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元禄15(1702)年12月14日(第210号)

忠臣蔵新聞

時空警察「忠臣蔵」を検証(T)

年末放映の時空警察にメールが殺到
大物脚本家ほど遊びを重視
「事実と事実の谷間、その空白を推理して埋める、それがドラマ」
ドラマはドラマ…ドキュメンタリーではない

TV番組「新撰組」より TV番組「元禄繚乱」より
12月14日(東京本社発)
古畑任三郎の脚本家三谷幸喜さん
「これまでの新撰組のイメージをことごとく覆そうと思っています」と豪語
桂小五郎ファンは泣いているが、本当の狙いは?
 これはNHKの大河ドラマ「新撰組」を扱った朝日新聞の記事の一部です(2004年1月1日号)。
 第1回目の「新撰組」を見ました。タイトルトップに「作三谷幸喜」とありました。三谷さんオリジナルの新撰組という意味です。
 佐久間象山に率いられた桂小五郎、坂本龍馬、近藤勇がペリーの黒船を見学に行きます。のっけから大遊びです。桂小五郎を近藤勇より軽く描いているので、桂ファンは怒っているでしょう。三谷さんの狙いは、黒船を見て近藤はフアメリカの星条旗を奪おうとする。坂本は「あの船に乗って世界中を見てみたい」と考える。桂は
「黒船を作るような国と戦えば日本は滅ぶ」と言う。佐久間は「同じ物を見ても違うことを考える」と面白がる。このシーンから三谷新撰組の船出が感じられました。
 1月24日付けの朝日新聞に三谷さんは「一番観てほしいのは小学生たちだ。…世代別視聴率では、十代から四十代が例年の五倍以上観ていたことが分かった。つまり家族で観ていた人が、いつもよく格段に多かったということだ。十代が沢山観てくれていたことが、何よりの感激であった」と自分の遊びのねらいを書いています。
 固定したイメージを持っている新撰組ファンや桂小五郎(後の木戸孝允)を意識せず、小学生が家族と一緒に、また若い世代がTVを観ることで、21世紀に相応しい新しいメッセージを感受してほしいと願っていることがわかります。
 同時に、新撰組や桂小五郎らについて既存のイメージを抱いている視聴者もいます。そういう人を三谷さんの遊びがどこまで通用するかも楽しみである。気負いすぎて空振りにならないようお願いします。
三谷さんの近況報告
「歴史研究家に叱られても、なぜそれがいけないのかさっぱりわからない」
「ドラマとしてワクワクするものを…観たいし、書きたい」
ドラマはドラマ、遊びでどこまで固定フアンを取り込めるか
 三谷さんは私が予想したとおり、若き近藤と坂本と桂が共に黒船を見に行くエピソードについて「そんな史実はない」と皆さんはご立腹と書いています。三谷さんは「そりゃそうです。僕の創作ですから」と言う。そして「大河ドラマはあくまでもドラマであって、ドキュメンタリーではない」と付記しています。
 三谷さんが観てほしいと考えている対象は、あくまで十代。「電車に乗っていると、背後で突然”サノスケが”という声を耳にした。振り返ると、数人の女子高生が…新撰組について語り合っていた」。
 新撰組についての固定したイメージのない十代と固定観念に縛られている世代とのつばぜりあい。三谷さんは「この先の展開を知ったら一体どんなことになるのか」と予感しています。(この項は朝日新聞1月31日号参照)
朝日新聞(2003年6月12日付け記事)
NHK大河ドラマ最多の執筆者中島丈博さん
過去の忠臣蔵との違いを強調して新解釈・新視点で大遊び
『元禄繚乱』は地元では大不評
