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エピソード

303_02

2007年参院選 自民党の歴史的大敗(2)
 2007年1月4日、安倍首相は、NHKの年頭記者会見で、「今年を美しい国づくり元年として、たじろがずに一直線に進む。憲法改正をぜひ私の内閣で目指していきたい。参院選でも訴えていきたい」と強調しました。産経新聞には「その表情から迷いが消えた」とありました。
 1月22日夜、産経新聞(3月20日付け)によると、「かねてから親交の深いジャーナリストの櫻井よしこや政治評論家の屋山太郎、元駐タイ大使の岡崎久彦ら保守派論客を首相公邸に招いた」「元台湾総統府国策顧問の金美齢も含まれていた」「この櫻井らとの会食は、”今後は自らのカラーを遠慮なく打ち出す”という決意の表れだった」「”やはり自分の判断は誤っていなかった”。安倍は意を強くした」と産経新聞しか分らない歴史修正主義者との内幕を暴露しています。
 1月23日、朝日新聞社の世論調査によると、安倍内閣の支持率は39%、不支持は37%でした。主な理由である「政治とカネ」に関しては「頼りない内閣」が67%を占めました。自民党の支持率は32%で、安倍首相が期待するように(?)さらに低下しました。
 安倍首相が参院選の争点に憲法改正を掲げことを「妥当だ」とする人は32%、「そうは思わない」は48%でした。
 1月26日、産経新聞(3月20日付け)によると、「やはり自分の判断は誤っていなかった」と自信を回復した「安倍は施政方針演説で、持論の”戦後レジームからの脱却”をうたい、憲法改正と教育再生を柱に据えた(資料1)。マスコミ幹部との会合で、施政方針演説について、”理念ばかりで具体性が薄い”と批判されると、”政治家が理念を語らなくてどうする”と気色ばんだ」と書いています。
*解説(こうして丹念に安倍首相の言動を追跡すると、結構、自分の信念を吐露していることが分ります)
 1月27日、柳沢伯夫厚生労働相は、松江市の自民党県議の後援会の集会で、少子化問題にふれた際、「機械と言ってごめんなさいね…15〜50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭でがんばってもらうしかない」などと発言しました。
 1月30日、代表質問が衆院本会議で始まりました。民主党の小沢一郎代表が「憲法改正よりも生活維新を」と迫ったのに対し、安倍首相は、雇用や教育、憲法などを列挙して「いずれの課題にも正面から全力で取り組む」と切り返しました。
 1月30日夜、安倍首相は、首相官邸で記者団に「女性を傷つけることになってしまった。深刻に柳沢大臣も反省をしている。その上に立って職責を果たしていくことによって国民の信頼をまた得るべく努力をしてもらいたい」と述べ、辞任を否定しました。
 2月9日、自民党の谷津義男選挙対策総局長が統一地方選や参院選で「憲法改正はあまり争点にならない」と語ったことに対して、「戦後レジーム(体制)からの船出」を掲げる安倍首相は、「憲法改正を政治スケジュールに乗せることは、私が初めて自民党の総裁・総理として申し上げたことだ」と強調し、不快感を露骨に表現しました。
 2月12日、安倍首相のブレーンでもある八木秀次高崎経済大学教授は、産経新聞に「改正教育基本法の落とし穴に要注意」と題して、次のような記事を掲載しました(資料2)。
 昨年12月、教育基本法が改正された。最大の眼目は、旧基本法の「教育は、不当な支配に服することなく」(旧第10条)の文言に「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」(改正第16条)と付け加えられたことで、(1)「不当な支配」の主体が大転換した(2)教職員に法令遵守を求めた−という点にある。これらは今後、教育界を大きく変えることになろうが、同時に懸念すべき点もある。(中略)。
 注意すべきは地方自治体の条例だ。男女共同参画条例、子どもの権利条例、地球市民条例、人権条例など各地で制定の動きがある条例が遵守すべき「その他の法律」になる可能性は高い。学習指導要領も、策定する文部科学省の教科調査官に特定のイズムの持ち主が就任しているとの指摘もある。今後は「法令」の中身が問題だ。警戒したい。
*解説(安倍首相と共に二人三脚で通した改正教育基本法について、八木氏は心配になってきたらしい。既に私が指摘したように、「国民全体に責任を負う」という文言は、左右の法律や条令に惑わされることなく、普遍的で中立的な立場を保障するものでした。しかし、改正法では、八木氏と主張を異にするする政党や議会が多数を占めると、八木氏と違う教育が行われる可能性が出てきます。それが心配になってきたのです。ボロをすぐ出す点では面白い性格ですが、このような節操のないブレーンが悪いのか、こんなブレーンを周囲に侍らす人物が悪いのか。法律を私物化する見本です。面白い教材ですが、いずれにしても日本の不幸であることには間違いありません)
 2月18日、自民党の中川秀直幹事長は、仙台市の講演で「閣僚・官僚は総理に対し絶対的な忠誠、自己犠牲の精神が求められている。自分のことを最優先する政治家や、出身省庁を大事にする官僚は内閣・官邸から去るべきだ」と述べました。さらに、閣僚や自民党役員の会議などでの振る舞いを念頭に「首相が入室したときに、起立できない政治家、私語を慎まない政治家は、美しい国づくり内閣にふさわしくない」と批判しました。これは安倍首相のリーダーシップへの疑問の声が出るなか、官邸スタッフに注文をつけたことになります。
