print home

エピソード

296_03

ケータイと同調圧力・メール依存症
 今やケータイ時代である。
 ケータイの所有率は、小学生が31.3%、中学生が57.6%、高校生が96.0%となっています(2007年7月内閣府)。
ケータイの現状
 親は、どういう理由で、子どもにケータイを持たせるのでしょうか。
 「皆が持っている」とせがまれるからというのが最大の理由です。
 ついで、塾に行ったり、友だちと遊びに行ったりした時、安全を確認して安心するためという理由がありました。
 父や夫がパソコンで会社で落ちこぼれたのを見ているので、「ネット時代の今、子どもの時から親しませたい」と分ったような分らない理由を述べた母親がいました。
 子どもが使う機能を調べてみると、1位がメール、2位がカメラ、3位がネット、4位がゲーム、5位が音楽でした。
 親が期待する通話は番外です。
 ここにケータイの問題点が凝縮されています。
 ケータイを持つ多くの母親に聞くと、「自分の子どもには持たせたくない」と言います。その理由を聞くと、ケータイからつながっているサイトが心配で、危険だといいます。
 親は、ケータイからつながっているサイトが大人社会との接点であることを知っているのです。
 では、子どもが利用する勝手サイトにはどんなものがあるのでしょうか。
(1)一番人気があるのが「モバゲータウン」ということでした。このサイトは、ケータイ専用で無料のゲームを提供しています。ゲーム以外でも「暇つぶしに遊ぼう」とか「楽しもう」などの項目があります。特に「楽しもう」は、ブログで子どもになりすました大人との接点になります。2007年11月青森県八戸市で、12月京都市で「モバゲ」が接点となった犯罪が起きています。2008年7月宇治市で、「モバゲー」で知り合った女性に乱暴したとして水資源機構職員が逮捕されています。
(2)次に人気があるのが、「魔法のiらんど」です。NTTが主催しています。ここでも、無料で自分のホームページを開設できます。
(3)次に「前略プロフィール」があります。楽天が主催しています。プロフィールを略して「プロフ」といいます。自分の写真や自己紹介を載せ、友人のプロフにリンクはって活用します。
 バーチャル(仮想)世界の知識・対応を知らない子どもたちは、はっきりと写った顔写真を載せたり、アクセス・ランキングを上げたい一心で下着姿や裸の写真をアップしています。子どもたちは、ケータイで、自分のページ・アドレスをメールで送り、名刺として活用しています。
 ブログ、ホームページ、プロフなど名前は異なっても、簡単に自分で書いた文章が公開されます。
 私たちは、何気なく書いた文集や卒業文集の中の一文が、後に大きな問題になることを体験しています。1対1の喋り言葉は、「言った」「言わない」で、証言としては弱い。重要なやり取りの場合、複数同士で会談し、記録をとり、交互に内容をチェックします。文章は非常に証言能力が高くなります。文章化する場合、内容を非常に吟味します。
 私たちの文章が活字化されるのは、非常にまれです。文集や卒業文集は担任がチェックしています。それ以外で活字化されるのは、新聞に投稿したり、旺文社の「高校時代」や学研の「高校コース」に投稿する場合があります。この場合も、新聞や出版社の担当者がチェックしています。
 しかし、現在、文章を書く知識や技術・倫理観を身につけていない若者がその時の感情で書いた文章が、ノーチェックで掲載され、公開されるのです。この危険性を声を大にして叫びたい!!。
 13歳〜19歳のケータイの使用料金を調べてみました。
 5000円以上が36.1%もいました。8000円以上が16.8%もいました。親の小遣いだけで養われている中学生・高校生にとってケータイの使用量は膨大です。
 1カ月に10万円を越えるケータイの使用料の子どももいました。NTTによれば、着うたフル1曲が5000円なので、20曲をダウンロードすると可能性はあるといいます。auによれば、双方が通話を切り忘れた場合には可能性はあるといいます。
