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エピソード

005_02

稲作の伝来
 スペインに旅行した時、米を調理した料理が出ました。「パエリア」といいます。
 イタリアに旅行した時、米を調理した料理がでました。「リゾット」といいます。リゾットに使う米を「カルナローリ」というそうです。1s1400円とありました。日本の代表的な米(新潟県魚沼産)でも1s524円です。輸入米扱いなので「カルナローリ」は割高ですね。
 イタリアの米といえば、映画『苦い米』(1949年)が印象に残っています。主演の女優・シルヴァーナ・マンガーノのボディがまぶしく輝いていました。彼女はイタリアの水田地帯(ポー川流域)へ田植え女として出稼ぎに行く役です。田植え歌を歌いながら水田に苗を植えていきます(日本の田楽を想像させます)。そこえ泥棒が紛れ込む。田植え女は泥棒に恋し、水田の水路の板を外し、そのどさくさに、米土泥棒に協力するという物語です。米はアジアだけでなく、イタリアでも作られるんだと考えた映画でした。
 タイの田植えの写真を見ると、私が小学生から高校生まで体験したのと同じ方法をしています。
 苗を数本握っては、水田に10センチ間隔で植えていきます。除草しやすいように、横も縦も一直線に整然と植えていきます。
 稲作の源流は、どこなのでしょうか。今から20年ほど前の記事を紹介します。
 佐々木高明氏は「雲南の稲作」と題して、次のように紹介しています。
  雲南からアッサムにかけての高地一帯は、アジアの栽培イネの起源地と考えられている。雲南省の最南端も西双版納(シーサンハンナ)の稲作には、大きく分けて焼畑におけるオカボ栽培と水田における水稲栽培があり、それぞれ現在でも盛んに営まれている。焼畑は主として海抜高度一千メートル以上の照葉樹林におおわれた山地斜面で、おもにハニ族、プーラン族などの少数民族の手で営まれ、水田稲作は大小いくつかの河谷盆地で主としてタイ族の人たちによって営まれている。
 タイ族の伝統的な稲作は、四月に苗代をつくつて播種、六月に田植し、その後二〜三回除草を行い、十月から十一月頃に収穫するものである。耕起・田拵えなどには水牛のひく黎や耙(まぐわ)が用いられるほか、灌漑の方法や収権・脱穀のやり方にも伝統的な技術の特徴がよく残されている。
 雲南の稲作は、その起源の地にふさわしく、さまぎまな形態の稲作の存在をわれわれによく示しているのである。
 しかし、最近、雲南省の稲作遺跡は4400年前以上に遡れないとして、1万年以上前に遡る稲籾が発見されたとして、揚子江中流域右岸にある江西省や湖南省を稲作の源流と指摘する説が出てきています。
 水田遺構では、揚子江下流左岸の江蘇省呉県の草鞋山遺跡が約6000年前と言われています。
 その後、紀元前3000年紀には揚子江中流域の屈家嶺文化、下流域の良渚文化が発達しました。ここでは、石製の農耕具を使い、ジャポニカとインディカを栽培していました。
 さらに、紀元前2000年紀後半から紀元前1000年紀にかけて、揚子江下流域を中心に江南・江准地域に印文陶文化が発達しました。ここでは、石庖丁・石鎌などを使い、水稲栽培を行っていました。
 朝鮮半島や日本に伝来した稲作は、印文陶文化が母胎であるといわれます。
 アジアの栽培稲は大別して、ジャポニカ・インディカ・ジャバニカ(ブル)の3種があります。
 粒の形では、ジャポニカは円い粒、インディカは長い粒、ジャバニカはその中間です。
 中国では、ジャポニカを粳(こう)稲、インディカを■=禾+山(せん)稲といいます。
 日本に伝来したのは、円い粒のジャポニカです。インドネシアに伝来したのは、芒(のげ)の長いジャバニカ(ブル)です。
 日本へ伝来した経路はどのようなものなのでしょうか。
 以下のような説があります。
(1)揚子江下流域原産米が山東半島を経て、朝鮮半島南部を経由して九州北部に伝来したという説
(2)揚子江下流域原産米が遼東半島から朝鮮半島を南下して九州北部に伝来したという説
(3)揚子江下流域原産米が直接九州北部に伝来したという説
(4)揚子江下流域原産米が江南から西南諸島を経て九州南部に伝来したという説
 佐原眞氏は、「西アジア、ヨーロッパ、インド、中国、朝鮮半島北部など、たいていのところでは、農業が始まると穀物の栽培と食用家畜の飼育の両方をあわせて行った。しかし日本では、朝鮮半島の南部とともに穀物栽培のみを手がけ、食用家畜の飼育は始めなかった」と指摘しています。
 これは、稲作の日本への伝来経路を考える上で、貴重な提言と言えます。
水田遺跡の分布(『朝日百科日本の歴史1』よりその一部)
遺跡
佐賀
菜畑
福岡
瑞穂
福岡
板付
福岡
石田
福岡
長行
高知
田村
岡山
津島
大阪
瓜生堂
奈良
牟礼
滋賀
服部
静岡
登呂
宮城
富沢
青森
垂柳
古墳
時代
                       