 2月20日、朝日新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率は37%、不支持率は40%、支持と不支持が初めて逆転しました。これまでの仕事については「期待外れだ」が37%、「もともと期待していない」32%で、合計すると69%にも達しています。それを反映して自民支持率は29%とさらに下落しました。
 2月22日、安倍首相は、中川秀直幹事長と会談し、郵政民営化をめぐって造反して落選した衛藤晟一前衆院議員を復党させ、参院比例代表の公認候補とするよう指示しました。衛藤氏は、首相にとって初当選以来の「親友」で、歴史問題などで首相の相談役でした。周囲からも「兄弟のような関係」と揶揄される間柄でした。
 しかし、郵政造反組の復党で内閣支持率が急落したため、中川氏は衛藤氏の復党に消極的でした。石原伸晃幹事長代理らも「復党させない方針」を決めていました。
 にも関わらず、自民党総裁が幹事長に強権を発動した理由として、安倍首相は、周囲に「郵政民営化はすでに終わったことだ。政権にとって必要な人材を公認するのは当然で、政治家の信義の問題だ。支持率は関係ない」と語ったといいます。
*解説(参院選を考慮して、無所属の造反議員の復党も認めたのも安倍首相です。親友だとして造反落選議員の復党を認めたのも安倍首相です。首相という公的立場にありながら、私的関係を優先させたのです。参院選を考慮しながら、支持率は関係ないというのです。これを矛盾といいます)
 2月24日、民主党長妻昭議員の質問に、安倍首相は「年金そのものへの不安をあおる危険性がある」と答弁しました。
 2月26日、安倍首相は、中川秀直幹事長が首相に対する閣僚らの姿勢に再び注文をつけたことに、うんざりした様子で記者団に「たいした心配にも、それほど心配していただくにも、及ばないと思いますが…」と苦笑交じりに反論しました。
 3月5日、松岡農林水産相は、参院予算委員会で、「水道は『何とか還元水』とかいうものを付けている」と答弁しました。これは、無償の議員会館に設置している松岡氏の事務所が2001〜2005年に計約2880万円を「光熱水費」として計上していることを追求されて、答弁したものです。
 3月7日、松岡農林水産相は、参院予算委員会で、政治資金管理団体の光熱水費をめぐる問題について、「開示は現行制度が予定していない。差し控えさせていただきたい」とか「確認したところ、適切に報告しているということだった。現行制度に基づいてすでに報告すべき点は適切に報告している」とか「適切に報告している」という表現を23回繰り返しました。
 3月27日、朝日新聞の社説は、「安倍政権半年―これが美しい国なのか」と題して、「滑り出しのわずか半年で、政治への信頼を揺るがせる出来事がこんなにも頻発した政権がかつてあっただろうか。これほど明白な疑惑を不問に付したままで、いくら美辞麗句を連ねて理念を語っても、国民は納得するだろうか。世論の批判に抗して松岡氏をかばい続けることが、戦う政治家の姿だとは思いたくない。」と書いています。
 4月2日、朝日新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率は37%、不支持率は43%で、この傾向が定着しているとありました。政党支持率は自民が30%でした。
 4月12日、国民投票法案は、衆院憲法調査特別委員会で与党の賛成多数で可決されました。
 4月13日、国民投票法案は、衆議院本会議において、自民・公明の起立多数で委員会報告のとおり可決され、参議院に送付されました。
 5月11日、国民投票法案は、参議院憲法調査特別委員会で、自民・公明の起立多数で可決されました。この際、18項目にわたる附帯決議がなされました。
 5月14日、国民投票法案は、参議院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数(賛成122、反対99)で委員会報告のとおり可決され、成立しました。憲法を改正する手続法である国民投票法案が誕生しました。
 5月15日、朝日新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率は43%、不支持率は33%で、政党支持率は自民が33%でした。
 5月17日、安倍首相は、最近のメールマガジンに「選挙は国民のみなさんに自らの考えを説明し、議論する重要な機会です。国家ビジョンにかかわる憲法論議を避けることは、不誠実と考えます」と書き込みしました。
 5月20日、テレビ番組で、自民党の船田元・前憲法審議会長は、「憲法改正は3分の2以上の国会勢力が必要。首相の考えだと、与党が参院選で3分の2以上とらないと論理がおかしくなる」と発言しました。民主党の枝野幸男憲法調査会長も「3分の2に到達できなければ安倍さんは責任をとるのか」と迫りました。
 5月21日、安倍首相は、記者団に「憲法改正草案について、我が党の考え方はこうだと国民の皆様に示しながら国民的な議論を進めていきたい」と語りました。
 5月23日、衆院予算委員会で、民主党の岡田克也元代表から追求された松岡利勝農林水産相は、「法律にのっとり、適切に報告した。それが説明に代わる」と答弁しました。ついで、岡田氏は「松岡大臣の答弁で『説明責任』を果たされているとお考えですか」と質すと、安倍首相は、「法に定められているものの中におきまして、松岡大臣は責任を果たした、と考えております」と擁護しました。
 当時の新聞の論調を拾ってみると、西日本新聞は「言を左右して説明を拒み続ける閣僚と、その閣僚をかばう首相の態度は、国民の目にどう映るだろうか。政治不信の加速が心配だ」と書いています。
