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エピソード

176_01

文明開化T(西洋思想の流入、福沢諭吉・中村正直・明六社)
 旧習打破・西洋文物の移植の風潮を文明開化といいます。
 殖産興業・富国強兵をめざす政府は、文化の近代化を促進する必要を痛感し、西洋の近代思想や欧米式の生活様式の導入をはかりました。
 文化の近代化の文化とは「による感」のことで、武力や刑罰などの権力を用いず、学問・教育によって人民を導くことです。近代化とは資本主義化とかその基盤の自由主義化・個人主義化をいいます。つまり、人間の思想・心情を自由主義的・個人主義的に変えていくということです。
 西洋の近代思想には、「自由平等は天から賦与された」という天賦人権思想もありました。
 こういう立場を啓蒙といいます。語源的には、啓蒙の「」は「開く」、「」は「暗い」という意味です。つまり、雨戸を閉めたような暗い状況を、雨戸を開いて、明るくするということです。
 雨戸が締まっていれば、埃や塵が積もっていても分かりません。あなた方の頭は、それと同じで、何も見えない、分かっていない。だから、私たちが、雨戸を開けるように、明るい所へ導いてあげようという考えです。不遜な考えと言わざるを得ません。
 ヨーロッパで主流となった啓蒙思想は、過去の権威・思想・制度・習慣などを合理的に批判し、人間精神の解放を図ろうとする考えを特徴としていました。その代表が、モンテスキューの『法の精神』やルソーの『社会契約論』といえます。
 資本主義が発達したイギリスでは、「快楽を幸福と見て、功利を善とする」という功利主義の思想が発達しました。その代表がミルの『自由論』やスペンサーの『総合哲学体系』といえます。 
 明治新政府の意向と、欧米の流行を取り入れた洋学者たちは、明六社年創立した結)を結成して、民衆の蒙を啓き、精神的変革を図ろうとしました。
 その代表が、福沢諭吉(40歳)です。
(1)『学問のすゝめ』は、「掃除破壊(旧文物制度の破壊)」の書といわれ、「神は人間を平等に作ったが、現実は、雲泥の差がある。それは学問をするかしないかで決まる。実証的な学問(実学)を学ぼう」と呼びかけている啓蒙の書です。
(2)『文明論之概略』は、『学問のすゝめ』後の調和論的建設を目指した書といわれ、「文明とは国民の智徳を進める武器である。個人の自主独立と国家の独立を保つためには、西洋文明の精神を学ぶ必要がある」と呼びかけています。
 次に有名なのが、中村正直(42歳)です。彼は、翻訳の目的を「自由の原理が、欧米で不可欠のものとされている以上、この議論は是非にかかわらず知っているべきだ」と語り、啓蒙主義的立場を鮮明にしています。
(1)『自助論』は、サミュエル=マイルズの『Self Help』を翻訳したもので、「ヨーロッパにおける古今の数百人を紹介して、自立自助の個人主義道徳の確立」を主張しています。『学問のすゝめ』と並んで大ベストセラーになりました。
(2)『自由之理』は、ジョン=スチュアート=ミルの『On Liberty』を翻訳したもので、「最大多数の最大幸福」という功利主義思想を主張し、個人の人格の尊厳や個性と自由の重要性を強調しています。
 その他では、加藤弘之(38才)がいます。彼は、東京大学の初代総長になった人で、兵庫県の出石の人です。
(1)『国体新論』・『真政大意』で、天賦人権説を主帳していました。
(2)『人権新説』(1882年刊)で、ダ−ウィンの生物進化論や社会進化論を紹介するようになり、最後は、適者生存・優勝劣敗の視点から天賦人権説を否定する立場に変わりました。
 明六社の活動に対して、フランスの思想を導入した人々がいます。フランスの思想は、フランス革命を経験していることからも分かるように、思想的自由主義や天賦人権思想が特徴です。フランス思想は、自由民権運動の指導的理論になりました。
 土佐の中江兆民(36歳)は、ルソーの『民約論』を翻訳して、『民約訳解』として出版しました。ルソーは、「生命・自由・財産」(自然権)は神から与えられたという天賦人権説を基本に、自然権を確保するために、政府に全てを委任する(社会契約)。もし、政府は、「生命・自由・財産」(自然権)を犯すようなことがあれば、国民は、その政府を変更することが出来る(革命説)と説き、社会に大きな影響を与えました。
 絶対主義的天皇制を目ざしていた明治政府とは相容れない思想を、東洋のルソーといわれた中江兆民は導入したのです。
文明開化とざんぎり頭
 「ざんぎり頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」という文句をご存知ですか。本文は、「半髪頭をたたいてみれば、因循姑息な音がする。総髪頭をたたいてみれば、王政復古の音がする。ざんぎり頭をたたいてみれば、文明開化の音がする」となっています。
 半髪頭は、チョンマゲのことです。総髪頭は、坂本竜馬や武田鉄也のように髪を後ろに長く伸ばした頭です。ざんぎり頭は、短髪というか、現代風の髪をした頭です。
 岩倉遣欧使節が不平等条約の改正を求めて、欧米に派遣されました。しかし、改正に反対のアメリカ人は、「頭にピストルを載せているような野蛮人とは交渉できない」と言いました。
 ヨーロッパでは、チョンマゲを「豚のしっぽ」とバカにするので、恥ずかしかったという記録があります。
 そこで、岩倉具視らは、日本に連絡し、断髪令を出したということです。 
 所が、「元来生えてくる毛をそり落としてしまうことは、よいことではない。毛が生えてくるには、毛がなくてはならない理由があるからなのである。それを自分のわがままで毛をそり落としてしまったのでは、毛がもっている役割が果たせなくなるので、身体のためになるはずがない」と反対する人も多かったといいます。
 チョンマゲ頭の者から、罰金をとると脅して、ざんぎり頭にした所もあったそうです。
 人の心は、なかなか変えられないということです。しかし、情報が早く、一律に伝わる現在では、逆に気持ちが悪いほど流行に敏感になっています。
 最近の話です。TVで紹介された本は、あっという間に売り切れるそうです。そこで、地方の書店に、TVで紹介されるという情報を出版社から連絡もあるそうだ。そこで、その日に備えて、その本をたくさん準備する書店もあるそうだ。しかし、その地域の人がそのTVを見るとも限らないので、その対応に困っているそうだ。
 私も、TVで話題になったから、本を手にとって、吟味して買う場合もあります。しかし、TVで紹介されたから、内容も確認せずに買うという、魂を売ったような買い方はしない。

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