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9月(長月)の料理より(写真提供:くいしん坊 入り口から見たカウンター席(写真提供:くいしん坊
くいしん坊で「自分」を思い出す
 今回も美味しいと噂の店を何店も食べ歩きました。
 飽食時代ということなのか、値段は高いが、心底美味しいという実感がないのです。
 私たちの口がおごったのか、食べるという大切な楽しみが減少した感じでした。
 そうした時、かならず訪ねるのが、赤穂の「くいしん坊」です。
 1品1品、素材が厳選され、素材そのものの味が引き立つように味付けされています。やはり、何度来ても、新しく創造された料理は新鮮です。
 毎回出されていても、「今日のあおりイカは小さいが、よかったですよ」と言われるとおり、身がしまって、甘みが凝縮されていました。同じ素材でも、素材そのものは日々代わります。その結果、味が楽しめる調理をされているのでしよう。
阿久悠さんの名作「お酒はぬるめの 燗がいい」(舟歌)
 映画『駅・ステーション』を見ました。駅近くにある倍賞千恵子の居酒屋に、高倉健がやって来る。TVから「舟歌」(歌手:八代亜紀、作詞:阿久悠、作曲:浜圭介)が流れてくる。
 その歌の一節が「お酒はぬるめの 燗がいい 肴はあぶった イカでいい」でした。
 ほとんど日本酒は飲まない。年中、毎日、ビール党です。「ビールを飲むために、人生がある」というほど、最良の状態で、ビールを飲むために、暑い日も寒い日も、かなり急な山道の散歩を約1時間しています。
 しかし、最近は、そのビールも年とともに、量が減っています。 
 とんちの吉四六
 くいしん坊に来ても、1品1品の味を楽しんでは、2時間のメニューに合わせて、大瓶3本を飲んでいました。それが2本に減り、先日は、ビール1本になってしまいました。カウンターから見ると、大将丸山さんの書いた達筆なお品書きが目に入りました。
 「吉四六」という焼酎がありました。その湯割を注文しました。
 大学時代、民俗学を専攻していた私は、吉四六とんち話と出会いました。室町時代の一休さんや豊臣秀吉のお伽衆であった曽呂利新左衛門さんは知っていましたが、吉四六は初めてでした。九州出身の友人の話では、九州では有名な人物です。
 吉四六は、「きっちょむ」と読みます。そこから、豊後の野津院(今の大分県臼杵市野津町)の豪農である広田吉右衛門ではないかと言われているそうです。
 吉四六のとんち話はたくさんありますが、一休さんの話や相生市の昔話に共通する「柿の見張り番」を紹介します。
 吉四六さんの家では、今年も柿が豊作でした。吉四六さんの親は、吉四六さんに柿の見張りを頼んで、外出しました。吉四六さんは、村の子どもたちと、柿を食べてしまいしました。家に帰ってきた親に、吉四六さんは、「柿の木はちゃんと見張っていた」と言いました。
焼酎の吉四六
 寛政時代(1789〜1802年)に作られた歌が残っています。共に、麻地酒が歌い込まれています。闌更は、京都に住んでいた俳人だそうです。
(1)ふらすこや 影さへ見ゆる 麻地酒(作者:一招)
(2)爺婆の 昼間遊びや 麻地酒(作者:闌更)
 麻地酒は、豊後日出の地酒です。この製法を引き継いでいるのが「大分むぎ焼酎二階堂」で、二階堂が売り出している麻地酒が、豊後のとんちの吉四六を冠した「むぎ焼酎二階堂吉四六」だそうです。
 1973(昭和48)年、二階堂の6代目は、醸造酒から蒸留酒へ切り替え、むぎ100%の焼酎の製品化に成功しました。
 では、麻地酒はどうして誕生したのでしょうか。
 寛文時代(1661〜1673年)、豊後出町の康徳山松屋寺であった話です。お寺の小僧さんは、お寺の甘酒を飲みたいと思っていました。和尚さんが外出した留守に、甘酒を盗み出し、後日ゆっくり飲もうと壺に入れて、近所の麻畑に埋めて隠しました。
 和尚さんが留守の時、壺を出してみると、濁り酒の甘酒は、色が澄んだ清酒と変化していました。味も甘酒より、はるかに美味しくなっていました。