 中日新聞の社説は「松岡農相 かばう首相の見苦しさ」と題して、「政治資金規正法をこんなふうに盾にする厚顔無恥は、政治家の中でも珍しい」「口ごもる首相の答弁もまた“壊れたレコード”であった。「農相は法に基づいて説明している」」と手厳しく表現しています(資料3
*解説(新聞の論調もさることながら、ブログでも、庶民は誤魔化す閣僚を擁護する首相には、清潔性・指導性が欠陥していること見抜き始めています。「このような人物に憲法や教育を語る資格はあるか、政治を任せられるか」と問うています。この段階で、庶民は、安倍晋三首相や安倍内閣を見限っています。これでは参院選には勝てませんよ)
 5月23日、民主党の長妻昭氏は、衆院予算委員会で、「宙に浮いた年金記録5000万件」について質問しました。柳沢厚生労働相は、「特別の調査をして『(年金記録の)統合漏れの可能性があります』と知らせる」と初めてその事実を確認しました。社保庁はこれまで「年金を受け始める時点で記録を徹底調査しており、支給漏れはない」として改めて調査する必要はないとしていました。しかし、長妻氏の追求に耐えず、この方針を変えました。
 5月24日、安倍首相は、松岡氏に国民の批判が強まっていることについて、記者団に、「農業、水産分野の専門家で実績も挙げている。オープンな姿勢で農業に活力を与えながら輸出も増やす、攻めの農政を進めていく上で必要な人材だ」と指摘し、重ねて擁護する姿勢を表明しました。
 5月26日、産経新聞によると、農林水産省所管の独立行政法人「緑資源機構」の談合疑惑に関して、松岡農水相の有力支援者が「談合調整役」を務めていた疑いが浮上したとあります。この支援者は、松岡農水相側に過去10年間で計約1600万円を献金する一方、中山間地域整備事業を億単位で受注していました。
 5月28日、松岡農水相は、衆議院議員宿舎で首つり自殺を図った状況で発見され、慶應義塾大学病院に搬送されたが死亡しました。現職国務大臣が自殺するのは現行憲法下では初のことで、大きな衝撃を与えました。
 猪瀬直樹氏は、道路関係四公団民営化推進委員会委員時代、松岡氏から「お前はタリバンか」と罵声を浴びせられた経験があります。猪瀬氏は、「この人が大臣になったら、足を引っ張ることになるのは、報道関係者なら誰でも目に見えていたことだ」と指摘し、任命権者である安倍首相の責任を糾弾しています。
 5月29日、松岡農水相が自殺する前の朝日新聞世論調査(26日・27日)によると、安倍内閣の支持率は36%、不支持率は42%、政党支持率は自民29%でした。「リーダーシップがある」は安倍氏31%、小沢氏43%でした。
 6月4日、朝日新聞の世論調査(2、3日)によると、安倍内閣の支持率は30%、不支持率は49%で、政党支持率は自民28%でした。松岡前農水相の政治資金をめぐる疑惑について、安倍首相の対応が「適切ではなかった」は69%でした。
 6月5日、与党支持を打ち出している産経新聞の世論調査でも、安倍内閣の支持率が32.3%、不支持率は49.2%となっています。しかし、産経らしい主張もしています。「憲法改正や教育再生などを通じて国のあり方を見つめ直し、主張する外交を展開しようといった政権の基本的姿勢は、時代に合致したものだ。政権のメッセージが国民に十分に伝わっていないとすれば、首相はもっと説明の仕方を工夫すべきだ」。しかし、「深刻なのは、首相の指導力について7割近くの人が評価しておらず、その傾向がより強まっていることである」というジレンマも正直に吐露しています。
 6月16日、自民党の青木幹雄参議院議員会長は、講演で、「責任者は安倍総理。責任の所在をはっきりして戦う参院選だ」と言及しました。
 6月20日、教育関連3法は、参院本会議で、強行採決され、自公両党の賛成多数で可決され、成立しました。
 6月21日、舛添要一参議院政審会長は、TV番組で、「会期延長は総理の責任でやった。参院選で大敗すれば翌日、内閣総辞職だ」と語りました。
 6月21日、安倍首相は、青木氏や舛添氏の参院選責任論について、記者団に「私たちの使命は技術的に選挙の勝利を考えることではなく、国民や国のために何をすべきかだ。そうでない政治家は辞めた方がいい」と強い不快感を示し、さらに「参院選では私の信念も含め、国民の審判を仰ぎたい」と主張しました。
 6月22日、衆院本会議で、6月23日までの今国会の会期を7月5日まで12日間延長することを自民、公明両党の賛成多数で議決しました。その結果、参院選も7月12日公示、29日投開票と延期されました。
10  6月29日、政治資金規正法の一部を改正する法律案は、参院本会議で、強行採決され、民主党案を否決し、自公両党の賛成多数で可決・成立しました。その内容は、「資金管理団体は、経常経費のうち光熱水費、備品・消耗品費及び事務所費の1件当たり5万円以上の支出について、収支報告書の提出の際に、領収書等の写しを併せて提出しなければならないものとすること」でした。
 民主党案は「資金管理団体のみならず、すべての政治団体の1万円を超える事務所費等の支出について、政治資金収支報告書への領収書の添付と支出明細の記載等を義務付ける」というもので、自民党案はザル法と言われていました。
 TV討論で、「政治団体にも適用すべきだ」という質問に対して、安倍首相は、「7万ほどある政治団体でどこまでが国会議員関連か法制上、区別できない」と政治団体にも適用することを拒否しました。
 6月30日、社会保険庁改革関連法と年金時効停止特別措置法は、参院本会議で、強行採決され、自公両党の賛成多数で可決され、成立しました。
 6月30日、安倍首相が成立に執念を見せていた改正国家公務員法は、参院本会議で、与党の賛成多数で可決され、成立しました。与党は、参院内閣委員会で採決しなかった藤原正司委員長(民主党)に「中間報告」を強いた上で本会議で直接採決する強硬手段をとって採決しました。7月5日まで延長した国会は、この日で事実上閉幕しました。
