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ケータイと同調圧力・メール依存症 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1 | 今やケータイ時代である。 ケータイの所有率は、小学生が31.3%、中学生が57.6%、高校生が96.0%となっています(2007年7月内閣府)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ケータイの現状 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2 | 親は、どういう理由で、子どもにケータイを持たせるのでしょうか。 「皆が持っている」とせがまれるからというのが最大の理由です。 ついで、塾に行ったり、友だちと遊びに行ったりした時、安全を確認して安心するためという理由がありました。 父や夫がパソコンで会社で落ちこぼれたのを見ているので、「ネット時代の今、子どもの時から親しませたい」と分ったような分らない理由を述べた母親がいました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3 | 子どもが使う機能を調べてみると、1位がメール、2位がカメラ、3位がネット、4位がゲーム、5位が音楽でした。 親が期待する通話は番外です。 ここにケータイの問題点が凝縮されています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
4 | ケータイを持つ多くの母親に聞くと、「自分の子どもには持たせたくない」と言います。その理由を聞くと、ケータイからつながっているサイトが心配で、危険だといいます。 親は、ケータイからつながっているサイトが大人社会との接点であることを知っているのです。 では、子どもが利用する勝手サイトにはどんなものがあるのでしょうか。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5 | (1)一番人気があるのが「モバゲータウン」ということでした。このサイトは、ケータイ専用で無料のゲームを提供しています。ゲーム以外でも「暇つぶしに遊ぼう」とか「楽しもう」などの項目があります。特に「楽しもう」は、ブログで子どもになりすました大人との接点になります。2007年11月青森県八戸市で、12月京都市で「モバゲ」が接点となった犯罪が起きています。2008年7月宇治市で、「モバゲー」で知り合った女性に乱暴したとして水資源機構職員が逮捕されています。 (2)次に人気があるのが、「魔法のiらんど」です。NTTが主催しています。ここでも、無料で自分のホームページを開設できます。 (3)次に「前略プロフィール」があります。楽天が主催しています。プロフィールを略して「プロフ」といいます。自分の写真や自己紹介を載せ、友人のプロフにリンクはって活用します。 バーチャル(仮想)世界の知識・対応を知らない子どもたちは、はっきりと写った顔写真を載せたり、アクセス・ランキングを上げたい一心で下着姿や裸の写真をアップしています。子どもたちは、ケータイで、自分のページ・アドレスをメールで送り、名刺として活用しています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6 | ブログ、ホームページ、プロフなど名前は異なっても、簡単に自分で書いた文章が公開されます。 私たちは、何気なく書いた文集や卒業文集の中の一文が、後に大きな問題になることを体験しています。1対1の喋り言葉は、「言った」「言わない」で、証言としては弱い。重要なやり取りの場合、複数同士で会談し、記録をとり、交互に内容をチェックします。文章は非常に証言能力が高くなります。文章化する場合、内容を非常に吟味します。 私たちの文章が活字化されるのは、非常にまれです。文集や卒業文集は担任がチェックしています。それ以外で活字化されるのは、新聞に投稿したり、旺文社の「高校時代」や学研の「高校コース」に投稿する場合があります。この場合も、新聞や出版社の担当者がチェックしています。 しかし、現在、文章を書く知識や技術・倫理観を身につけていない若者がその時の感情で書いた文章が、ノーチェックで掲載され、公開されるのです。この危険性を声を大にして叫びたい!!。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
7 | 13歳〜19歳のケータイの使用料金を調べてみました。 5000円以上が36.1%もいました。8000円以上が16.8%もいました。親の小遣いだけで養われている中学生・高校生にとってケータイの使用量は膨大です。 1カ月に10万円を越えるケータイの使用料の子どももいました。NTTによれば、着うたフル1曲が5000円なので、20曲をダウンロードすると可能性はあるといいます。auによれば、双方が通話を切り忘れた場合には可能性はあるといいます。 大人社会にとって、無知な子どもは金儲けの最大のターゲットになっています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
同調圧力 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
8 | 子どもたちが一番利用するメールの実態を調べてみました。 1日に51通以上メールを送受信している中学生は16.2%、高校生は13.5%もいました。 1日に21通以上メールを送受信している小学生は13.0%、中学生は39.0%、高校生は27.1%もいました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
9 | メールを出して1分以上返事が来ないと、イライラするという小学生は5.1%、中学生は13.0%、高校生は12.4%もいました。 なるべく早く返事をするようにしていると答えた小学生は64.4%、中学生は80.1%、高校生は80.9%もいました。 「直ぐに返信しないどうなるか」と問う、「キレられる」という答えが11.9%もありました。 「誰にメールをしているか」と問うと、友達が91.7%で、家族にはが49.4%でした。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
