梅棹忠夫著『知的生産の技術』(岩波新書)との出会い
そんな時に出会ったのが、京都大学の梅棹忠夫氏である。私は卒業生から英文タイプライターをも
らっていた。尊敬する先輩の大切な物ではあるが、私にとって無用の長物であり、捨てるわけにもい
かず、押入れに眠っていたタイプライターをよみがえらせてくれた恩人である。梅棹氏は小型の英文
タイプライターを常に携帯していて、旅行の移動中に膝の上でローマ字で記録を残すという。この記
録方法に驚きを感じたものです。
『知的生産の技術』の要点
英文タイプライターの使い方を紹介している記事が『知的生産の技術』という本である。要点はどん
な小さい史料でも1枚のカードに記録する。後で利用することを前提に分類項目を書いておく。例え
ば『忠臣蔵』に関して言うと、@刃傷事件という項目、A公家から見た忠臣蔵、B史料の作者名、
C史料名、D史料の作成年月日、E史料原文、F参考資料などを筆記する(写真参照)
その後公家から見た刃傷事件を調べるためには、まず刃傷事件のカードのみを抽出する。そのカ
ードの中から公家の史料を筆記したカードのみを抽出する。この作業の結果、必要な史料が手元に
残ることになる。
史料1点につき1カードとして、新しい史料を発見するたびに心躍らせてアナログ記録したものです
アナログ記録の課題
膨大な史料の中から必要な史料を抽出する方法は画期的なものでした。しかし、論文を書く時に、
カードから書写する作業に膨大なエネルギーと時間を浪費しました。この課題を解決することが情報
処理の発展につながっていくのです。
英文タイプライターによるローマ字日記が財産となる
梅棹氏から教示され、石川啄木も実践していたローマ字日記を、私もつけ始めました。英文科の生
徒からもらった教則本に従って、A〜ZまでのJIS配列を毎日繰り返し練習しました。3日坊主の言葉
通り、私は教則本を使って練習をすることを3日で止めました。
そして私独自の方法で練習をしました。7日間で完全にマスターしました。教則本では30日かかる
のが普通だそうです。その方法は今も指導に大いに役立っています。それはAの位置を完全に覚え
るまで目をつむって何回も練習する。Aを覚えたら、ABABと覚える。ABが覚えられたら、ABCABCと
覚えるまで練習する。そしてA〜Zまで覚えたら、目をつむって自分の名前や住所を打ってみる。
若い高校生なら2〜3時間でマスターしてしまう。目をつむっての練習は専門的にはブラインドタッ
チという。私は大学時代から原稿をみてタイプライターを打っていたので、それが今財産となって貢
献してくれている。「重い財産(流行の車・ファッションなどの物)でなく軽い財産(技術)を身につけ
よ」という真理の味をかみしめている所である。
このパソコン論は『研究紀要第44号』(兵庫県社会科研究会、1997年発行)と『兵庫教育』(兵庫
県教育委員会、2000年発行)などを基に展開します。
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