 6月30日、久間章生防衛相は、講演で、945年8月に米軍が日本に原爆を投下したことについて「原爆を落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で今、しょうがないなと思っている」と述べました。これに対して、安倍首相は「米国の(当時の)考え方について紹介したと承知している」と記者団に、問題はないとの認識を示し、擁護しました。
11  7月2日、朝日新聞の論調査によると、安倍内閣の支持率は28%、不支持は48%、政党支持率は自民25%となっています。
 7月3日、久間防衛相は、「しょうがない」発言について、「参院選への影響も懸念して」辞任しました。
 7月5日、民主党は、衆院決算行政監視委員会で、安倍首相の出席を求めて、年金記録不備問題や辞任した久間前防衛相の原爆投下を「しょうがない」とした発言を追及する予定でしたが、与党が“審議拒否”して流会となる珍事がありました。衆院事務局は、今回の事態を「聞いたことがない」と話しています。
 7月7日、松岡前農水相の後任である赤城徳彦農水相に事務所費問題が浮上しました。安倍首相は「赤城さんは、しっかりと説明されたと聞いている」と述べ、問題視しない考えを示しました。
 7月10日、クリーンなはずの赤城農水相は、「政治資金規正法にのっとって処理している」とダーティな松岡前農水相と同じ発言を繰り返しています。安倍首相が強行採決までして成立させて改正政治資金規正法がザル法だったことがワイドショーでも暴露され、庶民に政治家の糊塗的手法が見破られました。絶望的です。
 7月12日、参議院選挙が公示されました。
 7月17日、赤城農水相は、頬と額に大きく目立つ絆創膏を張り、記者会見に臨みました。記者の質問に、赤城氏は「大したことはない」と7回も繰り返す異様な光景でした。説明責任を果たせない大臣に不信感が募り、そんな人物を大臣に抜擢した安倍首相の無能さを多くの人は感じたものでした。言葉は勇ましく、美しいが、することが伴っていないという安倍晋三その人の資質に疑問を持ったのです。バンソウコウは安倍首相の象徴にもなりました。
 7月19日、麻生太郎外相は、講演で、国内外の米価を比較する例え話の中で「7万8000円と1万6000円はどちらが高いか。アルツハイマーの人でもわかる」などと発言しました。選挙戦に突入しているにもかかわらず、閣僚から命取りになるような発言が続発します。「安倍内閣の緊張感のなさ」のなせる業(ワザ)と人々は嘲笑しています。
 7月22日、産経新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率は29.1%で、初めて30%以下となりました。
 7月22日、産経新聞・FNN(フジニュースネットワーク)の世論調査によると、自民の獲得議席は、橋本龍太郎首相が退陣した平成10年の44議席前後にとどまる可能性が強く、自公両党でも過半数割れ濃厚としています。
 7月27日、朝日新聞の世論調査によると、自民は40議席を下回る可能性があるとしています。
12  7月29日午後、自民党の森喜朗元首相・青木幹雄参院議員会長・中川秀直幹事長の3人は、「自民党の獲得議席が30台後半になる可能性が高い」との認識で一致し、安倍首相本人に「続投は困難」と伝えました。しかし、安倍首相は「いかなる結果になろうとも首相を続ける」と続投に強い意欲を示したため、森氏らも続投を受け入れたといいます。
 7月29日9時半、自民の大敗が濃厚な中、安倍首相は、「私の国造りはスタートしたばかりで、総理としての責任を果たしていかなければならない」と述べ、続投する考えを示しました。朝日新聞の投票者への出口調査では、全体の56%が安倍首相に「代わってほしい」と答えています。有権者は、憲法改正を軸とした「戦後レジームからの脱却」にも安倍首相の指導性にも「ノー」という審判を下しました。余りに早すぎる続投宣言に批判が出ました(資料3)。
 7月30日、安倍首相は、記者会見で「内閣の基本路線は国民の理解を得られている根拠は何か」と問われ、「(街頭演説での)聴衆の反応でそう感じた」と答えました。
*解説(私も忠臣蔵に関する講演を数多くしてきましたが、動員された聴衆か、聞きたくて集まった聴衆かは、感覚的に分ります。安倍首相の応援演説を受ける側は気を使って大量動員をかけます。ある陣営は、「出席だけとって、直ぐ帰っていく人が多かった」と分析しています。民衆の風を読めないリーダーは去るべきです)
 7月30日、安倍首相は、記者団に、「すべての責任は私にある」「政権の基本路線は多くの国民に理解されており、間違っていない」と語っています。憲法改正など「美しい国」「戦後レジームからの脱却」路線が国民の支持を得たのかどうかには触れず、「憲法問題は選挙戦では詳しく話す時間がなかった」と発言していますが、ここで詳しく見てきたように再三にわたって、選挙の争点にするといって、色々な場所で憲法について発言してきています。
 勝利すれば理解さたと奢り、敗退すれば時間がなかったと敗戦の弁を語る。敗戦の将は、兵を語らぬものです。つまり、安倍首相には将たる器量がないということです。
 7月31日夜、安倍首相は、記者団に対し、参議院選挙の結果を受けて行う内閣改造について、「赤城農林水産大臣も含めて、人心を一新していく」と述べました。
