相生の昔話

(19)歯なしおじいさん

 昔むかし、ある所に、話の上手なおじいさんがあった。このおじいさんは、いつも家で藁(わら)仕事をしている。いつものとおり藁仕事をしていると、村の子供が二、三人やってきて、

「おじいさん。今日も話をしておくれ」

という。
「よしよし、話はいくらでもある。してやるが、前にこの藁打ちを手伝ってくれたら」

といい、子供はよろこんで手伝った。子供たちは、

「さあ話をしてくれ」

という。おじいさんは、

「私の口を見よ」

といって口をあけた。子供たちはその口の中を見ると、歯が一つもなかった。おじいさんは、それで、

「歯無(はな)し」

といったそうです。

挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