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エピソード

303_04

偽装列島日本(船場吉兆)
 2007年は、年金の偽装から始まって、船場吉兆の偽装に終わりました。
 あの日本人の美徳(名もなく、貧しく、美しい)はどこへ行ってしまったのでしょうか。
 日本の文化の多くは、江戸時代の武士の生活が浸透しています。
 つまり、「無の精神、自律(己を厳しく律する)の精神、仁慈(上のものが下のものに与えるいつくしみ)の精神、克己(私欲に打ち克つ)の精神、富貴・名声より名誉を重視する精神」など武士道がそのバックボーン(精神的支柱)になっていることがわかります。
 「船場吉兆」問題です。
 昔、私の教え子で、料理人希望の生徒が3人いました。1人は、料理の専門学校へ行き、今はホテルのコックになっています。もう1人は、料理の専門学校へ行き、ホテルのコックを経験して、父親の店を継いでいます。もう1人は、あえて板前の道を選びました。そこで、名門の大阪にある吉兆にお願いし、そこで修業し、その後は「包丁1本晒しに巻いて旅へ出るのも板場の修行」と歌にある世界に進み、今、高級料亭をやっています。
 35年前の大阪の吉兆ですから、多分、湯木貞一氏ではなかったかと思います。詳細はエピソード日本史・都市と町人をご覧下さい。
 1930(昭和5)年、湯木貞一氏は、大阪市西区新町に「御鯛茶處吉兆」を創業しました。茶道などに造詣が深く、料理に茶懐石の手法などを用いて高い評価を受けました。
 1979(昭和54)年6月、サミットが最初に日本で行われた時、湯木氏率いる吉兆が日本料理担当に選ばれ、世界的ブランドとなりました。現在、吉兆での食事代を見ると、夜で4万2000円ということです。
 1988(昭和63)年11月、湯木氏は、日本料理会初の文化功労賞を受賞しました。
 1991(平成3)年、湯木氏は、バブル崩壊後、孫や娘婿(料理人)に暖簾分けして、グループ会社制に移行しました(系図は下記を参照)。
 1997(平成9)年4月7日、湯木貞一氏が亡くなりました。
 1999(平成11)年、博多店では、梅酒をグラス1杯約700円で販売するようになりました。(本店では、それ以前からメニューに出ていたといいます)。酒税法では、販売目的で酒類を製造する場合、製造場ごとに管轄する税務署長の免許が必要とされています。自分が飲む場合は無免許製造は合法だが、販売すると違法となるということです。
 2007(平成19)年10月28日、「船場吉兆」が運営する「吉兆天神フードパーク」(福岡の岩田屋地下)では、売れ残ったプリン・桜ゼリーなど5種類について、賞味期限の表示を偽装していたことが明らかとなりました。
 10月29日、岩田屋の速水俊夫社長と船場吉兆の湯木尚治取締役(38歳)は、記者会見で、「岩田屋」にある販売店で販売した期限切れの商品は6種類計2971個に上るとして、謝罪しました。
 10月29日、湯木尚治取締役は、この記者会見で、涙ながらに謝罪しつつ、「販売員の判断」などと発言しました。
 10月30日、(偽装発覚後)吉兆天神の販売責任者は、湯木尚治取締役から福岡市内の日本料理店へ呼び出されました。湯木取締役は個室で「何としても会社を守っていかないといけない」と話して、あらかじめ用意していた「不正はすべて販売責任者が行った」という文書を見せました。そして、湯木取締役からそれへの署名を求められましたが、販売責任者が「事実と違う」と拒んだなどと内部告発しました。
 10月31日、パート女性は、湯木取締役から「全責任はパート女性にある」とする会社作成の「事故報告書」に署名・押印を求めら、それを拒否していました。
 11月1日、岩田屋(福岡県では有名な百貨店)は、吉兆天神の「栗のふくませ煮」などの惣菜について、消費期限切れ商品を販売していたと公表しました。