10 | 以上のことから、何が推察されるでしょうか。 時々、旅先の喫茶店やレストランで、デート中の男女がお互いにケータイに熱中していました。女性ばかりのグループも友人と話すことなく、ケータイのメールを打ち込むのに必死でした。私は、旅をするときは、俗世間から離れ、旅でしか味わうことの出来ない自然や料理の味を堪能します。彼らの行動が不思議でたまりませんでした。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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子どもたちは、直ぐにメールを出さないと「キレられる」という脅迫におどされているのです。 おどされ、イジメられないように、常にケータイを持ち、すぐ返事を出すのです。 どんなメールを交信しているかと言うと、「ファッション」「持ち物」「趣味」(音楽、TV、映画、雑誌、小説、食べ物など)が主な内容といいます。 彼らのグループを「うちら」と表現します。うちらだけの濃密な交信が行われているのです。うちらの間では、違いは疎外の対象で、おどされ、イジメの対象となります。違いが分るとうちらの中の人間関係は修復できないというのです。彼らは必死で、同調します。これを同調圧力といいます。息苦しい閉塞状態です。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
12 | 私は、「ケータイを持たせない」を持論としてきましたが、今の時代はそう簡単ではありません。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ケータイ依存症 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
13 | 下記の表をご覧下さい。 (1)「ケータイがないと不便であると感じている」とこたえた小学生は61.9%、中学生は69.8%、高校生は84.6%もいました。 (2)「メールが来ないとさみしい」とこたえた小学生は33.4%、中学生は60.0%、高校生は59.3%もいました。 (3)「あったことがない人とメールをする」と答えた中学生・高校生は4人に1人もいました。駅で知らない人から声をかけられたら「気持悪い」と答えていた高校生が、メールを通すと、いとも簡単に、信頼してしまうのです。 (4)(1)(2)(3)のような症状を「ケータイ依存症」といいます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ケータイ時代にどう対応するか | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1 | 2008年6月8日、秋葉原の無差別殺傷事件で死者が7人の出ました。容疑者(25歳)は、こまめにケータイに書き込みをしていました。 共同通信ニュースによると、容疑者の書き込み内容が全文記載されています。誰かがチェックしたり、公開する前提の文章であるという知識・倫理観があれば、この悲劇は避け得てたのでしょうが、ケータイの時代です。ノーチェックです。余りにリアルな表現なので、■をいれます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3 | 秋葉原殺傷事件の容疑者のメール内容を分析してみました。 25歳ということは、早くて、高校1年生頃にケータイを利用していた可能性があります。 文面から見ると、語彙は豊富なので、知能はありそうです。新聞では、東北の進学校を卒業したとあります。 恋人がいない理由を、自分の容姿のせいにしています。恋人は、容姿だけでなく、「蓼食う虫も好き好き」という諺があるように、人間的な魅力が重要です。挫折して、自分自身を磨くという自律精神に欠けているようです。 中高校生は、1日50通以上のメールを送受信する現状があります。容疑者のメールからその実態と同調圧力が分りました。 生身の恋人もおらず、メールが唯一のより所になっています。メール依存症ですね。しかも、唯一のより所としていたメール仲間からも「キレられた」存在が分ります。絶望の叫びが伝わってきます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
4 | では、なぜ、別な生き方を選択できなかったのでしょうか。 私は、ケータイを持っていません。だからと言って、孤立した寂しい生活を送っていません。むしろ、日常生活が多忙な故に、ファーストライフ型のケータイを持たないだけです。 家を出たら、俗世間から解放されて、心身ともに自由になりたいのです。 以上のようは話をすると、教え子の大学生から「そういうのを自律的個の確立というのですね」と言われました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5 | 教え子の親の通夜に行っても、平服です(告別式は式服ですが…)。法事に行っても白の靴下です。親戚の結婚式でも平服です。生徒や親戚や妻・子からも注意を受けますが、このスタイルは変わりません。 昔はこのような人が多かったので、あまり目立ちませんでした。しかし、最近は、同調圧力により、親族か参列者か区別がつかないほど式服化してしまい、とても目立つようになりました。 色んな考え方・生き方があっていいと言いながら、実行する大人が非常に少なくなりました。 ケータイによる同調圧力で圧迫を受け、メール依存症にかかっている人には、違いを認め、自律した生き方をしてもらいたいと思います。そのためにも、私は「わが道を進みます」。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
* | この項で参考にした書物は以下の通りです。感謝しています。 渡辺真由子『大人が知らない ネットいじめの真実』(ミネルヴァ書房) 石野純也『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書) 下田博次『ケータイ・リテラシー』(NTT出版) 荻上チキ『ネットいじめ』(PHP新書) 藤川大祐『ケータイ世界の子どもたち』(講談社現代新書) その他、ベネッセ・警察庁などの調査報告 |