相生の昔話

(13)親不孝なトンビ

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 ぬくい日に、トンビが空高くあがって、くるりくるりと輪をかくと、翌日かならず雨が降る。

 昔むかし、とんびは親不孝者だった。トンビは親のいうことには、いつも反対し、親が山へゆけといったら川へゆく。川へゆけといったら山へゆく。

 トンビの親は、子供の行末(ゆくすえ)を案じた。
 どうせ親のいうことは聞くまい。
 親は、いよいよ死ぬ際(きわ)になって子供にいうた。
「わしが死んだら、その死骸(むくろ)を川原に埋(う)めておくれ」
 こういっとけば、子供は山に埋めてくれるにちがういないと思った。
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 さて、親に死なれてみると、生きてる間に親の言葉を聞いてやれなかったことが悔(くや)まれる。せめて死んだ時だけでも、親のいいのこした言葉を聞いてやろう。トンビの子供は、親のいいつけどおり、その死体を川原の砂に埋めた。
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 すると、川の水が増すと気がかりになる。雨でも降りそうになると、親が流されるのではないか。それが悲しゅうて、トンビは雨の降る前に鳴いているのだそうである。

注1:「ぬくい日」とは、「あたたかい日」という意味です。おもに関西の方言で、気温や水温などの時に使います。
注2:「行末(ゆくすえ)」とは、「将来。この先」という意味です。
注3:「死ぬ際(きわ)」とは、「死ぬ直前。死ぬまぎわ」という意味です。
注4:「死骸(むくろ)」とは、「死体」という意味です。丁寧な表現では、「遺体」「遺骸」となります。
注5:「悔(くや)まれる」とは、「悔やむ(残念に思う。後悔する)」の自発で、「意識していないのに自然と後悔してしまっている」という意味です。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