 11月1日、湯木尚治取締役は、「発注ミスで在庫を抱えた責任者が、ひそかに処分しようと独断でやった」と説明しました。それに怒ったパート女性は、尚治取締役から「期限切れ商品を販売した理由を紙に書くよう迫られた」と10月31日の内容を内部告発しました。後に、農水省は、パート女性らが本店に送っていた日報を精査した結果、「期限切れ商品を売っていたことが明白に分かる」としています。
 11月9日、「船場吉兆」の本店(大阪市)でも、九州産の牛肉を「但馬牛」としたり、ブロイラーを「地鶏」と表示していたことが発覚しました。
 11月9日、「船場吉兆」の湯木正徳社長は、記者会見で、「ブロイラーの件は業者が地鶏と偽って納入した。産地偽装の件は現場の仕入担当者が独断で行った」「知らなかった」「信頼しきっていたのに裏切られた気分だ」と発言しました。
 それについて、指摘された「とり安」(京都市)は、「地鶏として船場吉兆に販売したことは無い」と反論しました。
 11月12日、大阪の各百貨店は、「船場吉兆」の商品の取り扱いを見合わせました。
 11月14日、売り場の責任者だったパートの女性ら4人は、記者会見で、期限間近の菓子や総菜について「湯木尚治店長が”そんなん、日持ちがするんやで。1カ月くらい延ばせ。頑張って売って”と指示され、毎日、仕事の一部として賞味期限のラベルを張り替えた。(湯木取締役が)怖くて、意見を言えるような雰囲気ではなかった」と会社の組織的な関与を内部告発しました。
 11月14日夜、船場吉兆本店は、取材に対応せず、湯木取締役も携帯電話に出ない状態となりました。
 11月16日、大阪府警生活環境課は、不正競争防止法違反(品質虚偽表示)の容疑で、本社・湯木正徳社長宅・事務所など12カ所を家宅捜索しました。
 容疑内容は、「牛肉みそ漬け」などの原材料に佐賀県産と鹿児島県産の牛肉を使ったにも拘わらず、「但馬牛」「三田牛」などと表示したシールをはり、約3万円の品物を101個販売(303万円)したという。さらに3月以降、但馬牛を仕入れていなかったことも分かました。
 11月16日、「船場吉兆」の幹部は、商品表示の一部に虚偽を認めていますが、「会社ぐるみではない」「幹部の承知事項ではない」などと組織的な関与を否定してきました。しかし、府警では、偽装商品が550点と多種であることから、会社の組織的犯行の疑いが強いとみています。
 11月16日夜、新聞記者の質問(Q)に、湯木尚治取締役が次の様に答え(A)ています。
*Q1:「吉兆天神フードパークのパートらが、湯木氏から期限を延ばして売るよう指示をされたと証言している」
*A1:「言うはずがない」
*Q2:「フードパークの現場責任者の女性パートら4人、期限切れまで15日ほどに迫ったちりめん加工製品の扱いを尋ねたところ、湯木氏から”日持ちするから1カ月くらい延ばせ”と指示されたと証言している」
*A2:「(指示は)絶対にない」。「90日が賞味期限の商品だが、記録を調べたら、最長でも53日で売り切っている」
*Q3:「パートらは、フードパークが入る岩田屋とは別の百貨店で催事があった日、売れ残ったプリンの期限シールを湯木氏の目の前ではがしたことがあるとも証言している」
*A3:「その場にいた記憶はあるが、(はがす作業を)見た認識はない」
*Q4:「現場責任者の女性は偽装発覚後に約1時間半、偽装などを全部自分で行ったとする”事故報告書”に署名押印するよう湯木氏から求められた。現場責任者の女性は”私だけの責任ではない”と言って署名を拒否している」
*A4:「社内で起きたことについて、代表(取締役)あての文書をまとめ、署名押印を求めた。私がいたのは15分ぐらいだ」
*Q5:「従業員4人が14日の記者会見で”つくだ煮の期限を1カ月延ばせと言われた”と証言している」
*A5:「まったく記憶がない。百貨店に残る記録では(該当時期は)すべて期限内で販売している。従業員の言っている意味が分からない」
 11月18日、本店と心斎橋店の高級料亭で、「但馬牛すき鍋御膳」・「但馬牛網焼き御膳」と表示しながら、実際は佐賀県産や鹿児島県産の牛肉を使用していたことが発覚しました。8400円の価格でした。
