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孫に伝える小説忠臣蔵

第一章
【004回】吉良家のルーツを探る(1)━吉良上野介ってどんな人?

この小説忠臣蔵に登場する人物
 中学生になったばかりの孫娘とその友達の2人がホームページをアップする計画をたてました。
 孫娘の1人が大野九郎兵衛を先祖に持つということで、「忠臣蔵」をテーマに選びました。
 「忠臣蔵新聞」を発行する湖南土井瑠に聞くことになりました。
 湖南土井瑠の孫娘が湖南あこなです。彼女は、本読みが好きです。クラブ活動は吹奏楽で、家では華道をしています。
 大野九郎兵衛の子孫は大野蛍子です。彼女は、忠臣蔵にとても興味があります。クラブ活動は剣道部です。
 2人の共通の友人が木村葉月です。彼女は、歴史にとても興味があります。クラブ活動はバスケット部で、家では湖南あこなと同じ先生に茶道を習っています。
 華道・茶道の先生は、湖南土井瑠の知人で、とても、芸道に詳しい人です。

吉良上野介ってどんな人?
悪い人・強欲な人・怖そうな人
 湖南土井瑠「吉良家のルーツを調べる前に、みんなに、吉良上野介はどんな人か聞いてみたいなー」
 大野蛍子「浅野内匠頭をいじめたんでしょう。悪い人だと思います」
 木村葉月「私も、浅野内匠頭の贈り物が少なかったので、怒ったんでしょう。強欲な人だと思います」
 湖南あこな「吉良上野介役の俳優さんは、みんな怖そうな顔の人をしているので、そんなイメージを持っています」
 土井瑠「表面的に見ると、そうかも知れないね」

吉良町に残る吉良上野介の彫刻を見て
悪い人に見えない・上品・優しい
吉良上野介(吉良町:華蔵寺)
 土井瑠「この写真を見てごらん。この写真は吉良町の菩提寺である華蔵寺にある吉良上野介の彫刻です。この写真を見てどう思うかな?」
 蛍子「この写真が吉良上野介ですか。いじめをするような悪い人にはとても見えません」
 葉月「上品な顔立ちで、強欲とは反対のような人に見えます」
 あこな「私も、同じで、優しそうな感じです」

どうして悪いイメージが定着したのでしょうか?
吉良町に残る吉良上野介の彫刻を見て
悪い人に見えない・上品・優しい
 土井瑠「この写真で見る限り、上品で、優しそうな人だね。では、どうして、悪役のイメージがみんなにまでしみ込んだのだろうね?」
 あこな「TVや映画、小説の影響ですか」
 葉月「姫路出身の松浦亜弥さんの『忠臣蔵 決断の時』が最近再放送されたので、見たんですが、ここでも、吉良上野介は嫌われ役でした」
 土井瑠「このTVドラマは赤穂浪士が討ち入りした47年後に作られた『仮名手本忠臣蔵』を下敷きにしているので、この頃も既に、吉良上野介は悪役として描かれているね」
 蛍子「私も、父と一緒に録画していたNHK大河ドラマ『元禄繚乱』を見ました。柳沢吉保の権力を借りて、浅野内匠頭をいびっていました」
 土井瑠「やっぱり悪者になっているね」

『おしん』などの脚本家の橋田壽賀子さんの話
「視聴者を笑わすことは難しいが・・」
「視聴者を泣かせることは、とても簡単です」
長編アニメーション映画『おしん』(宣伝パンフレットより)
 土井瑠「『おしん』というテレビを見たことがあるかな」
 あこな「録画の総集編を見たことがあります」
 土井瑠「『隣の芝生』とか『渡る世間に鬼ばかり』は?」
 蛍子・葉月「『渡る世間に鬼ばかり』は見たことがあります」
 土井瑠「このシナリオ(脚本)を書いた人が橋田寿賀子という人なんだ。橋田さんは「シナリオで人を笑わすことは難しいが、泣かせることはとても簡単なんですよ」と話している」
 3人「どういうことですか」
 土井瑠「笑いは予期できないが、泣かせる一番の要素は、ある人物を徹底的にいじめ、その人物は耐えに耐えるように描くと、必ず人が泣くということなんだ」
 あこな「おしんも、これでもかといういじめに、じーっと耐えていますね。おしんが自分のことのように思えて涙が出て出て仕方がありませんでした」
 蛍子「中華料理店の幸楽の二階には、嫁にいった泉ピン子さんがえりなかずきさんら2人の子どもと同居しています。そこへ従業員役の岡本信人さん夫婦が同居するようになります。岡本さんの妻が吉村涼さんやえりなかずきさん兄弟と色々と嫌味を言ったりしていじめます。とても可哀想で涙が出てきました」
 土井瑠「私は『渡る世間に鬼ばかり』は見ていないが、『おしん』の総集編は録画して残しているよ。子役の小林綾子さんのおしんが貧しく、学校にも行けず、子守奉公先で、つらい仕事に耐え、泥棒扱いをされて、実家に逃げ帰っても、貧しい家に落ち地区ことが出来ない。泣きはしなかったが、ジーンときたね」