*解説(松岡農水相の自殺という安倍内閣ピンチに、安倍首相が抜擢したのが赤城徳彦氏です。選挙前は徹底的にかばいまくり、参院選で歴史的大敗すると、元凶とばかりに、トカゲの尻尾きりのように、名指しで解任を示唆する。これは、赤城氏に政治家失脚の烙印をおし、政治の舞台から抹殺する可能性のある危険で非情な仕打ちです。これが戦後レジームの脱却を目指す闘う政治家のすることでしょうか。これが目指す美しい国の姿でしょうか)
13  8月1日、名指しされた赤城徳彦農水相が辞任しました。
 8月1日、安倍首相のブレーンである岡崎久彦氏は、産経新聞の【正論】で、「安倍総理は所信をまげず進め」と題して次のような記事を掲載しました。
 「安倍晋三という人は不思議な人である。ものすごく大事なことを−むしろ大事なことに限って−誰にも相談せずに自ら決断してブレない。…今回も、私の知る限り、誰に相談したのでもないのであろう。それが正しいと自分で判断して、如何に雑音、批判があろうとも、そこからブレそうもないのである」。
*解説(1月22日の産経新聞の記事を再度見て欲しいと思います。支持率が下がってブレようとした安倍首相にカツを入れたのが岡崎久彦氏らです。その結果、「やはり自分の判断は誤っていなかった」と自信を回復した安倍首相は持論の「戦後レジームからの脱却」「憲法改正と教育再生」を参院選の争点にしたのです。「如何に雑音があろうともブレないのである」とのたまう。そうなんです。有権者の投票結果は雑音で、岡崎氏の助言は雑音ではないのです)
 8月1日、安倍首相からの政治資金規正法再改正の指示を受けた中川秀直幹事長は、記者会見で、「政治団体全体を対象に、1円以上から領収書を公開するのが民意の大勢だと受け止めている」と発言しました。
*解説(岡崎氏からブレない政治家と持ち上げられたその日に、ブレてしまったお粗末な内容です。こういうブレーンを重用するということは、安倍首相も同類ということです。人心一新を望むなら、こういう歴史修正主義者から一新しないとダメだということです)
 8月2日、産経新聞が伝えるFNNの世論調査によると、安倍内閣の支持率は22.0%、不支持は64.8%となっています。政党支持率は、自民党が23.0%、民主党が32.8%です。安倍首相の指導力への評価は8.1%で、応援団長を任ずる産経新聞の複雑な胸の内が読み取れます。
 8月3日、安倍首相のブレーンである西岡力東京基督教大学教授は、産経新聞の【正論】で、「民意は安倍政権の拉致政策を支持」と題し、その根拠として、次のような記事を掲載しました。
 「これまで、拉致問題解決のために尽力してきた自民党の中山恭子、衛藤晟一、民主党の森裕子の3氏が激戦の中、当選したこともそのことを象徴している。これが民意である」
*解説(私は「なんの根拠もない」と思うのですが、せめて、ブレーンはこう思わないと自分を納得できないのでしょう。その落差を感じます)
14  8月7日、読売新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率は27%です。
 各紙の世論調査も出揃いました。安倍内閣の支持率をおさらいしました。
 8月1日の日経新聞は28%、8月2日のFNNは22%、朝日新聞は26%、8月6日の毎日新聞は22%です。ともかく22〜28%で、専門家はこの数字を危険水域とコメントしています。
 8月7日、毎日新聞は、「防衛省:守屋事務次官退任へ 後任は西川官房長」と報道しました。これを新聞で知った防衛庁出身の守屋武昌防衛事務次官(62歳)は、「事前に伝えて欲しかった。許せない」と激しく反発し、警察庁出身の西川徹矢防衛省官房長(60歳)を「恥を知れ」と怒鳴りつけたといいます(朝日新聞)。
 8月9日、平沼赳夫氏(1997年2月当時「つくる会幹事長」)は、「『少年官邸団』が耳に入れる小事に耳を貸しすぎたことに多くの有権者が不信の念を抱き、参院選の結果になった」との意見を『文藝春秋』9月号に掲載しました。
*解説(安倍首相(52歳)を最もよく知る1人の平沼氏(68歳)が「小事に耳を貸しすぎた」と指摘しています。別な部分では、「骨のある政治家」と評価していますが、本心は、大将の器でないということを暴露しているのです)
 8月13日、塩崎恭久官房長官(56歳)は、「首相の了解を得た」と主張する小池百合子防衛相(55歳)のこの人事案を拒否しました(神戸新聞)。
 8月14日、朝日新聞は、「小池防衛相・守屋次官が休戦、(27日の内閣改造まで)人事を棚上げ」と報道しました。しかし、両者は、携帯電話に関して「危機管理問題」のバトルを繰り返しました。
 8月15日、安倍首相(52)は、人事問題について「検討会議は官房長官が開く」と塩崎氏の顔を立てる一方、「当然、大臣がしっかり統率していかなければ」と述べただけで、2人の調整に乗り出す様子はなく、あくまで静観する構えのままでした。
 8月17日、ワイドショーが連日のように取り上げる事態になって、安倍首相は、塩崎官房長官に早期収拾を指示しました。その結果、守屋事務次官を退任させ、後任には増田好平人事教育局長(56歳)を起用することを内定しました。守屋氏の推薦する山崎信之郎運用企画局長(60歳)でもなく、小池氏が推薦する西川氏でもなかったことで、新聞は 「痛み分け」と表現しました。橋本内閣の首相秘書官だった江田憲司氏は「官房長官を務めた首相が、検討会議の意味を理解していなかった。使う人の能力次第だ」と批判しています(神戸新聞)。
*解説(選挙後、「反省すべきは反省し…」と壊れたレコードのように繰り返す安倍首相です。今回の騒動を見ても決断力・指導力不足が露見しました。「反省すべきは」と言ってますが、何を反省すべきかも分っていないのではないでしょうか。