弥生
後期
                     
弥生
中期
                   
弥生
前期
                 
縄文
時代
                   
 日本での稲作のはじまりはいつなのでしょうか。
 板付遺跡の水田址では、上部(新しい時代)には水田に足跡が残っています。考古学的には、弥生時代初期の水田です。
 板付遺跡の水田址の下部(古い時代)は、夜臼式土器が発見されており、考古学的には縄文時代晩期とされています。この地層から、畦畔に沿って2列に杭と矢板を打ち込んだ取排水口を持つ水田面が発見されています。
 佐原眞氏は、「本格的な稲作が始まった二千数百年前は、「山ノ寺式」「夜臼式」土器の時期で、近年まで晩期縄文土器と認められてきた。現在では、これを縄文時代と扱う考え方(佐々木高明氏)と、稲作が存在したのだからここから弥生時代(早期あるいは先T期)とよぼうという考え方(私もその一人)と二つの考え方がある」と指摘しています。
 つまり、土器から縄文晩期に稲作が始まったという説と、稲作が始まったのだから弥生時代と土器の編年を訂正すべきだという説があるということです。
日本の歴史と米の歴史
 妻の知人で、料理上手な人がいます。その1つが「つなし寿司」です。
 毎年、春に持って来てくれます。とても楽しみです。造ってから2〜3日目が「つなし」の味が寿司飯に移り、とても美味しいです。指定の日以前に食べると、「つなし」の味が薄くて物足りないし、指定の日を過ぎると、寿司飯が乾いてきて、味がぐんと落ちます。若い子供たちも、競って食べます。
 ある年のことです。指定された日に食べたのですが、例年のような味がありません。体調が悪く、私の舌が鈍感になっているのかなーと思っていました。次に出会った時、「どうでした?」と聞きます。美味しい・不味いはコメントせず、「いつもと、少し味が違ったようですが・・・」というと、「やっぱりね」とうなずきます。新潟の魚沼産のコシヒカリが美味しいというので、それを買って造ったそうです。しかし、自分とこの米を方が美味しかったのです。
 そこで、米のことに詳しい友人に、「魚沼産のコシヒカリより、自分とこの米の方が美味しいことがありますか」と聞くと、友人は「多分、コシヒカリは違いないが、古米をブレンドしている可能性がある」ということでした。
 私が通っていた小学校から高校には、農繁期休暇があり、大人から立派な労働者として期待されたものです。子供には有難迷惑ですが・・。
 そのご褒美が新米です。みずみずしく、甘みがあって、おかずが入らないほど美味でした。至福の瞬間でした。
 米などの国内自給率をみると、米は100%、食パンは原料の小麦を輸入に依存しているため1%、中華めんも原料の小麦を輸入に依存しているため3%、うどんは62%、そば21%となっています。
 その米も、登呂の水田を計算すると、米を食するのは4ヶ月間で、残りの8ヶ月間は米以外の食料に依存する時代だったそうです。
 奈良時代になると、沢田吾一氏の計算(1反に付き)によると、次のようになります。
上田 八斗四升六合
中田 六斗七升七合
下田 五斗七升八合
下々田 二斗五升四合
 縄文時代の人口は約26万人です。弥生時代の人口は約60万人です。約2倍の増です。
 東北地方や関東地方では、人口増はほとんどありません。
 しかし、近畿地方や中国地方では20倍以上、四国地方や九州地方では10倍以上も増加しています。
 古墳時代には、約540万人に増加します。弥生時代の約9倍の増です。
 奈良時代には、550万人で、古墳時代と大差ありません。
 平安時代には、640万人に増加します。
 鎌倉末期には、810万人に増加します。
 室町から戦国時代には、900万人から1000万人に増加します。
 江戸時代中期には3100万人に増加します。
 そして、現在(2006年3月末)、1億2705万5022人です(国勢調査)。
 米の歴史と人口の歴史は一致するそうです。
世界の米国別生産量(百万トン)
  (単位・・・千トン) 2004/05年 2005/06年 2006/07年 2007/08年 2008/09年
01 中国      125,363 126,414 127,200 130,224 135,100
02 インド     83,130 91,790 93,350 96,430 97,500
03 インドネシア  34,830 34,959 35,300 35,800 36,250
04 バングラデシュ 25,600 28,758 29,000 28,800 29,600
05 ベトナム    22,716 22,772 22,922 24,375 23,500
06 タイ      17,360 18,200 18,250 19,300 19,400
07 フィリピン   9,425 9,821 9,775 10,479 10,650
08 ビルマ     9,570 10,440 10,600 10,730 9,800
09 ブラジル    8,996 7,874 7,695 8,199 8,296
10 日本      7,944 8,257 7,786 7,930 8,000
11 アメリカ    7,462 7,105 6,267 6,344 6,515
12 パキスタン   5,025 5,547 5,450 5,700 6,300
13 韓国      5,000 4,768 4,680 4,408 4,843
14 エジプト    4,128 4,135 4,383 4,385 4,387
15 カンボジア   2,630 3,771 3,946 4,221 4,284
