言われたそうです。山田洋次監督の『下町の太陽』(1963年)・『家族』(1970年)・『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)・『遥かなる山の呼び声』(1980年)・『キネマの天地』(1986年)・『息子』(1993年)・『学校』(1993年)・『学校U』(1996年)・『学校V』(1998年)・『十五才 学校W』(2000年)・『たそがれ清兵衛』(2002)を見ています。
 『釣りバカ日誌』は、第1作目と第2作目を見ました。ワンパターンで、先が読める作品なので、第3作目からは見ていません。西田敏行さんや三国連太郎さんは好きな俳優です。たぶん、脚本がつまらないのでしょう。
 フーテンの寅さんについては、別項で紹介しました。旅に出たいは人間の本能です。相手が大学教授だろうが、医者だろうが、小説家だろうが、先入観なく、1人と人間として接します。それを具現している寅さんに皆はロマンを求めるのでしょうか。
 私が住んでいる相生市は、見たい番組の多い「TV大阪」は視聴できず、見ることもない競馬やプロ野球の阪神のゲームの多いサンTVが視聴できます。しかし、たまにいいことがあります。五木寛之氏の『百寺巡礼』などの放映があります。今(2006年)は『木枯紋次郎』が放映されています。
 『木枯紋次郎』の最初のTV放映は1972年でした。今から34年前です。少しも色褪せていないのが素晴らしい。長い爪楊枝をくわえ、誰かに助けを求められても、紋次郎は「あっしには、かかわりのねぇことでござんす」と言い捨てて、立ち去っていきます。この渋くてニヒルな紋次郎を、また苦みばしったインテリ(東京外大卒)の中村敦夫が演じました。映画では菅原文太が演じていましたが、ニヒルさがなく、がっかりしたのを覚えています。
 ニヒルとは、ニーチェの虚無主義を連想しました。若者にはしびれる言葉で、「既成の法秩序・制度の全面的拒否」を「あっしには、かかわりのねぇことでござんす」という言葉が代弁していました。
 原作が笹沢左保、監督が市川崑でした。しかし、TV版では、「市川崑劇場」ですが、演出は余り知らない人が担当していました。市川監督の影響を受けた演出家だったのでしょう。とてもリアルで、言葉はニヒルですが、行動はヒューマンな紋次郎でした。
 第1話です。上州(上野国)三日月村で生まれた紋次郎は、生まれてすぐに間引かれようとしました。しかし、姉のお光が「お祭りの日だから殺生はダメ!」と助けました。その姉も、紋次郎が13歳の時に、高崎へ売られました。その後、紋次郎が高崎へお光を訪ねて行くと、お光は深谷に売られていました。やがて、三日月村で山津波が起きて、紋次郎の家族は全滅しました。そこで、紋次郎が深谷へ行くと、お光はどこかに売られていました。こうして、姉のお光を訪ねる木枯紋次郎が誕生しました。
 その旅の途中で、木枯紋次郎は、間引こうとしていた女を助け、お金を与えましたた。 しかし、翌朝、その女は自分の子を殺して、自分も首を吊って死んでいました。女の足元には、紋次郎の与えた金がありました。村人は「半端な金があると、なおさら絶望が深まるものさ」という言葉を聞いて、紋次郎は絶望的で、やりきれない表情をします。余りのリアルさに、言葉もありませんでした。
 殺し合いにしても、勝新太郎監督・主演の安モンの切り合いでは、ばったばったと切り捨てます。紋次郎のは、不細工で、イライラします。しかし、百姓からヤクザになった者には、こちらの方が本当らしく感じました。
 お紺は、錦絵を紋次郎のほうへ広げて見せました。紋次郎の口元から木枯しの音が流れ、くわえていた爪楊枝が吹き矢のように飛び、楊枝は錦絵のお糸の泣きボクロを射抜き、そこにはただの穴が残りました。「泣きボクロが消えた」とお紺が叫びました。泣きボクロを消すことは、紋次郎がお糸にしてやれる供養だったのです。「御免なすって」と言うと、紋次郎は旅に出ました。格好いい!