芝居は悪役が悪いほど盛り上がる
他人の不幸は大きいほど面白い」
いじめは凄く、耐えに耐える方が泣けてくる
 あこな「つまり、映画やテレビは、いじめが凄い方が、ハラハラするというシナリオって奴ね」
 葉月「いじめに耐えに耐える物語は泣けてくるもんね」
 蛍子「私の先祖の大野九郎兵衛も、悪役にされていますが、確かに、盛り上がりますね。残念だけど・・」
 土井瑠「最近、白か黒かとか、善か悪かとか、簡単に決めがちになっているね。その方が単純で分かりやすいかも知れない。でも、人間にしても、社会にしてもそんなに単純で簡単の者ではない」
 3人「どういうことですか?」
 土井瑠「例えば、自分を好きな友達が自分の噂すれば良いように言うね。逆に自分に反感を持っている人が自分の噂をすれば、どうかな?」
 3人「悪く言う!!」
 土井瑠「そうなんだ。両方の意見を聞かないと、正しい判断が出来ないということなんだ」

徳川家康
吉良家のルーツを調べる
吉良家の一門に初代将軍足利尊氏
徳川家康は高家(室町時代の名門)として吉良家を採用
吉良家の地位は将軍・御三家と同じ
 蛍子「大野九郎兵衛をかばって、吉良上野介の悪口をいうのは偏っているということですね。では、吉良上野介ってどういう人なんですか」
 あこな「私も本当の吉良上野介が知りたい」
 葉月「私も知りたい」
 土井瑠「いきなり上野介に行く前に、何故、吉良家が江戸時代、重要な仕事についたかを知る必要があるんだよ」
 3人「ふーん」
 土井瑠「下の(系図5)を見てごらん。吉良上野介の本名は吉良義央というんだ。その先祖を見ると、室町幕府の初代将軍足利尊氏と同族ということが分かるね」
 3人「もっと詳しく説明して下さい」

 土井瑠「@長氏の兄・泰氏の家から足利尊氏が出ている。A満貞は動乱の時代に足利義詮を二代将軍にした功により大名から下馬の礼を受けている。A満貞と弟のB尊義は仲が悪く、吉良家は分裂している。C義安は、東条吉良家の養子となる」
 土井瑠「D義昭は、三河一向一揆との戦いに敗れ、西条吉良家は滅亡している。しかし、この戦いで徳川家康と懇意になった東条吉良家の養子・E義安は、徳川家康の叔母を妻に迎えている。吉良上野介の祖父F義弥は徳川家康から初代の高家に抜擢され、さらに、吉良上野介の父G義冬は徳川家康から従四位上の位を与えられている」
 あこな「徳川家康と吉良家の関係は、そうとう濃密だったんですね」
 土井瑠「そこがポイントだね。よく覚えておくといいよ」
 蛍子「高家とは何ですか」
 土井瑠「これも大切なポイントだね。室町時代(1336〜1573年)の約250年間、京都に居て貴族社会のマナー(儀式・典礼)と接した吉良家ら少数の格式ののことだね」
 葉月「従四位上の位のとはどんなに価値があるんですか」
 土井瑠「よく気がついたね。当時の正装を見ると、五位の人は大紋、従四位下の人は狩衣、将軍・御三家・従四位上の人は直垂となっている。つまり、吉良家は将軍家と同じ家格なんだね」
 3人「吉良家ってすごいんですね」

源義国 足利義兼 義純 (畠山氏の祖)
家氏 (斯波氏の祖)
義氏 泰氏 頼氏 家時 貞氏 足利尊氏
@長氏 満氏 貞義 満義 A満貞 (西条) (三代略) *1
新田義重 (新田氏の祖) B尊義 (東条) (三代略) *2
義郷 (没)
*1 (西条) 義元 義堯 C義安
D義昭 (戦死)
*2 (東条) 義藤 義春 E義安 義定 F義弥 G義冬 義央 義周
系図(5)

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