 11月19日、「船場吉兆」の湯木尚治取締役は、読売TVの「情報ライブミヤネ屋」に出演し、涙ながらに、会社の関与を否定しつつ、パート女性従業員の証言や仕入れ業者の証言も否定しています。
 11月20日、高級料亭の心斎橋店では、店長を務める尚治取締役の発案で、九州産牛肉を「但馬牛」と偽って提供していたことが発覚しました。心斎橋店には、本店から一括して納入されており、船場吉兆の関係者は「店で使う肉は、すべて但馬牛と思っていた。仕入れの状況は、本店しか把握していなかった」と話しています。その背景として、「但馬牛の納入が追いつかず、品質に遜色のない九州産を使った」と釈明しています。
 12月7日、牛肉の買い付け担当だった喜久郎取締役は、先月の役員会議で「自分の指示だった」と説明していたことが分りました。
 12月10日、「船場吉兆」の湯木佐知子女将(70歳)ら取締役は、農水省近畿農政局に改善報告書の「まとめ」を提出しました。湯木尚治代表取締役は、体調不良を理由に途中で退席したといいます。
*1:「同族会社で創業一族の取締役4人が絶対的な発言権を持ち、従業員らの声を吸い上げることのできない組織になっていた」とあり、従業員が逆らえない状態だったことが明らかになりました。
*2:「社内では消費・賞味期限というものは明確に存在せず、湯木喜久郎取締役の口頭での指示に基づき、商品の梱包時から起算したラベルを張っていた」とし、消費・賞味期限へのずさんな考え方が背景にあるとしています。
*3:福岡市の店舗で行われた期限偽装は、「売れ残り商品を破棄することに対し、現場担当者に厳しい態度を取り、現場担当者に期限切れの商品を販売せざるを得ない状況に陥らせた」と九州担当の尚治取締役の責任を認めましたが、直接的な関与は否定しています。
*4:九州産牛肉を「但馬牛」や「三田牛」と表示し、産地偽装した経緯について、2003年秋に大量の仕入れが必要となったことを機に、福岡県の業者と九州産牛肉の取引を本格化させたと説明しています。2007年3月以降はすべて九州産だったと明記しています。
*5:仕入れ価格は、但馬牛が1キロ1万4000円(実質1万円)に対し、九州産が同1万3000円〜1万5000円(実質5000円)で「同程度の値段、品質だった」と記載し、湯木社長や仕入れ担当だった喜久郎取締役らの責任を認めました。
*6:ブロイラーを原材料とした鶏肉商品に「地鶏」と表示したことについて、「地鶏とは地面で放し飼いにされているものと解釈し、購入した鶏がJAS法上はブロイラーとの認識を欠いていた」と認めました。
*7:不適正表示が「丹波くろまめ」「吉兆麺」など新たに27商品(原材料の不適正表示は20商品、期限表示ラベルの張り替えは15商品)、これまでの分と合わせ計41商品であることを認めました。これは、外販60商品の4分の3で、農水省は「あまりにずさんといわざるを得ない」としています。
*8:売れ残った瓶詰商品の賞味期限が残り1カ月になると本店に返送し、フタをたたき中身が発酵していないか確認した上で、3カ月先の賞味期限のラベルに張り替え、出荷していました。
*9:天神フードパークで販売していた「めんたいこ」は、賞味期限は冷凍1年、解凍後は14日間と決まっていたが、解凍した商品も販売時に、その日から14日間の賞味期限ラベルを張っていました。配達できずに戻ってきた商品も再び冷凍し、再販売時に、2度目の解凍日から14日間のラベルを張っていました。
*10:マニュアルには地方発送する際の手順が書かれ、東京に送る時は賞味期限に2日、北海道は3日プラスしたものを張るなどと記載されていました。
*11:再発防止策として(1)幹部が辞任して新たな経営体制をとる(2)法令順守(コンプライアンス)体制の構築(3)科学的知見に基づいて賞味・消費期限を設ける(4)経営側と現場とが定期的に意見交換をするなど7項目を挙げています。
 12月10日、改善報告書の「まとめ」を提出後、佐知子女将ら取締役は、京都市内のホテルで記者会見し、経営陣の関与を認めました。