 大人社会にとって、無知な子どもは金儲けの最大のターゲットになっています。
同調圧力
 子どもたちが一番利用するメールの実態を調べてみました。
 1日に51通以上メールを送受信している中学生は16.2%、高校生は13.5%もいました。
 1日に21通以上メールを送受信している小学生は13.0%、中学生は39.0%、高校生は27.1%もいました。
 メールを出して1分以上返事が来ないと、イライラするという小学生は5.1%、中学生は13.0%、高校生は12.4%もいました。
 なるべく早く返事をするようにしていると答えた小学生は64.4%、中学生は80.1%、高校生は80.9%もいました。
 「直ぐに返信しないどうなるか」と問う、「キレられる」という答えが11.9%もありました。
 「誰にメールをしているか」と問うと、友達が91.7%で、家族にはが49.4%でした。
10  以上のことから、何が推察されるでしょうか。
 時々、旅先の喫茶店やレストランで、デート中の男女がお互いにケータイに熱中していました。女性ばかりのグループも友人と話すことなく、ケータイのメールを打ち込むのに必死でした。私は、旅をするときは、俗世間から離れ、旅でしか味わうことの出来ない自然や料理の味を堪能します。彼らの行動が不思議でたまりませんでした。

11
 子どもたちは、直ぐにメールを出さないと「キレられる」という脅迫におどされているのです。
 おどされ、イジメられないように、常にケータイを持ち、すぐ返事を出すのです。
 どんなメールを交信しているかと言うと、「ファッション」「持ち物」「趣味」(音楽、TV、映画、雑誌、小説、食べ物など)が主な内容といいます。
 彼らのグループを「うちら」と表現します。うちらだけの濃密な交信が行われているのです。うちらの間では、違いは疎外の対象で、おどされ、イジメの対象となります。違いが分るとうちらの中の人間関係は修復できないというのです。彼らは必死で、同調します。これを同調圧力といいます。息苦しい閉塞状態です。
12  私は、「ケータイを持たせない」を持論としてきましたが、今の時代はそう簡単ではありません。
ケータイ依存症
13  下記の表をご覧下さい。
(1)「ケータイがないと不便であると感じている」とこたえた小学生は61.9%、中学生は69.8%、高校生は84.6%もいました。
(2)「メールが来ないとさみしい」とこたえた小学生は33.4%、中学生は60.0%、高校生は59.3%もいました。
(3)「あったことがない人とメールをする」と答えた中学生・高校生は4人に1人もいました。駅で知らない人から声をかけられたら「気持悪い」と答えていた高校生が、メールを通すと、いとも簡単に、信頼してしまうのです。
(4)(1)(2)(3)のような症状を「ケータイ依存症」といいます。
14
数字(%) 小学生 中学生 高校生
ケータイがないと不便である 61.9 69.8 84.6
ケータイを使うのが楽しい 76.4 90.3 87.9
すぐにケータイを見てしまう 44.4 67.9 65.9
メールが来ないとさみしい 33.4 60.0 59.3
あったことがない人とメールをする 8.3 25.2 25.7
ケータイ時代にどう対応するか
 2008年6月8日、秋葉原の無差別殺傷事件で死者が7人の出ました。容疑者(25歳)は、こまめにケータイに書き込みをしていました。
 共同通信ニュースによると、容疑者の書き込み内容が全文記載されています。誰かがチェックしたり、公開する前提の文章であるという知識・倫理観があれば、この悲劇は避け得てたのでしょうが、ケータイの時代です。ノーチェックです。余りにリアルな表現なので、■をいれます。
2月 25日 午後0時56分 寂しくなったらペットを飼えばいいじゃない
25日 1時2分 命あるもの、いつかは死にます 死んだ者を行動の理由にしちゃいけない、
って誰かが言ってました
27日 午後1時58分 負け組は生まれながらにして負け組なのです まずそれに気付きましょう 
