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孫に伝える小説忠臣蔵

第二章
【014回】史料では浅野内匠頭は、どのように描かれているか

(1)井沢元彦氏らが描く「浅野内匠頭は無類の女好き」

(2)史料(『土芥寇讎記』)が描く
 □ 1.「浅野内匠頭は無類の女好き」
2.「長矩は…統治がいいので、家臣も百姓も豊」
浅野内匠頭
 3人組は、中学2年生になりました。
 女子中学生が私の前にいるのが不思議な光景です。近所で、親戚の女の子が赤ん坊から小学校6年生になるまで我が家に来ては、芝生しかない庭で、相撲などをして、よく遊んでいました。中学生になる直前の3月31日に、「おっちゃんの願いは、中学生になっても、相撲をとることや」と冗談でいうと、小六の女児は「分かった。おっちゃんの願いを叶えたるわ」と真顔で、元気よく、約束したものです。
 しかし、中学生の制服を来て、入学式に行ってからは、我が家に来なくなり、話すこともなくなりました、
 それが、高校生になると、約束の相撲とは言いませんが、子どもの頃の人なっこい、娘に変身していました。
 中学生は、子どもから、大人への脱皮の第一段階だったんだと、妙に納得したものです。

 脱皮中の中学生が目の前にいるんです。人間は多面的な存在だと納得もしたもんです。

 湖南土井瑠「今日は、昔の人が浅野内匠頭をどう書いていたかを勉強しよう」
 3人「ドキドキです」
 土井瑠「幕府がスパイを全国に派遣して、全国の大名と領地の実態を調査させているんだ」
 大野蛍子「どうして、そんなことをするんですか」
 土井瑠「情報は、今も昔も、相手を支配するには、有効な手段に使えるんだよ」
 湖南あこな「テストの時も、どこが出るかを正確に知っていると、いい点がとれるというのと同じですか?」
 土井瑠「面白い例えだが、間違ってはいないね」
 木村葉月「そこにはスパイの記録には、どんなことが書かれているんですか」
 土井瑠「その記録を『土芥寇讎記』と言って、刃傷事件の起きる十年ほど前に書かれている」
 3人「それで‥‥」
 土井瑠「大分、気になるようだね。以前、ここでも扱った井沢元彦さんを知っているね。井沢さんがよく利用する学者が大石慎三郎さんなんだ」
 3人は、次に出る言葉を聞き洩らさないようにと、真剣な顔つきになりました。
 土井瑠「大石さんは”無類の女好きで政治に興味を示さず、いい女を紹介すれば必ず出世させてくれる殿様という”」
 3人「えーっ、ショック!!」

 蛍子「こんな人が殿さんだなんて、信じられないー」
 葉月「ほんとほんと、忠臣蔵を英雄視していた人にはびっくりもんですね」
 あこな「こんな人を信じて、この人の受けた恥をそそぐために討ち入った人々が可哀想‥‥」
 土井瑠「これが全て真実なら、みんな、そう思うだろうね。しかし、井沢さんや大石さんらが言っていることは史料の一部で、全部ではないんだよ」
 3人「どういうことなんですか」
 土井瑠「情報は、自分にとって不利な部分は使わず、自分にとって有利な部分を使うということがあるんだよ。これを作為的な使用というんだ」
 3人「うーん、ますます分からない」
 土井瑠「純粋な中学生には、”作為的な使用”は無縁だろうが、大人には、色々な思惑があるんだ」
 あこな「井沢さんらにはどのような思惑があるんですか」
 土井瑠「井沢さんらは、”浅野長矩の評価は最も低い部類に属する”とか”惨憺たる(殿様という)評価を幕府の隠密から受けている”と曲解した断定をしているんだね」
 3人「ひどーい!!」
 土井瑠「みんながショックを受け、浅野内匠頭に不信感をもち、忠臣蔵をおとし(貶)めることに有効だったね」
 蛍子「有名な人だからと、単純に、信ずるなということですか?」
 葉月「作為的でない使用とはなんですか?」
 土井瑠「井沢さんらが使わなかった『土芥寇讎記』には、”長矩は…統治がいいので、家臣も百姓も豊である”とも書かれているんだ」
 3人「それだったら、殿さんとして立派な人だったんですね」

 土井瑠「井沢さんらは、”無類の女好き”、”いい女を紹介すれば必ず出世”など今の価値観で当時を批判しているんだ」
 あこな「どういうことですか」
 土井瑠「今は一夫一婦制だね。江戸時代は、男子がいなければ、お家は断絶となるので、男子を産むために、本妻以外に何人も側室を持ったんだよ。例えば、将軍徳川綱吉は正室の外に側室を5人を持っているんだ」
 蛍子「そういえば、父から徳川家斉もすごかったと聞きました」
 土井瑠「家斉の側室は40人だったんだ」
 あこな「”いい女を紹介すれば必ず出世”とは、どういうことですか」
 土井瑠「これに似た噂は今もあるかもね。将軍徳川綱吉は、側室であった染子を最も寵愛していた柳沢吉保に払い下げているよ」
 葉月「ぞっとします」
 土井瑠「当時、臣下は、競って払い下げを望んだと言われるんだ」
 3人「変な社会!!」
 土井瑠「今から見ると、変な社会であっても、当時の社会では正常だったんだよ。だから今の民主主義で自由社会の価値観・倫理観で、封建主義で階級社会の考えや行動を批判しても意味がないんだよ」
 3人「ふーん」
 土井瑠「いずれ理解できるよ。次回は、地元赤穂の人が、お城の取りつぶしにあって、餅をついて喜んだという話を取り上げよう」
 3人「いやだー、聞きたくない!!」
*『土芥寇讎記』「長矩、智有テ利発也。家民ノ仕置モヨロシキ故ニ、士モ百姓モ豊也」

老中の喧嘩両成敗を将軍が片落ち裁定(第一の事件)→討ち入り(第二事件)へ

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