 1999年のNHK大河ドラマは赤穂の大石内蔵助と米沢の色部又士郎が吉原で遊んだり、浅野内匠頭の許嫁の阿久利が赤穂へ遊びに来たり、内蔵助の切腹の前に将軍綱吉が細川邸を訪ねたりと、忠臣蔵ファンには我慢できない舞台設定になっていました。地元赤穂ではTVを途中でプチンと切ってしまうが、次の時にはまた観てしまい、また切ったしまうの繰り返しなどの話題で事欠きませんでした。
プロデューサーが中島氏を起用した段階で結果は見えていた
でも記者(私)は中島氏の遊びを遊びとして楽しんだ
理由は制作者「ひたすら面白いもの」・演出家「面白くなければテレビでない」の意図
 制作統括(プロデューサー)の菅野高至氏は「泣いて笑って頂ける、ひたすら面白いものにしたい。…歴史のお勉強などと、難しいことはナシです」という立場で、中島氏を起用しました。
 演出家である大原誠氏は「二味違った忠臣蔵をお見せします。…事実と事実の谷間、その空白を推理して埋める、それがドラマです。…面白くなければテレビではありません」と語っています。
 起用された中島氏は『草燃える』(平均視聴率26.3%)、『春の波濤』(20%以下)と『炎立つ』(17.6%)を手がけ、大河ドラマ最多の脚本家です。「大河ドラマの本筋に帰る」と期待されて登場し『元禄繚乱』をてがけました。
 中島氏は将軍綱吉の時代「経済は活性化するんです。若き日の大石も含めて、主な登場人物のキャラクターを前史で書けば、赤穂事件の時代背景がよくわかる。元禄時代をトータルに見ながら、忠臣蔵を描きます」と説明しています。
 視聴者の多くは忠臣蔵に関してノンフィクション・フィクションを含め固定したイメージを持っています。「事実と事実の谷間、その空白を推理して埋める」といっても、固定したイメージ層をある程度取り込むだけの遊びが必要です。『元禄繚乱』が地元の人の不評にも関わらず、視聴率20.2%という数字はよく検討しているいえます。しかし、忠臣蔵をテーマにして20.2%では物足らないという人もいます。
「武蔵苦戦!異例の13%台に」
固定した武蔵フアンを取り込めず
 2003年度のNHK大河ドラマは武蔵に市川新之助、お通に米倉涼子、小次郎に松岡昌宏(TOKIO)、その恋人に仲間由紀恵を配して、若い層を取り込もうとしました。しかし、米倉のたくましいお通には吉川英治のオールドフアンが去り、目をむく一方の武蔵には吉川英治の『宮本武蔵』のマンガ版『バガボンド』のヤングファンが去っていきました。
 その結果、年間視聴率は18.8%(6月8日現在)を維持していますが、一時は13.0%(4月13日)を記録しました。その後も週間ベスト20に巌流島の決闘以外名を見ることがありませんでした。大河ドラマの基礎票が15%といいますから、固定したファンを取り込めなかった「遊び」が原因といえます(この項は朝日新聞2003年6月12日号を参照にしました)。 
ノンフィクションにフィクションを交える遊び→だから楽しめる
これが実在する資料に基づく真実だ→賛否両論・大混乱
 『元禄繚乱前編』では「現代性を前面に出し過ぎたり、歴史的事実に忠実になり過ぎると、フィクションの楽しみがそがれてしまう。かといって『理屈抜きの面白さ』だけでは歴史ドラマとしての存在理由が問われる」と書いています。
 マスメディアにたずさわる人はこのノンフィクションとノンフィクションの間の遊びに悩み、そして自分の能力を最大限に発揮してきたのです。
 この立場を微妙に粉飾した番組が『時空警察忠臣蔵』で、視聴者がそのために大混乱したのです。それは次号(忠臣蔵新聞第211号)で説明します。

参考資料
『NHK大河ドラマストーリー元禄繚乱前編』(NHK出版)
朝日新聞(2003年6月12日)
朝日新聞(2004年1月1日)
朝日新聞(2004年1月24日)
朝日新聞(2004年1月31日)

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