 相変わらず「美しい国」「戦後レジームからの脱却」と言っています。戦前、「神国日本」「八絋一宇」「大東亜共栄圏」など美しいが空虚な言葉で日本を破滅に導いた指導者がいました。こういう人に日本の命運を預けて本当にいいのでしょうか。心配です)
 ここまでの記事は、8月17日に書いています
15  この項は、9月12日に書いています
 8月27日、産経新聞は、「安倍改造内閣、重厚な布陣に 挙党態勢の構築目指す」と題して、安倍新内閣を紹介しています。
 9月8日、安倍首相は、シドニーで、海自の給油活動について、「対外的な公約」「国際公約となった以上、職を賭して取り組む」「あらゆる力を振り絞って職責を果たしていく」「(継続できなければ)職責にしがみつくことはない」と同行記者団に語りました。
 9月10日、安倍首相は、所信表明をしました。
 9月11日、産経新聞は、「主張」(社説)で、次のような記事を書いています。
 安倍晋三首相が外遊先での記者会見で、インド洋での海上自衛隊による給油活動の延長に「職を賭して」取り組む姿勢を示した。所信表明演説では「ここで撤退し、国際社会における責任を放棄して本当にいいのだろうか」と、国民や民主党に呼びかけた。
 9月11日、朝日新聞は、「社説」で、「首相の決意と覚悟は混乱している」と主張しています。
 9月12日、TVは、安倍首相の退陣を伝えました。新内閣を発表して、約2週間です。所信表明をして3日目です。多くの人の意見は、「余りにも無責任!」でした。
 日本には「立つ鳥跡を濁さず」という美しい言葉があります。しかし、「美しい国」など空虚で無意味な美しい言辞を弄する人の散り際とはこういう「醜い」ものです。
 「安倍総理が続投の意思を明らかにされたので、とりあえず安堵(あんど)した」という文章は誰の記事かお分かりでしょうか。安倍ブレーンの1人である元駐タイ大使・岡崎久彦氏の産経新聞【正論】の一節です(8月1日付け)。
 安倍首相が悪いのか、歴史修正主義者が悪いのか、いやその両方共が悪いのです。私は実証主義の基づく保守の言論もあっていいと思います。しかし、歴史修正主義の保守は、日本を滅ぼすと信じています。戦争への道に邁進する前に、歴史修正主義の破綻を、劇場的に、多くの人が目にすることができて、「本当によかった」と思います。
 そういう意味で、「保守の星」安倍さん、ありがとう!!という言葉をプレゼントしたいと思います。
バカにつける薬はない(舛添要一氏)
 選挙のために登場し、選挙のために造反組みを復党させ、選挙用に戦後レジームからの脱却を唱え、参院選に勝つために実績を強調しようと22回の強行採決、闘う政治家を国民に宣伝してきました。
 ワールドカップ用に招聘された監督が、多くの人からの異論を排除して、問題のある選手を投入し、試合に負けた場合、その監督はどういうか。「私の理論を理解してもらったが、浸透するには時間が不足した」といって続投に固執する監督はいるでしょうか。この監督に抜擢されたコーチらは、続投を支持するでしょう。解任されたら、自分たちの発言力が低下します。現実には、スポーツの世界では、ありえない話です。勝てば選手の手柄、負ければ監督の責任というのが常識なのですから…。
資料1 第166回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(2007年1月26日)
(はじめに)
 昨年9月、私は、総理に就任した際、安倍内閣の目指す日本の姿は、世界の人々が憧れと尊敬を抱き、子どもたちの世代が自信と誇りを持つことができるように、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた「美しい国、日本」であることを国民の皆様にお示ししました。この新しい日本の姿の実現に向け、国民の皆様とともに、一つ一つスピード感を持って結果を出していくことが重要だと考えております。引き続き、日本の明るい未来に向け、全力投球することをお約束いたします。
 私は、日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたい、と考えます。
 そのためには、終戦後の焼け跡から出発して、先輩方が築き上げてきた、輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません。憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです。我々が直面している様々な変化は、私が生まれ育った時代、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が三種の神器ともてはやされていた時代にはおよそ想像もつかなかったものばかりです。
 今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべきときが来ています。「美しい国、日本」の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であります。
 自由民主党及び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、「美しい国創り」に向けたあらゆる政策を断固として実行してまいります。今後、具体的にどのように取り組んでいくのか、安倍内閣として国政に当たる基本方針を申し上げます。
資料2 産経新聞(2007年2月12日)
「【正論】八木秀次 改正教育基本法の落とし穴に要注意」
 ■遵守すべき「法令」の中身が問題
 ≪法律の定めるところで≫