そして受け入れましょう
3月 2日 午前4時27分 このまま死んでしまえば幸せなのに そう思うことが多々あります
6日 午前5時22分 書き込みをしてもヒット数が自分の分しか増えないのは正直さみしいもの
がありますね…
29分 どうやら私はうざいようです 俺KY俺KY俺KY俺KY
4月 3日 午後4時20分 親の話が出ましたのでついでに書いておきますと、もし一人だけ■してい
いなら母親を もう一人追加していいなら父親を
11日 午前4時24分 異動になりました 随分キツい工程に入りました 辞めたいです
14日 午前5時21分 誰でもいいから■したい気分です
16日 午後7時53分 誹謗中傷されるということは、存在だけは認められているということですから 
無視されている不細工な私は、その存在すら認められていません
20日 午後1時55分 欲望に素直になっていいのでしたら、繁華街の歩行者天国にトラックで突
っ込みたいです そんなことしませんけれどね
21日 午前0時11分 私は内向的ではありませんよ 後先を考えずに暴走するくらいの行動派です
5月 6日 午後8時23分 ネットで出会いは気持ち悪いのだそうです 私の全てを否定されている気分です
10日 午後4時34分 携帯ばっかりいじっていてはダメということらしいですけれど、現実では誰にも相
手にされませんもの ネットなら辛うじて、奇跡的に話してくれる方がいます
5時50分 奇麗な言葉を並べても不細工に恋愛は無理ですよ
12日 午後0時13分 こんな時間から拘束されて、解放されるのは明日の朝4時です やはり不細工に
は人権などないのですね
14日 午前4時11分 否定されることで自分を維持しているのだと思います 私はここに書き込みして
くれるみなさんのおかげで助かっています いつもギリギリですけれど
17日 午前4時40分 酷い残業でした 世間一般に仕事と認められない仕事ですから、仕方ないので
しょう 当然、彼女もできませんよね
27日 午前4時51分 私、6月でクビだそうです。次はどこにいきましょう いい街ありますか?
28日 午前3時46分 そういえば、携帯の請求書がまだ来ません 勝手に止められたら発狂します
6月 3日 午前5時50分 起きた なんでちゃんと起きるんだろ
10時45分 どうせ一人だし
ネットですら無視されるし
午後6時52分 部屋の中に携帯のカチカチ音が虚しく響いてる
4日 午前0時54分 ものすごい不安とか、お前らにはわからないだろうな
55分 勝ち組はみんな死んでしまえ
58分 俺がなにか事件を起こしたら、みんな「まさかあいつが」って言うんだろ
1時41分 どうしてみんなが俺を無視するのか真剣に考えてみる
不細工だから
5時44分 人生にはモテ期が3度あるらしいけど、俺のモテ期は小4、小5、小6だったみ
たいだ
51分 考えてみりゃ納得だよな 親が書いた作文で賞を取り、親が書いた絵で賞を取
り、親に無理やり勉強させられてたから勉強は完璧 小学生なら顔以外の要素
でモテたんだよね 俺の力じゃないけど
57分 つまり、悪いのは俺なんだね
午後3時52分 みんな俺を敵視してる
8時6分 友達ほしい
7分 でもできない なんでかな
不細工だから 終了
5日 午前4時52分 ああ、そういえば、クビ延期だって
53分 別に俺が必要なんじゃなくて、新しい人がいないからとりあえず延期なんだって
5時10分 顔だよ顔 全て顔 とにかく顔 顔、顔、顔、顔、顔
6時4分 日に日に人が減ってる気がする
5分 大規模なリストラだし当たり前か
17分 作業場に行ったらツナギが無かった 辞めろってか わかったよ
19分 鮮やかに帰宅 やってらんね
7時0分 ツナギ発見したってメールきた 隠してたんだろが
8時48分 スローイングナイフを通販してみる
午後0時5分 「誰でもよかった」 なんかわかる気がする
3時45分 「ちょっとしたことでキレる」 幸せな人がよう言う
46分 ギリギリいっぱいだから、ちょっとしたことが引き金になるんだろ
