相生の昔話

(04)牛につきころされた婿(むこ)

 よそに、あほな婿さんがあった。よそへゆく道で、火事で沢山の人が働いているのを見て、
「ご精さん」
 というて行過ぎようとしたら、その人たちにどつかれた。
 戻って嫁さんにいうと、
「それはいけん、水の一杯もかけまひょか」
 というて、手伝うもんじゃと教えられた。
「そうか」
 というて、また行ってると、鍛冶屋が忙がしそうに仕事をしていた。婿さんは、
「水の一杯もかけまひょか」
 というて、ぶしゅーんとその火に水をかけて、また鍛冶屋にどつかれた。
 またもどって、嫁さんにいうと、
「それはいけん。向う槌(つち)の一つも打ちまひょか」といって、手伝うもんじゃと教えられた。
「そうか」

というて、また行ってると、夫婦が、つかみ合いして、喧嘩(けんか)している。婿さんは、

「向う槌の一つも打ちまひょか」

 といって、二人の額を、こんこんとひとつづつたたいたら、また夫婦にひどくどつかれた。
 また戻って嫁さんにいうと、

「それはいけん。あなたもごもっとも、こなたもごもっとも。というて分けるもんじゃ」

 と教えられた。

「そうか」

 というて、また行ってると、大きなコットイが二匹、まくり合(お)うている。

 婿さんは、ここじゃと思うて、

「あなたもごもっとも、こなたもごもっとも」

といいながら、牛の間へ、分けに入ったら、直(じき)に牛の角(つの)で突き殺された。

注1:「ご精さん」は”精がでますな”という意味です。
注2:「向う槌」は”二人が向かいあって鉄をきたえる時、立っている方の人が使う大きなつち”です。
注3:「コットイ」は”牡牛(雄の牛)”のことです。
注4:「まくり合う」は”角で突き合う”ことです。
注5:「直(じき)に」は”すぐに”とか”あっという間に”という意味です。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