 昨年12月、教育基本法が改正された。最大の眼目は、旧基本法の「教育は、不当な支配に服することなく」(旧第10条)の文言に「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」(改正第16条)と付け加えられたことで、(1)「不当な支配」の主体が大転換した(2)教職員に法令遵守(じゅんしゅ)を求めた−という点にある。これらは今後、教育界を大きく変えることになろうが、同時に懸念すべき点もある。
 旧基本法第10条は、その原案としてGHQ民間情報教育局が「教育は、政治的または官僚的な支配に服することなく」との文言を文部省に通告し、最終的に「教育は、不当な支配に服することなく」との表現になった制定の経緯もあって、長らく左派系教職員組合や連動する教育学者から「不当な支配」の主体として教育行政が想定されてきた。そのため、文部科学省や教育委員会が教育内容に関与することは「不当な支配」とされた。昨年10月、いじめ自殺の問題で、文部科学省の小渕優子政務官や教育再生会議の山谷えり子事務局長らが福岡県筑前町で現地調査しようとしたが、現場が拒否した背景にも国の調査を「不当な支配」として排除しようとする教職員組合の存在があったことが知られている。
 このように、従来は教育行政の関与を「不当な支配」として排除し、逆に一部の教職員組合や連携する民間団体の“不当な支配”を招いてきた。そのことは、昭和60年、広島県で知事・県議会議長・教育長が同和団体、教職員組合などと「八者合意」を結び、県の教育行政を一部の同和団体に牛耳らせてきたことに典型的に示されている。
 ≪イズムの「不当な支配」≫
 これに対して改正教育基本法は「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」との文言を付け加えることによって、教育行政の教育内容への関与は「不当な支配」ではなく、逆に法律を破ったり、無視して特定のイデオロギーを教育現場に広げる一部の教職員組合や民間団体こそが「不当な支配」の主体であることを明確にした。この点は伊吹文明文部科学大臣が繰り返し国会で説明している。
 「法律に基づいて行われる教育行政というものは、これはもう不当な支配に属さない、堂々と正当なものであるんだということをはっきりしていただいてるわけですから、むしろ各教育委員会が徹底しなければならないのは、特定の組合に属している教職員の人たち、そういう人たちにこのことをはっきりと分かってもらわねばなりません」(11月15日、衆議院教育基本法特別委員会)
 また、学習指導要領は教職員に国旗掲揚・国歌斉唱の指導義務を課しているが、伊吹大臣は「文部科学大臣告示」である学習指導要領に基づいて行われる教育は「不当な支配」に当たらないと指摘するとともに、「不当な支配」の規定は「学習指導要領によって全国一律の教育の内容を担保しているわけですから、それと違う内容をイズムによって教えたり、あるいは特定の団体が、結局その団体の考え方でもって教育を支配するということを排除する条項」であると説明している(11月22日、参議院教育基本法特別委員会)。特定のイズム(主義)や考え方によって教育を支配する団体、例えば、日教組など左派系教職員組合の影響力を排除することこそが改正基本法第16条の趣旨に他ならないと述べているのだ。
 ≪狙われる「自治体条例」≫
 こうして教育から排除されるべき「不当な支配」の主体は教育行政から教職員組合へと転換した。これにより日教組などはその活動に大きな制約を受けるであろう。しかし、安心は禁物だ。
 これまでは日教組などは学習指導要領をはじめとする法律を破ったり、無視して自らのイズムを教育現場に浸透させていった。だが、今後は法令遵守が求められる。それゆえこれからは自らのイズムに沿った法律を作らせて、「法令遵守」の名の下にイデオロギーの濃厚な教育を行うことが予想される。
 男女共同参画社会基本法はじめ国の法律を使うことは言うまでもないが、注意すべきは地方自治体の条例だ。男女共同参画条例、子どもの権利条例、地球市民条例、人権条例など各地で制定の動きがある条例が遵守すべき「その他の法律」になる可能性は高い。学習指導要領も、策定する文部科学省の教科調査官に特定のイズムの持ち主が就任しているとの指摘もある。今後は「法令」の中身が問題だ。警戒したい。(やぎ ひでつぐ=高崎経済大学教授)
資料3 中日新聞社説(2007年5月24日)
 いまだに説明責任を果たさない人が閣僚で居続ける政治のレベルに暗たんとする。金銭の絡む疑惑をそのままに、かばう首相の言葉が空々しい。この倫理の鈍感さは、政権のおごりというほかない。
 厚顔無恥と攻め疲れ。「政治とカネ」を主題とする衆院予算委員会の集中審議に、多くの人はそういう感想を持ったのではないか。
 就任してほぼ八カ月の間、折に触れ野党の追及を受けてきた松岡利勝農相は、相変わらずの居直り答弁を繰り返した。「法に従い適切に報告している」と。
 疑惑の詳細はもう書き連ねる必要もないだろう。「ナントカ還元水」に象徴される、政治資金のいかがわしげな使途が問題の核心だ。
 「適切な報告」そのものの信ぴょう性が厳しく問われているというのに、法の趣旨を都合よくねじ曲げて具体的な説明を拒絶する。政治資金規正法をこんなふうに盾にする厚顔無恥は、政治家の中でも珍しい。
 手を替え品を替えの追及にも平然と同じ答弁が何度も繰り返される。攻め疲れの野党が矛先を安倍晋三首相に向けるのも当然である。
 民主党の岡田克也氏は首相に「農相は説明責任を果たしていると考えるか」と迫っている。自民や公明の与党幹部でさえ農相の説明の不十分さを指摘しているではないか、かばう首相が国民の政治不信を倍加させている、というわけだ。
