相生の昔話

(15)えびの腰のまがった話

 昔、えびの腰はまっすぐだった。

 えびは、
「わしほど身体の大きな、えらい者はまたとあるまい」
 と思うて、世界中へ武者(むしゃ)修業(しゅぎょう)に出た。

 日が暮れて、海の中に大きな木が一本あったから、それに上って一夜寝た。

 あけの日、また一日歩いて、今度は大きな岩に洞穴(ほらあな)があいていたから、そこへはいって、
「わしほどえらい者はない」
 といいながら寝た。
 夜中ごろになって、洞穴の奥から大きな声がしてきた。

「だいっぞー(何やつぞ)。よんべは俺さんのひげの先に止って寝て、今夜はまた俺さんの鼻の穴へはいって寝ていて、わしほどえらい者はないなんて ぬかすのは」
 という。

 えびはびっくりして目をあけて見たら、岩の中の洞穴と思うたのは、大きな鯛(たい)の鼻の穴だった。
 鯛は怒って、
「おどれ(おのれ)、いつもいつも邪魔なやつじゃ」
 というたかと思うと、
「フーン」
と鼻で息を吹いた。

 その勢いで、えびは、海の向うの岸まで吹き飛ばされ、
「コツン」
と石で腰を打った。

 この時から、えびの腰はわがって(まがる)伸びんようになった。

注1:「あけの日」とは、夜が明けた日、次の日という意味です。
注2:「よんべ」とは、「よべ」が変化したもので、昨夜という意味です。
注3:「ぬかす」とは、「言う」の俗語で、相手を低くみた言い方です。
注4:「伸びんようになった」とは、「伸びないようになった」という意味です。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