| 2 | 原審の判断及び不服申立て(005P) | |||
| (1) | 原審は、次のように判断して、控訴人らの各請求を棄却した。 | |||
| ア | 「沖縄ノート」は、座間味島及び渡嘉敷島の守備隊長を それぞれ控訴人梅澤及び赤松大尉であると明示していな いが、引用された文献、新聞報道等でその同定は可能で あり、本件各書籍の各記載は、控訴人梅澤及び赤松大尉 が残忍な集団自決を命じた者であるとしているから、控 訴人梅澤及び赤松大尉の社会的評価を低下させる。 | |||
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| イ | 「太平洋戦争」は、太平洋戦争を評価、研究する歴史研 究書であり、「沖縄ノート」は、日本人とは何かを見つめ、 戦後民主主義を問い直した書籍であって、控訴人梅澤及び 赤松大尉に関する上記各記述を掲載した本件各書籍は、公 共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的で 出版されたものと認められる。 | |||
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| ウ | 控訴人らは、梅澤命令説及び赤松命令説は集団自決につ いて戦傷病者戦没者遺族等援護法(「援護法」)の適用を 受けるための捏造であると主張する。 しかしながら、複数の誤記があるとは認められるものの、 戦時下の住民の動き、非戦闘員の動きに重点を置いた戦記 として資料的価値を有する沖縄タイムス社編「鉄の暴風」、 米軍の「慶良間列島作戦報告書」などが援護法の適用が意 識される以前から存在しており、捏造に関する主張には疑 問がある。控訴人らの主張に沿う照屋昇雄の発言や宮村幸 延の「証言」と題する書面は採用できない。 | |||
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| エ | @ | @座間味島及び渡嘉敷島ではいずれも集団自決に手榴弾 が利用されたが、多くの体験者が日本軍の兵士から米軍に 捕まりそうになった際の自決用に手榴弾が交付されたと語 っていること、A沖縄に配備された第三二軍が防諜に意を 用いており、捕虜になることを禁じ、渡嘉敷島では防衛隊 員が身重の妻等の安否を気遺い数回部隊を離れたために敵 に通謀するおそれがあるとして処刑されたほか、米軍に庇 護された少年2名、投降勧告に来た伊江島の男女6名が同 様に処刑されたこと、米軍の「慶良間列島作戦報告書」の 記載も日本軍が住民が捕虜になり日本軍の情報が漏れるこ とを懸念したことを窺わせること、B慶良間列島が沖縄本 島などと連絡が遮断され、食糧や武器の補給が困難な状況 のもとで、第一、第三戦隊の装備からして手榴弾は極めて 貴重な武器であったところ、自決にはこれが使用されてい ること、C沖縄で集団自決が発生したすべての場所に日本 軍が駐屯しており、日本軍が駐屯しなかった渡嘉敷村の前 島では集団自決が発生しなかったことなどの事実を踏まえ ると、集団自決については日本軍が深く関わったものと認 められる。そして、それぞれの島では控訴人梅澤及び赤松 大尉を頂点とする上意下達の組織があったことからすると、 それぞれの島における集団自決に控訴人梅澤及び赤松大尉 が関与したことは十分に推認できる。しかしながら、自決 命令の伝達経路等が判然としないため、本件各書籍にある ような各自決命令それ自体まで認定することには躊躇を禁 じ得ない。 | ||
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| オ | 控訴人梅澤及び赤松大尉が集団自決に関与したものと推 認できることに加え、平成17年度までの教科書検定の対 応、集団自決に関する学説の状況、判示した諸文献の存在 とそれらに対する信用性についての認定及び判断、家永三 郎及び被控訴人大江の取材状況等を踏まえると、控訴人梅 澤及び赤松大尉が本件各書籍記載の内容の自決命令を発し たことを直ちに真実であると断定できないとしても、その 事実については合理的資料若しくは根拠があると評価でき る。したがって、本件各書籍の各発行時において、家永三 郎及び被控訴人らが本件各記述が真実であると信ずるにつ いて相当の理由があったものと認めるのが相当である。そ のことは原審口頭弁論終結時(平成19年12月21日) においても径庭はない。 | |||
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| カ | 「沖縄ノート」には赤松大尉に対するかなり強い表現が 用いられているが、沖縄ノートの主題等に照らして、被控 訴人大江が赤松大尉に対する個人攻撃をしたなど意見ない し論評の域を逸脱したものとは認められない。 | |||
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| キ | したがって、被控訴人らによる控訴人梅澤及び赤松大尉 に対する名誉毀損は成立せず、それを前提とする損害賠償 はもとより本件各書籍の出版等の差止請求も理由がない。 | |||
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| (2) | そこで、控訴人らは、上記判断を不服として、事実認定及 び法律判断の誤りを主張して控訴した。 | |||
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| (3) | なお、控訴人らは、原審では、被控訴人岩波書店に対して、 慰謝料として各1000万円(控訴人梅澤は「太平洋戦争」 の出版等によるものとして500万円、「沖縄ノート」の出 版等によるものとして500万円、控訴人赤松は、「沖縄問 題二十年」の出版等によるものとして500万円、「沖縄ノ ート」の出版等によるものとして500万円)及びこれに対 する平成17年9月11日から支払済みまで年5分の割合に よる遅延損害金の支払を、被控訴人大江に対して、慰謝料と して各500万円(「沖縄ノート」の出版等によるもの)及 びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求めていた。 しかし、控訴人らは、当審において、平成19年12月に、 軍命令が確認できないとする文部科学省の平成18年度の教 科書検定意見が維持され、かつ、梅澤命令説及び赤松命令説 に真実性が認められないとした原判決が言い渡された後も、 被控訴人らが本件各書籍の出版、販売を継続し、特に「沖縄 ノート」については増刷を重ねている(平成20年4月24 日に第58刷、同年5月7日には第59刷)として、請求を 拡張し、新たに、上記出版、販売継続に係る慰謝料として、 控訴人梅澤は、被控訴人岩波書店に対し、1000万円 (「太平洋戦争」と「沖縄ノート」の各出版、販売継続によ るもの)及びこれに対する平成20年6月25日(当審第1 回口頭弁論期期日)から支払済みまで年5分の割合による損害 賠償金の支払請求を、控訴人らは、被控訴人大江に対し、各 500万円(「沖縄ノート」の出版、販売継続によるもの) 及びこれに対する前同日から支払済みまでの遅延損害金の支 払請求を付加した。 他方で、控訴人赤松は、原審で請求していた被控訴人岩波 書店に対する「沖縄問題二十年」の出版、販売に係る慰謝料 の500万円及びこれに対する遅延損害金の請求を取り下げ るとして、同金額について被控訴人岩波書店に対する請求を 減縮した。 | |||