16 ナイジェリア  2,300 2,700 2,900 3,000 3,300
その他     29,956 31,176 31,147 31,541 32,013
合 計     401,435 418,487 420,651 431,866 439,738
世界の米輸出量(百万トン)
  (単位・・・千トン) 2004/05年 2005/06年 2006/07年 2007/08年 2008/09年
01 タイ      7,274 7,376 9,557 10,016 9,000
02 ベトナム    5,174 4,705 4,522 4,649 5,200
03 パキスタン   3,032 3,579 2,696 3,000 4,000
04 アメリカ    3,863 3,307 3,029 3,500 3,200
05 インド     4,687 4,537 6,301 3,300 2,500
06 中国      656 1,216 1,340 945 1,300
07 ウルグアイ   762 812 734 775 800
08 エジプト    1,095 958 1,209 450 800
09 ビルマ     190 47 31 541 500
10 アルゼンチン  348 487 436 450 500
11 カンボジア   200 350 450 500 400
12 ブラジル    272 291 201 500 300
13 ガイアナ    182 250 210 210 220
14 日本      200 200 200 200 200
15 EU(27か国) 201 144 139 150 150
16 エクアドル   85 30 100 25 100
  その他     958 1,203 910 476 350
  合計      29,179 29,492 32,065 29,687 29,520
世界の米輸入量(百万トン)
  (単位・・・千トン) 2004/05年 2005/06年 2006/07年 2007/08年 2008/09年
01 フィリピン   1,890 1,791 1,900 2,500 2,000
02 ナイジェリア  1,777 1,600 1,550 1,600 1,700
03 イラン     983 1,251 1,144 1,100 1,400
04 EU(27か国) 1,058 1,083 1,342 1,450 1,200
05 サウジアラビア 1,357 1,448 958 1,015 1,100
06 バングラデシュ 785 531 1,570 1,600 1,000
07 イラク     786 1,306 613 975 1,000
08 マレーシア   751 886 739 955 880
09 南アフリカ   850 764 817 850 850
10 コートジボワール 850 750 1,100 980 800
11 インドネシア  500 539 2,000 500 800
12 セネガル    518 1,113 850 700 700
13 日本      787 681 700 700 700
14 アメリカ    419 633 695 700 650
15 メキシコ    553 586 609 650 650
16 キューバ    736 594 574 555 600
17 ブラジル    548 691 684 410 500
18 シンガポール  375 375 375 375 375
19 香港      347 309 348 399 350
20 ガーナ     450 441 340 350 350
21 カナダ     321 333 341 340 345
22 中国      609 654 472 250 330
23 ハイチ    328 399 292 300 300
24 カメルーン   350 309 300 300 300
25 シリア     232 214 230 100 300
26 北朝鮮     191 41 486 30 300
  その他     8,118 7,800 8,017 7,712 7,328
  合計      29,179 29,492 32,065 29,687 29,520
 上記の統計の出典はUSDA(アメリカ農務省=United States Department of Agriculture)
 世界の米国別生産量・世界の米輸出量・世界の米輸入量を検証しました。
 日本は、米の生産量では世界の10位です。では、世界の1位は、中国なんです。
 日本は、米の輸出量では世界の14位です。では、世界の1位は、タイなんです。
 日本は、米を輸入を世界で13番目に多くしています。では、世界の1位は、フィリピンなんです。
 日本は、8,000(百万トン)の米を生産し、200(百万トン)の米を輸出し、700(百万トン)の米を輸入しています。輸出より輸入の方が多いことにびっくりします。
 タイは、19,400(百万トン)の米を生産し、9,000(百万トン)の米を輸出しています。半分近くを輸出していることが分かりました。
 フィリピンは、10,650(百万トン)の米を生産し、2,000(百万トン)の米を輸入しています。不足分を輸入しています。
 米の需給を考える時、米の輸出に依存している国から購入し、コメ不足の国には輸出している日本の姿が浮かびます。日本の歴史が世界の歴史であることが分かります。世界を抜きにして、日本を語れないということですね。

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