 「やがて、紋次郎の歩く姿は夕闇の中に消えていった。木枯し紋次郎。上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれたという。十歳の時に故郷を捨て、その後一家は離散したと伝えられる。天涯孤独な紋次郎が、どういう経路で、無宿渡世の世界に入ったかは、定かでない」という芥川隆行さんの甘い、そして余韻を含んだナレーションが、これまたジーンと胸にきました。
 また主題歌「だれかが風の中で」がいい。作詞は市川崑監督の奥さんの和田夏十さん、作曲は小室等さん、歌は上条恒彦さんです。上条さんの野太い声がぴったりでした。小室等・上条恒彦コンビでは「出発の歌」も有名です。
「1.どこかで だれかが きっと 待っていてくれる 雲は焼け 道は乾き 陽はいつまでも 沈まない
こころは むかし死んだ ほほえみには 会ったこともない きのうなんか 知らない
きょうは 旅をひとり けれども どこかで おまえは 待っていてくれる きっと おまえは
風の中で 待っている
2.どこかで だれかが きっと 待っていてくれる 血は流れ 皮は裂ける 痛みは 生きているしるしだ
いくつ 峠をこえた どこにも ふるさとはない 泣くやつは だれだ このうえ 何がほしい
けれども どこかで おまえは 待っていてくれる きっと おまえは
風の中で 待っている」
 1977年、『幸せの黄色いハンカチ』が製作されました。今(2006年)から29年前の作品がNHKのBSで再放送されました。全く今でも通用するテーマです。
 監督は山田洋次さん、原作はピート=ハミルの『幸せの黄色いリボン』、脚本も山田洋次さんで、朝間義隆さんが参加しています。出演は、高倉健・賠償千恵子・武田鉄也・桃井 かおりで、賛助出演に渥美清という顔ぶれです。
 物語は単純です。失恋した武田哲也が失恋した桃井かおりをナンパします。偶然高倉健を同乗させます。刑務所帰りの高倉健は、賠償千恵子に「もし、まだ一人暮しで待っててくれるなら、黄色いハンカチをぶらさげておいてくれ。それが目印だ。もしそれが下がってなかったら俺は二度と夕張には現れない」という葉書を出していることを若い2人に告白する。やがて、炭住にやってくる。しばらく様子を見ている桃井かおり。車の中で目をつむって必死に耐える高倉健。桃井かおりが突如「ほらー、あれ!」叫びました。視線の先には、何十枚もの黄色いハンカチが物干し竿に翻っていました。初めてこの場面を見たとき、ジーンとこみ上げてくるものがありました。
 授業中、この話をもっとリアルにした後、「愛するって耐えることなんだよ」と話しました。私も涙腺が弱くなっていました。それを見た生徒の中で、特に感受性の強い女性の目に光を感じました。この時も「先生は泣いとったやろ」と言われました。山田監督が映画を通じて表現したメッセージを私たちは読解する必要があるということです。
 私だけでなく、日本中の人が絶賛しました。この作品は第51回キネマ旬報賞・第1回日本アカデミー賞を受賞しています。伝統あるキネマ旬報賞では、監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞などを受賞しています。
 外国映画も紹介します。
 1975年製作の『JAWS・ジョーズ』です。監督はスティーヴン=スピルバーグ、原作・脚色はピーター=ベンチリーです。主演は、警察署長にロイ=シャイダー、漁師にロバート=ショウ、海洋学者にリチャード=ドレイファスらでした。
 物語は単純です。人間を襲ったサメを、警察署長と漁師と学者が退治したということです。しかし、監督のスピルバーグは、この映画を通じて何を表現したかったのでしょうか。それを私たちは、過去の知識や体験を元に読解する必要があるのです。私は、サメを人間を襲う環境破壊、漁師を勇気、学者を知性と理解します。勇気だけでは解決できません。知性だけでもダメです。そこで、勇気と知性を併せ持った人間のみが環境破壊を解決できるのだと、読解しました。本当にじょーずに出来た映画です。
 私は、死後、あの世で、スピルバーグさんに会って、私の読解力を聞いてみるつもりです。

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