6時59分 一歩踏み出したら、あとはいくだけ
7時2分 とりあえず、明日は頑張ってみるよ
6日 午後1時9分 買い物終了 たったこれだけのために往復2万とか、バカじゃないですよ
7日 午前6時51分 肝心なものを忘れるとこだた
11時14分 買取32000は舐めてるだろ
41分 定価より高く売れるソフトもあった さすが秋葉原
午後1時14分 レンタカーに空きがなかった トラックじゃ仕方ないかも
8時34分 もっと高揚するかと思ったら、意外に冷静な自分にびっくりしてる
53分 中止はしない、したくない
8日 午前5時21分 車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら
44分 途中で捕まるのが一番しょぼいパターンかな
6時3分 友達は、できないよね
6時4分 ほんの数人、こんな俺に長いことつきあってくれてた奴らがいる
6時31分 時間だ 出かけよう
7時12分 一本早い電車に乗れてしまった
30分 これは酷い雨 全部完璧に準備したのに
47分 雨天決行
9時41分 晴れればいいな
11時45分 秋葉原ついた 今日は歩行者天国の日だよね?
午後0時10分 時間です
午後1時すぎ 今 ニュースで秋葉原で警察官刺したって
マジか?
まさか…ガチ?
    ←この色が本人以外の書き込みです
 秋葉原殺傷事件の容疑者のメール内容を分析してみました。
 25歳ということは、早くて、高校1年生頃にケータイを利用していた可能性があります。
 文面から見ると、語彙は豊富なので、知能はありそうです。新聞では、東北の進学校を卒業したとあります。
 恋人がいない理由を、自分の容姿のせいにしています。恋人は、容姿だけでなく、「蓼食う虫も好き好き」という諺があるように、人間的な魅力が重要です。挫折して、自分自身を磨くという自律精神に欠けているようです。
 中高校生は、1日50通以上のメールを送受信する現状があります。容疑者のメールからその実態と同調圧力が分りました。
 生身の恋人もおらず、メールが唯一のより所になっています。メール依存症ですね。しかも、唯一のより所としていたメール仲間からも「キレられた」存在が分ります。絶望の叫びが伝わってきます。
 では、なぜ、別な生き方を選択できなかったのでしょうか。
 私は、ケータイを持っていません。だからと言って、孤立した寂しい生活を送っていません。むしろ、日常生活が多忙な故に、ファーストライフ型のケータイを持たないだけです。
 家を出たら、俗世間から解放されて、心身ともに自由になりたいのです。
 以上のようは話をすると、教え子の大学生から「そういうのを自律的個の確立というのですね」と言われました。
 教え子の親の通夜に行っても、平服です(告別式は式服ですが…)。法事に行っても白の靴下です。親戚の結婚式でも平服です。生徒や親戚や妻・子からも注意を受けますが、このスタイルは変わりません。
 昔はこのような人が多かったので、あまり目立ちませんでした。しかし、最近は、同調圧力により、親族か参列者か区別がつかないほど式服化してしまい、とても目立つようになりました。
 色んな考え方・生き方があっていいと言いながら、実行する大人が非常に少なくなりました。
 ケータイによる同調圧力で圧迫を受け、メール依存症にかかっている人には、違いを認め、自律した生き方をしてもらいたいと思います。そのためにも、私は「わが道を進みます」。
 この項で参考にした書物は以下の通りです。感謝しています。
 渡辺真由子『大人が知らない ネットいじめの真実』(ミネルヴァ書房)
 石野純也『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)
 下田博次『ケータイ・リテラシー』(NTT出版)
 荻上チキ『ネットいじめ』(PHP新書)
 藤川大祐『ケータイ世界の子どもたち』(講談社現代新書)
 その他、ベネッセ・警察庁などの調査報告

index print home