 喜久郎取締役は、牛肉の偽装表示について「調理スタッフから”いけないのではないか”と指摘されたが、規範意識がなく聞き流してしまった」と部下からの忠告を無視してきたことを明かしました。
 この会見で、マイクの性能に気がつかなかったのか、佐知子女将が長男の喜久郎取締役(45歳)に「知らんと言え」とか「頭が真っ白になった、と言え」「申し訳ありませんやろ」など返答内容を指示し、喜久郎取締役がそれをオウム返しにする声が流れました。多くの人は、かえって不信感を強めました。
 12月10日、「船場吉兆」の湯木尚治取締役(38)は10日、読売新聞の取材に応じ、福岡市の店舗で行われていた消費・賞味期限の改ざんについて、同社が改善報告書で「(尚治取締役が)指示したと言わざるを得ない」と結論づけたことに対し、「自分は指示していない」と述べ、不正への関与を改めて否定した。
 尚治取締役は、日付表示ラベルを張り替えて販売していた不正について「ずさんな管理体制が原因で管理責任は認める。しかし、実態として従業員がやっていたのは事実。従業員のせいにするつもりはないが、自分が指示したことはない」と述べた。
 12月11日、一連の偽装発覚後、全店舗で休業に追い込まれており、パートを含む全従業員約200人を対象に希望退職を募る方針を発表しました。
 12月14日、「船場吉兆」は、「お客様、関係取引先様、社会の皆様に大変なご迷惑をおかけし、食品の安全に対する信頼を裏切ったことを心よりお詫び申し上げます」として「本店において製造ないし販売していた一部商品において賞味期限ラベルの貼り替えなどがあった」ことを認める文書を公表しました。
 12月17日、「船場吉兆」のパート従業員らは、大阪市の本店を訪れ、経営陣の謝罪や給与の保障を求めました。会社側は、正社員とパート従業員を合わせた184人のうち106人が希望退職に応じたことを明らかにしました。
 12月17日、心斎橋店が入居する商業ビル「OPA」(オーパ)と、福岡市の天神店が入る百貨店「岩田屋」は、「船場吉兆」に対して、賃貸契約の解除を通知しました。
 12月26日、「船場吉兆」の4店舗で、自家製梅酒を客に提供していたことが発覚しました。自分が飲む場合は無免許製造は合法だが、販売すると違法となるということです。
 12月27日、「船場吉兆」は、「現経営陣4人のうち、創業者の娘で湯木正徳社長(74歳)の妻の佐知子取締役は残留する。役員には弁護士や従業員を加える。社長と長男の喜久郎取締役、二男の尚治取締役は退任する」と発表しました。
 12月29日、「船場吉兆」は、本店と心斎橋店・博多店で、「料亭営業を来年1月中旬にも再開する」という意向を大阪市保健所に伝えました。
長女照子 湯木俊治 東京吉兆 帝国ホテル
‖━ 湯木義夫
貞一 湯木昭二郎 湯木潤治 本吉兆 ホテル阪急
‖━ 長男敏夫 湯木康之
きく 徳岡孝二
‖━ 杉井延子 京都吉兆 リーガロイヤル
次女準子
‖━ 徳岡邦夫
上延多万喜
三女佐知子 湯木喜久郎 船場吉兆
‖━ 湯木尚治
湯木正徳
四女義子 湯木晴子 神戸吉兆 リーガロイヤル
‖━ 奥野八重子
湯木喜和
10  2008(平成20)年1月21日、「船場吉兆」の湯木佐知子社長は、22日の本店の営業再開を前に記者会見して、「従業員一丸となって一から再出発させていただきたい」と挨拶しました。また、創業者一族が経営陣に残ることについては、「事業継続を考えれば、私の就任が最善と理解されると思う」と説明しました。
 同席していた弁護士は、「総菜や菓子などの物販部門を廃業し、船場吉兆の本店は再開する。心斎橋店と福岡天神店は撤退し、博多店は再開を交渉中である。」と語りました。
 湯木佐知子社長が同席する中で、取締役に就任した山中啓司料理長(47)は、「我々も意見を幾度となくしたがそれを受け入れてもらえなかった」と語りました。
*Q1:聞き入れてもらえなかったのは、正徳前社長?
*A1:言葉を選んで「はい」
*Q2:部下でどのレベルまで偽装を知っていた?