 その後、和尚さんからその酒を贈られた日出藩主の木下俊長は、麻畑から作られた土地のお酒という意味で、麻地酒と命名し、藩の専売とすることにしました。
醸造酒と蒸留酒の違い
 では、醸造酒と蒸留酒とはどこが違うのでしょうか。
 ある人に聞くと、日本酒は「醸造酒」で、焼酎は「蒸留酒」だそうです。
 次に、醸造酒は穀物や果実を醸造して作り、その醸造酒を蒸留すると蒸留酒になるそうです。
 原料が米の日本酒を蒸留すると「焼酎」となるそうです。原料が麦の酒を蒸留すると、麦焼酎になるというのです。
 ビールは「醸造酒」ですが、それを蒸留するとウイスキーになるそうです。
 また、ワインを蒸留するとブランデーになるそうです。
 醸造酒は構成が複雑なので、深酒を肝臓のアルコール分解が間に合わないので、二日酔いになるそうです。
 蒸留酒(焼酎など)は蒸留した後の酒なので、酒の構成がシンプルで、肝臓のアルコール分解が優しくできるので、二日酔いも少ないそうです。
 次の酒の種類を調べてみました。
醸造酒 日本酒・ビール・ワイン
蒸留酒 焼酎・泡盛・ウイスキー・ブランデー・ウォッカ・ジン・ラム
混成酒 ベルモット・リキュール・みりん・合成清酒

 次に日本酒の種類を調べてみました。
吟醸酒 精米歩合60%以下の白米と米麹及び水、またはこれらと醸造アルコールを
原料として吟味して造ったお酒で、固有の香味及び色沢が良好なものです
純米酒 白米,米麹及び水を原料として造ったお酒で、香味及び色沢が良好なもの
です。文字どおり、お米だけで造られたお酒です
本醸造酒 精米歩合70%以下の白米、米麹、醸造アルコール及び水を原料として造っ
たお酒で、香味及び色沢が良好なものです
大学時代の思い出
 私は、大学時代、色々なコンパ(ドイツ語Kompanieが語源?)に出席しました。今は「合コン(合同コンパ)」がよく使われています。
 今の私を知る人は、誰も信じてくれませんが、日本酒では盃に1杯、ビールならコップに1杯しか飲めませんでした。
 無二の友人は、福岡県の出で、浴びるほど酒を飲みます。彼と付き合うには、近所の店で、スルメやソーセージ、駄菓子、ウィスキーなどを買います。ウィスキーは、一番安いサントリーオールドだったと思います。今でも700mlが1504円(税別)です。
 水割りをしてくれるのですが、「トサカ(鶏冠)にくる」という表現がぴったりの、私には飲めない代物でした。
 ある友人が、「コーラで割ると飲める」と教えてくれたので、やってみました。それでもダメでした。
 ある友人(金持ちのボンボン)が、「それは安物のウィスキーやからや」「本物のウィスキーを飲まなあかん」(これは関西弁)と言われ、オールドパーを進められました。今は700mlが5500円(税込み)ですが、
当時は1万円以上しました。泣きの涙で、本物のウィスキーというオールドパーを買いました。
 そのまま飲んでも、「トサカ(鶏冠)にくる」ことはありませんでした。高い安いでなく、その人に合う酒があるということを知りました。
 その後、私の家内の姉夫婦が近所に住んでいて、月1回、お互いの家で飲み会をしてきました。35年になります。その結果、段々、酒に対する抵抗力が弱まり、ビールのための人生というほどのアル中(?)に成長しました。
くいしん坊で大学時代の「自分」を思い出す
 くいしん坊で、ビール1本飲んだ段階で、ビールを飲みたいという気持ちが失せていました。しかし、料理といえばフルコースの半ばです。「吉四六」という懐かしい名前に接して、焼酎の「吉四六」を注文しました。
 今まで、焼酎は、薬になると聞かされ、何度か飲んだことがありますが、「良薬は口に苦し」でした。
 「吉四六」の焼酎は、全く抵抗がなく、体になじんで、体内に飲み込まれていきました。
 新しい料理の味と、新しい酒の味を発見して、食いしん坊を後にしました。

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