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争点A(名誉毀損性の有無)について(032P)
(1) 控訴人らの主張
 本件記述(1)は、不特定多数の読者に対し、座間味島の守備隊長であった控訴
人梅澤が部隊の食糧を確保するため平然と住民の生命を犠牲にした冷酷鬼のよ
うな人物であるという印象を与え、控訴人梅澤個人の人格を非難し、その社会
的評価としての名誉を毀損し、その名誉権と名誉感情を侵害するものである。

 本件記述(2)は、渡嘉敷島の集団自決がその守備隊長であった赤松大尉から発
せられた命令によって発生し、座間味島の集団自決がその守備隊長であった控
訴人梅澤から発せられた命令によって発生したとの事実を摘示したものと読み
取れる。
 本件記述(3)ないし本件記述(5)は、本件記述(2)と同じく、渡嘉敷島の守備隊長
であった赤松大尉が無慈悲な集団自決命令を出したという赤松命令説を間接的
ないし黙示的に事実摘示する事実表現若しくは赤松命令説を前提とする意見論
評で、「屠殺者」「戦争犯罪者」等の個人非難を向けるものである。
 こうした沖縄ノートの各記述は、控訴人梅澤及び赤松大尉の社会的評価を著
しく低下させるものである。

(2) 被控訴人らの主張(033P)
否認し、争う。

 沖縄ノートの各記述は、(1)集団自決命令が座間味島の守備隊長によって出さ
れたことも、控訴人梅澤を特定する記述もなく、また、(2)集団自決命令が渡嘉
敷島の守備隊長によって出されたことも、赤松大尉を特定する記述もなく、一
般読者の普通の注意と読み方を基準とした場合、控訴人梅澤や赤松大尉が集団
自決を命じた事実を摘示したものではなく、控訴人梅澤及び赤松大尉の名誉を
毀損することはありえない。

争点B(目的の公益性の有無)について(033P)
(1) 被控訴人らの主張
 「太平洋戦争」は、歴史研究書であり、本件記述(1)は、「戦争における人間
性の破壌一『戦争の惨禍』上」と題する章において、日本軍の民間人に対する
態度の例として記述されたものであり、もっぱら公益を図る目的によるもので
あることは明らかである。

 沖縄ノートは、沖縄の人々が「琉球処分」「皇民化教育」により日本国の体
制に組み込まれ、太平洋戦争で本土防衛のための悲惨な戦場とされ多数の住民
が犠牲となった上、戦後はサンフランシスコ条約によって米国の施政権下に残
されて米国の前線基地とされ、核戦略体制の下で核兵器による恐怖の捨て石と
され、本土のため犠牲にされ続けてきたと指摘し、その沖縄について、「核つ
き返還」などが議論されていた昭和45年当時、沖縄の民衆の重く鋭い怒りの
矛先が被控訴人大江ら日本人に向けられていることを述べ、そのような日本人
であることを恥じ、自分を変えることはできないかと自問し、日本人とは何か
を見つめ、戦後民主主義を問い直したものである。そして、沖縄ノートの各記
述も、沖縄戦における集団自決の問題を本土日本人の問題として捉え直したも
のである。
 したがって、沖縄ノートの各記述は、公共の利害に関する事実について、も
っぱら公益を図る目的で書かれたものであることは明らかである。

(2) 控訴人らの主張(034P)
 「太平洋戦争」については、第2・2(4)アの限度で認める。

 沖縄ノートについては、第2・2(4)イの限度で認め、その余は否認し、争う。
 沖縄ノートの各記述の前提には、悲惨な集団自決が控訴人梅澤及び赤松大尉
による自決命令に基づくものであるという全く虚偽が置かれており、そして、
そのことこそが被控訴人大江の自問と卑下と自虐的反省の中核部分を占めてい
たのであり、したがって、その自問による反省が全く的外れな昏迷に深みに陥
ってしまったのは、故無きことではない。
 したがって、控訴人らは、沖縄ノートの各記述が公共の利害に関する事実に
係わることは認めるが、それがもっぱら公益を図る目的によるものであるとの
主張は否認し、争う。

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