*A2:「作る側ですからだいたい…ほとんどの人間は…はい」
その他の発言を紹介すると、「(偽装をやめるよう)前社長に意見したが、”同等の肉のレベル。問題ない”と受け入れられなかった」「力及ばずと言うか、ご主人には意見しても聞き入れてもらえなかったのが事実です」などです。
11  本店で13年間料理人を務める遠藤亮一さん(33)は、記者の質問に次の様に語りました。
*Q1:正徳氏が会見で、「牛肉の仕入れは中堅社員が1人で担当していた」と言ったのを聞いてどう思ったか?
*A1:「正直、会見を見た時は何を言ってるのかな」「ふざけるなという気持もありました」「(偽装)はもちろん知っていました」
*Q2:意見を言ったことはあるか?
 「ラベルと中身がちがうことで喜久郎(取締役)さんを問いただしたこともあります」「僕自身もあるし、調理全体で何回か問いただしたことがあります」
*Q3:それに対しては?
*A3:「別に問題ないとか、新しいラベルと作ると10万枚単位で発注しなければいけないと言っていた」
*Q4:旧経営陣にたいしては?
*A4:「喜久郎(取締役)さんは近いようで遠い存在」「一応近くにいますけど、意見は吸い上げてくれるわけではないし、意見を言うことはできるが、あの人から正徳(社長)さんに上げることはなかった。近くにいるけど結局は経営陣側」「正徳(社長)さんに意見するなんてとんでもない…雲の上の人
12  船場吉兆で22年間働いてきた深田和明さん(41)は、再開後、品質管理担当者に抜擢されました。
 このとき、深田さんは、スイート紅芋、明太子コロッケ、抹茶ゼリーなど創業者一族による拡大路線のひずみを改めて思い知らされたといいます。
13  1月22日、食品偽装表示問題で昨年11月から休業していた高級料亭「船場吉兆」本店は、約2か月ぶりに営業を再開しました。船場吉兆によると、この日昼には常連客ら9組28人が訪れ、夜には7組31人の予約が入っているということです。
 湯木佐知子社長は、「従業員一丸の再出発」を強調しましたが、社長には思わぬハプニングがありました。184人の社員・パートのうち約110人が退職したという問題の解決を後に回し、開店を早めてきました。
 その結果、一番目出度い開店時間に合わせて、パート従業員らは、船場吉兆本店前で、ビラを配布して抗議行動を行いました。
 そのビラの内容は以下の通りです。
 「(株)船場吉兆は事業再開するならば、まずは経営者を一新することから始めよう!
 2007年10月より始まった船場吉兆による一連の食品偽装事件の責任は誰にあるのか?
 湯木佐知子現社長、湯木正徳前社長、湯木喜久郎前取締役、湯木尚治前取締役。その責任はこの4名にあったことは周知の事実であります。この一家の絶対服従の社内体質のため従業員は口を封じられ、声をあげることも、悲鳴をあげることもできなかったのです。…
 船場吉兆がすべての膿みを吐き出し、社会に対して反省の意を表明するには、その体質を生み出した張本人である前経営陣4名が全員辞任し、一切の経営から手をひくことが必要であります。…」
偽装列島日本からの脱皮
 船場吉兆の記事を見ると、ブランドにおける問題点の全てが露呈しています。
(1)まず、湯木貞一氏が確立したブランド維持・発展させる過程で、質より量という偽装に手を染めたということです。
(2)偽装を従業員が知っているにも拘らず、臭い物に蓋をするように押さえ込む独裁体制が出来ている(「聞き入れてもらえなかった」「雲の上の人」という表現がそれを端的に示している)。
(3)ブランド力を過大化して、拡大路線にのめり込んでいきました(「拡大路線のひずみ」)。
(4)内部告白によって偽装が発覚しました。
(5)湯木正徳社長(74歳)・長男喜久郎取締役(45歳)・次男尚治取締役(38歳)の全員が、会社の組織ぐるみの偽装を否定し、部下に責任を転嫁しました。
(6)農水省や警察の捜査で、会社の組織ぐるみの偽装が明るみに出たにも拘らず、最高責任者の湯木正徳社長ともっとも過激に部下の従業員を誹謗・中傷した次男尚治取締役が姿を消したことです。謝罪は辛い。しかし、その責任を果たすために高い地位と名誉、そして大金を手にしているのです。社長・常務が未だに責任を果たしていない