 口ごもる首相の答弁もまた“壊れたレコード”であった。「農相は法に基づいて説明している」。そして首相は民主党代表の小沢一郎氏の不動産取得問題に話を振った。内閣の最高責任者の認識を聞かれているのに、それにはほおかむりで他者の問題をあげつらうのは、見苦しい。
 農相には倫理欠如を疑わせるような献金受領問題も発生している。農林水産省所管法人「緑資源機構」の官製談合事件で名の出た、請負業者らの政治団体やその会員企業、経営者から多額の献金を受けていた。法の認める範囲、との強弁を、これ以上世間が容認するとは思えない。
 与党は週明けに、資金管理団体の不動産取得禁止や、五万円以上の経常経費に領収書添付を義務づける旨の法改正案を国会に出すそうだ。
 資金管理団体以外の政治団体にも適用すべきでないか、五万円では実効性は薄い、との指摘にも、首相はまるで人ごとの答弁をしている。一体どこが新時代のリーダーか。
 尾を引く松岡問題に自民の参院選候補からも怨嗟(えんさ)の声が聞こえる。これを放置して憲法や教育を語る資格はあるか。あらためて問うておく。
資料4 週刊文春(2007年8月9日号)
 週刊文春最新号の特集記事から抜粋引用
舛添要一激白「バカにつける薬はない」「決定的に資質に欠ける」
 まだ開票作業がはじまって間もない21時30分。ニュースで「安倍首相、続投の意向」との一報が流れた瞬間、舛添要一氏は次のように吐き捨てた。
 「バカだよなー。まだたたかっている候補がいるのに、なぜこの段階で言う。(自民党は)安倍のために政治をやっているんじゃない。知恵をつける奴がいない。バカにつける薬はないよ!」
 選挙前から安倍政権に対して異を唱え続けた舛添氏が、怒りの胸中を激白した。
 ペナントレースをやっていて、試合が終わっていないのに監督が続投っておかしいでしょ。監督に責任がないというようなもの。「閣僚が悪い」というけれど、監督があのピッチャー(閣僚)を選んだんだろうって。安倍さんも、一度野球をやってみるといい。
 参議院選挙の敗因には、三つの原因があると思います。一つ目は年金。二つ目は安倍政権の構造的問題。三つ目は小泉改革のマイナス面です。こっちは命がけで野党と闘っているのに、敵の弾にやられるならまだしも、後ろから弾を撃ってくる。毎日のようにバカ大臣やバカ副大臣が失言、不祥事をやらかす。これじゃ闘えない。その不信感が大きかった。
 松岡さんや赤城君の事務所費問題のときも、安倍さんはすぐに「問題ないと聞いている」と言った。決断が早すぎるし、間違った判断をしている。今回の「続投発言」のタイミングもそうです。結果が出る前に続投を宣言しても、誰の同情も買わないし、みんな反発しますよ。安倍さんは周囲のいうことを素直に聞いてしまうのでしょう。人はいいのかもしれないけれど、政治家としての資質を決定的に欠いています。
 選挙の間にも、すでに続投というようなことをいう。やっぱり総理の器というか、リーダーの資格があるのかなと皆思っています。常識なら辞めるんだけど、そこは辞めないという。
 安倍さんはあくまで自民党員が選んだ総裁で、国民が選んだわけではありません。衆議院の三分の二議席だって、小泉前首相が取ったもので安倍さんが獲得した議席ではない。だから国民の審判を謙虚に受け止め、耳を傾ける必要があるのです。
 化石と若造の官邸
 (続投発言によって)安倍さんも自民党も永遠に政権から離れてしまう可能性がある。永遠に野党になってしまう可能性がどんどん出てきている。安倍さんは続投できるかもしれないが、自民党を自滅に追い込む道を選んでいる。それを分からせる人がいない。
 官邸にも問題がある。小泉さんのときは塩ジイ(塩川正十郎元財務大臣)がいた。中曽根さんのときは後藤田官房長官がニラみを効かせていた。いまは的場(順三)という副長官がいるけど、オヤジの安倍晋太郎さんのときにいた人で、化石みたいになって使い物にならない。他はなにも知らない”若造官邸”ですよ。
 安倍内閣を「バカ社長にバカ専務」と言った気持ちは全然変わっていません。ボンボンでもなんでも社長に祭り上げるのはいいわけですよ。どこでも二代目社長、三代目社長はいる。そういう会社は、(社長が)バカだとわかっているけど、周りの専務たちがしっかりしているからもっているわけです。だけど、ボンボンのうえに周りの番頭たちも駄目だから駄目なんです。いまやらなければならないのは、それを替えることに尽きます。
 参議院選挙では民主党が躍進し、自民党結党後、初の与野党逆転を果たした。図らずも「戦後レジームからの脱却」を果たした首相に、舛氏はこう注文を付ける。
 私は安倍さんの続投がいい決定とは思わない。全ての責任はトップにある。辞任すべきだと思っています。だけどフライングして走っちゃったものだから、(自民党の)中にいる人間が連れ戻すわけにもいかない。「おい、ちょっと」と言って、また変な方向に走り出さないようにするしかない。”安倍降ろし”をやっている余裕はいまの自民党にはないですよ。
 だからまずは人臣の総ざらい、問題あった役職、大臣は全部切らないといけない。ピシッとした内閣をつくる。そこが最後ののぞみです。
 ただ、内閣改造はすぐにやらないと駄目。九月まで待てよ、というのはアウトです。バンソウコウ王子をあと四十日間、連れまわって(内閣が)もつと思いますか?赤城大臣じゃもちませんよ。おそらく8月8日に臨時国会を開くだろうから、勝負はそれまでの一週間で内閣改造をできるかどうかです。これはバカが考えてもわかることです。
 上に見たようにこれほどひどい中傷・誹謗を投げつけられた総理大臣はいただろうか。美しい国を作ろうとした首相からこのような悲しい体験を味わわされるとは思ってもいませんでした。

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