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孫に伝える小説忠臣蔵

第一章
【005回】吉良家のルーツを探る(2)━先祖は足利尊氏や源頼朝だった

この小説忠臣蔵に登場する人物
 中学生になったばかりの孫娘とその友達の2人がホームページをアップする計画をたてました。
 孫娘の1人が大野九郎兵衛を先祖に持つということで、「忠臣蔵」をテーマに選びました。
 「忠臣蔵新聞」を発行する湖南土井瑠に聞くことになりました。
 湖南土井瑠の孫娘が湖南あこなです。彼女は、本読みが好きです。クラブ活動は吹奏楽で、家では書道をしています。
 大野九郎兵衛の子孫は大野蛍子です。彼女は、忠臣蔵にとても興味があります。クラブ活動は剣道部です。
 2人の共通の友人が木村葉月です。彼女は、歴史にとても興味があります。クラブ活動はバスケット部で、家では茶道を習っています。
 書道の先生も茶道の先生も、湖南土井瑠の知人で、とても、芸道に詳しい人です。

清和天皇(写真1)

棟貞
皇女
||
||━
貞純
親王

経基

満仲







頼朝
清和
天皇



(新田氏の祖)





足利
尊氏

吉良
義央
系図(6)

吉良氏の先祖は清和天皇
『源氏物語』から当時の社会を推測
 湖南土井瑠「前回は、吉良家は室町時代の将軍家の親戚だったという話をしたね。今回は、もっと先祖をさかのぼって吉良家の歴史を考えてみようね」
 大野蛍子「前回でも圧倒される感じだったのに、ドキドキします」
 土井瑠「写真(1)は、清和天皇だよ」
 木村葉月「清和源氏という言葉を聞いたことがあります。清和天皇と関係があるんですか」
 土井瑠「難しい事を知っているね。系図(6)を見ると、清和天皇の孫の経基王が臣下となって清和源氏を名乗ったことが分かるね」
 湖南あこな「それで、源経基というですね。ところで、臣下となるとはどういうことですか」
 土井瑠「『源氏物語』を知っているかな。『源氏物語』の主人公のお父さんは桐壺帝、お母さんは桐壺更衣なんだ。当時、天皇は10人の妻を迎えることが正式に認められたいたんだ。お父さんの地位によって、皇后、女御、更衣という名前を与えられていたんだよ。主人公のお母さんは更衣なので、お父さんの地位が一番低かったということが分かるね。そこで、お父さんの桐壺帝は主人公の皇族における将来を考え、家臣の貴族にして、源氏という苗字を与えたんだよ」
 葉月「それで主人公が光源氏というですね」
 土井瑠「そうそう。苗字を与えて、家の貴族にすことを、臣下とするというんだ」
 あこな「本来、天皇の一族になる人だけに、尊敬の目で見られていたんですね」
 蛍子「吉良家の先祖は、そんな人だったんですね。やはりびっくりですね」

源義家(写真2)
源頼信・頼光兄弟の活躍
源頼信の孫・源義家、武士として初めて貴族の仲間入り
 土井瑠「びっくりするのは、未だ早いよ。長元4(1031)年に源経基の孫・源頼信が平忠常の乱を平定して東国に進出するきっかけを作ったんだ。源瀬信のお兄さんが『酒呑童子』で有名な源頼光です」
 あこな「知ってる、知っている。有名な鬼退治の話ですね」
 蛍子「私も父に連れられて、京都の大江山に行った時、酒呑童子の話を聞いたことがあります」
 葉月「源氏も色々なところで活躍しているんですね」
 土井瑠「そうだね。この源頼信の孫・源義家は、前九年の役とそれに続く後三年の役を平定したんだ。その功によって、源義家(写真2)は承徳2(1098)年に、武士として初めて、昇殿を許されて、貴族の仲間入りをしたんだよ」
 あこな「「昇殿ってどういうことですか」
 土井瑠「天皇が日常住んだ所を清涼殿といい、その南に貴族が詰め所を殿上の間というんだよ。つまり、殿上の間に昇ることで、それは貴族にのみ許されていたことなんだ」

宿直『春日権現験記』(写真3)
源頼信・頼光兄弟の活躍
源頼信の孫・源義家、武士として初めて貴族の仲間入り
 蛍子「えーっ。それって、どういうことですか」
 土井瑠「今でこそ、侍・ジャパンとかサムライ・ブルー(W杯サッカー日本代表選手のユニホームの色)とか言っているけれど、平安時代の侍はつらい仕事をしていたんだよ」
 あこな「つらい仕事?」
 土井瑠「写真(3)を見ると、左下の軒先に居るのが平安時代の侍の姿なんだよ。右上の布団の中に居るのが主人の貴族なんだ」
 葉月「どきっとする絵ですね。もっと詳しく説明して下さい」
 土井瑠「そうだね。刺激に強い絵かも知れないね。吉良家の先祖を探るというテーマと外れるが、吉良家の歴史を知るには、日本の歴史を知る必要があるということからすると、大切なことだね。侍の歴史を知るには欠かせない絵なんだ」

 妻の出したコーヒーとお菓子を食べながら、
 土井瑠「サムライという字は侍と書くね。侍の動詞は『侍らふ』で、貴族に仕えるという意味でなんだ。写真(3)を説明すると、貴族が妻の家に行き、寝ている間、軒下でじーっと待っているサムライの姿なんだよ」
 あこな「ということは、貴族からすると、サムライは番犬のような立場ってことですか」
 土井瑠「その通りだね。その証拠がこの絵巻ということになるね」

 葉月「余談なことですが、夫が妻のところへ行くという意味が分かりません」
 土井瑠「これも、当時の歴史を知らないと、意味が通じないかも知れないね。当時は、妻問婚(つまどいこん)といって、子供は母親の元で成長し、大人になった男子が他家の娘の元に通うという結婚形式だったんだよ」

 蛍子「貴族から見下げられていた源義家は、武力で貴族の仲間入りをしたということがよく分かりました」
 あこな「サムライにも主人が帰るまで軒下でじーっと待っている時代があったなんて、びっくりです」

吉良一族から将軍源頼朝・足利尊氏
まさに華麗なる一族!!
源 頼朝(写真4)
 土井瑠「この源義家の嫡男が源義親で、その家から将軍源頼朝(写真4)が出ているよ。源義親の弟・義国の家から室町時代の将軍足利尊氏(写真5)が出ているんだ。同じ義国の家から吉良上野介が出ているんだよ」
 葉月「まさに華麗なる一族ですね」
 土井瑠「難しい言葉を知っているね。まさにそういうことだね」
 あこな「先祖を天皇や将軍を持つ吉良上野介に対して、多くの代表は凄いな〜と思ったりしたでしょうね」
 土井瑠「地方の侍から将軍になった徳川家康ですら、そう思っていただろうね」
 あこな「それに、口にはしなくても、吉良上野介には身分をひけらかすこともあったかも・・」
 蛍子「おべんちゃらが嫌いな浅野内匠頭と身分を誇示する吉良上野介との間に、刃傷事件の背景を感じるのは私だけでしょうか」
 土井瑠「なかなかいい線を言っているね。それはいずれ話しましょう」

 かなり核心に入って来たのか、三人の中学生は顔を見合わせていました。

足利尊氏(写真5)

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