(7)その結果、70歳の女将が謝罪の場に出てきて、長男喜久郎取締役に「頭が真っ白になったと言え」などヒソヒソ指示した言葉が集音マイクに拾われ、「ヒソヒソ女将」と揶揄される失態を演じました。肉を切らせて骨を切る、どんなことがあっても大事な玉は絶対に守るという精神に欠けている
(8)湯木正徳社長(74歳)・長男喜久郎取締役(45歳)・次男尚治取締役(38歳)という立派な顔ぶれにも拘わらず、次代を担う若女将を育成を怠っていたのか、70歳の女将がピンチの救世主では荷が重すぎはしないか。
(9)従業員あってのブランドです。ブランドの料亭に行くと、本当にそつなく、一番美味しい状態で、食べることができます。仲居さんの応対もきびきびして、こんな人を妻にしたいと思うほどです。その従業員から目出度い門出に冷水を浴びせられるということは、従業員対策が欠けていたということです。
 しかし、1月21日の会見を見ていて、ほっとした部分がありました。湯木佐知子社長の前で、山中啓司料理長が真実を語ったことです。社長は退席していましたが、TVカメラの前で、遠藤亮一さんが臭い物は臭い物と言い切ったことです。
 私は、こう言える人がいる限り、またこう言える雰囲気がある限り、船場吉兆は立ち直ると思いました。
 従業員の前できちんと謝罪し、共に頑張って欲しいと思います。
 不満を持った従業員は会社では1人の従業員です。解雇された人も会社では1人の従業員でした。しかし、彼や彼女には家族があります。4人家族だとすると、退職した110人を掛けると、440人になります。この家族には、兄弟や親戚もいます。その友人もいます。彼や彼女たちの総和は凄い数になります。口コミとして、支援する側に回るのか、反対の側に回るのか、重要な要素です。
 従業員に責任を転嫁した会社の幹部たちは、潔く自分の非を認め、謝罪し、同じ土俵で再建に向かって欲しいと思います。
 現場で働く人が財産です。ブランドの生命です。ブランドを維持してきたと言うことは、料理にしても、接待にしても、高い技術やマナーを身につけているからです。
 料理人は勿論、接待の人をはじめ、全ての人が、自分の会社に誇りを持って働けるようにするのが、責任ある地位にある人の務めです。

 名前やラベルに頼らずに食品を選ぶにはどうすればいいのか。
 神奈川県藤沢市の主婦瀬戸内恵さん(33)はある日、義母の富枝さん(61)と一緒に買い物に出いた。賞味期限や原材料欄見ている恵さんの横で、富枝さんは表示よりも商品を手に取ってじっくり見る。特に魚を見る目は厳しい。
 「産地やブランドよりも、鮮度が大切」。目が濁っていないか、身に張りはあるか、光り具合はどうか。富枝さんは「親から自然と受け継いだ勘みたいなもの」という。賞味期限を過ぎても、煮たり焼いたりすれば大丈夫。賞味期限が3カ月過ぎたこんにゃくもおでんにしておいしく食べる。
 「表示も結構だ.けれど、自分の感覚を持つことも大切ではないでしょうか」
 食品ジャーナリストの中村寿美子さんは…テレビの料理番組に長年携わる中で「普段から家庭で本物を食べてないから戸惑う。消費者は自分の舌で判別できる力を養うべきだ」と訴える。
 以上は朝日新聞の「ニセモノ社会 脅かされる食卓」と題して報道された記事の一部です(2008年1月1日付け)。
 上の記事を私の妻に見せたところ、「実行できる人は一部の人でしょうね。余り参考にはならない」とばっさり、言われました。
 「じゃ、どうすればいい」と質問すると、妻から次のようなエピソードと提案を聞かされました。
 同僚が本物で高価な数の子を実母に歳暮として贈りました。すると実母から「あんな気持の悪い数の子より、本物の数の子の方がいい」と苦情の電話があったというのです。本物の数の子は、ボケたような白っぽい色をしています。しかし、庶民が見る数の子は、フンダンに着色料と保存料を使って「見た目に美味しく、綺麗な数の子」です。
 そのことから、妻は、店の展示として、着色料も保存料も使っていない商品(高価)と使っている商品(安価)を並べるべきだと主張するのです。
 そういえば、私にも体験があります。
(1)昔、父は、よく鯨の肉を買って来ました。牛や豚より安いからです。最近、鯨の肉を見たことがあります。非常に鮮やかな美味しそうな色をしています。小さい時の経験がありますから、これは着色料も保存料をたっぷり使っていることがすぐ分ります。店員さんに聞くと、この方がよく売れるというのです。
(2)私の同僚で、実家がミカン農家の話です。実家の父も母もミカンにワックスを塗るのは反対だったのですが、ワックスを塗ったミカンが売れ、塗っていないミカンは返品されたというのです。
10  これも私の体験です。
 今から20年ほど前の話です。知人から「フライドチキン」を貰いました。知人は子供がどうしても欲しいというので、神戸まで行き、長いこと並んで買って来たと言うのです。私の子供も大喜びでした。私の食べて、その美味しさに言葉を無くしたほどでした。
 しかし、ここからが他の人と違うところです。美味しいには違いないのですが、チキン(鶏)そのものの味が全くないのです。つまり素材の味が調味料で消されているのです。
 私は、小学生から大学生になるまで、父に農作業を徹底的にしごかれました。あの辛い、厳しい体験が今は有り難い教訓に残って残っています。大根や人参、なんでも、世話をすればするほど、そのままで、水気があって甘いのです。不味い大根や人参は、炊いて、醤油や砂糖を、多量に入れて、入れて誤魔化すのです。
 つまり、フライトチキンのチキンそのもの(素材)は不味いのではないのかと思ったわけです。
11  そこでフライドチキンの調理・歴史などを調べてみました。
 日本には「唐揚げ」があります。生の鶏に片栗粉を衣として揚げます。味付けは、薄味なので、鶏の素材の味を楽しめ、米飯のおかずや酒の肴にもなります。
 他方、フライトチキンは、蒸すか茹でた鶏に小麦粉を衣として揚げます。味付けは、スパイスを効かせて濃いめなので、鶏の素材よりも、鶏の肉・皮や骨までを食べて満腹感を味わい、フライドポテトやハンバーガー・コーラと一緒に食べます。
 ヨーロッパでは、鮮度の落ちた食材や骨・皮の多い食品も、油で揚げることで食べられるということから、揚げ物は貧困層の食べ物とされていました。また、アメリカでもフライドチキンは南部の黒人の好物と考えられていました。
 日本には、今から20年ほど前、コーラと共にフライトチキンが日本に進出してきたということです。
12  生の物は、ある程度、識別できます。しかし。加工品はほとんどできません。
 食品を扱う人は、生命を預かっているという使命感を持って欲しいと思います。
 着色料も保存料も使っていない商品(高価)と使っている商品(安価)を並べるべきだと言う他はないのでしょうか。

13 *追記(2008年5月13日)
 上記の文章は、2008年1月24日の作成し、2月14日にアップしました。私は、「解雇された従業員や家族・親戚・知人が口コミとして、支援する側に回るのか、反対の側に回るのか、重要な要素です」と指摘しました。
 5月2日に、「高級料亭”船場吉兆”は、昨年11月の営業休止前まで、本店の料亭で客の食べ残した食事を別の客に再び出していたことを明らかにした」とあります。湯木社長は、「警察から知らされるまで知らなかった」とTVで発言していました。
 客の食べ残したものを別の客に出す行為は、内部の者しか知り得ない情報です。新聞やTVはその点を語っていませんが、内部告発があったということでしょう。膿を出し切らず、臭い物に蓋をした結果です。
14  我が家の場合を考えると、「もったいない」と思うのは、家族が食べ残した場合で、家族以外考えられません。家族以外に出すとすると、「罪悪感」がつきまとうでしょう。金に目がくらんで、罪悪感がなくなれば、それは犯罪です。客との信頼で成り立つ商(あきない)からは退場すべきです。
 5月13日、大阪府内の高級料亭など約160社で構成する府料理業生活衛生同業組合は、組合員である船場吉兆に退会を勧告する方針を決め、大阪府に伝えました。 その理由を「業界の常識、良識に反する行為で許し難い。同じ料亭をはじめ他の料理店に風評被害が大きい」としています。
 同業者から見放されては、もうダメでしょう。
 先代の湯木貞一氏に対してでなく、客や従業員に泣いて謝るべきでした。残念です。

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