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エピソード

029_04

聖武天皇と政界の動揺W(和気清麻呂、宇佐八幡宮神託事件)
 747(天平19)年、道鏡は、東大寺写経所の請経使として、良弁のところに行きました。これが、道鏡の初見です。生年が不明ですが、ここでは、使いの年を20歳と仮定します。
 761(天平宝字5)年10月、淳仁天皇(29歳)・孝謙上皇(44歳)が保良宮に行幸しました。保良宮に滞在中、孝謙上皇が病気になり、これを呪法により治したのが道鏡(34歳)でした。
 764(天平宝字8)年9月、恵美押勝は、道鏡暗殺計画を立てましたが、事前に発覚し、越前に逃げる途中、殺害されました。これを恵美押勝の乱といいます。
 9月、孝謙上皇は、道鏡を大臣禅師に任命しました。
 10月9日、孝謙上皇は、重祚して称徳天皇(47歳)となりました。
 10月14日、恵美押勝と縁の深い淳仁上皇は、天皇の事実を剥奪され、親王の待遇をもって、淡路に幽閉されました。これを淡路の廃帝といわれます。
 765(天平神護元)年閏10月、称徳天皇は、道鏡を太政大臣禅師に任命しました。僧侶の高位の身でありながら、人臣の最高位の太政大臣になるという超法規的・例外的地位です。
 766(天平神護2)年2月、道鏡は、弟子の円興を大僧都に任命しました。
 10月、海竜王寺の毘沙門天像より舎利が出現したという報告を聞いた称徳天皇は、道鏡を法王に任命しました。道鏡は、法王という仏教界でも最高の地位につき、周囲を側近の僧で固めましたた。その結果、仏事を神事に優先する政治が行われ、政界が混乱するようになりました(「政の巨細に決を取らずといふことなし」)。
 767(神護景雲元)年3月、法王宮職が設置されました。
 769(神護景雲3)年7月、大宰府の習宜阿曾麻呂が「道鏡を天位につけるならば、天下は太平になるだろう」という宇佐八幡神の神託を告げました。宇佐八幡を管理していた太宰府の長官が道鏡の弟でした。
 余りの例外に、多くの側近が異をとなえました。そこで、称徳女帝は、和気清麻呂(37歳)を勅使として派遣することにしました。この時、道鏡は、清麻呂を尋ね、将来の出世を「ほのめかした」ということです。他方、清麻呂は北家の藤原永手(57歳)や式家の藤原百川(39歳)と相談しています。
 清麻呂は派遣先から帰ってきて、女帝に「天の日継は必ず帝の氏を継がしめむ。無道の人は宜しく早く掃い除くべし」という託宣を報告しました。激怒した道鏡は清麻呂の名前を「別部穢麻呂」と変えさせ、大隈の国(今の鹿児島)に流しました。道鏡の怒りがどれほど大きかったか分かります。
 770(神護景雲4)年8月、称徳女帝が亡くなり、白壁王(祖父が天智天皇)が皇太子となりました。道鏡は、薬師寺別当として下野に流されました。
 9月、和気清麻呂が大隈国から呼び戻されました。
 10月、白壁王が即位して、光仁天皇となりました。時に63歳です。天武系の天皇はここで途絶え、天智系の天皇が誕生したことになります。
 光仁天皇とすれば普通なら天皇になれる状況ではありません。だから、天皇に推薦してくれた和気清麻呂や藤原永手・百川に大きな借りができたと感じたでしょう。
歴史の中の喜怒哀楽、人生の縮図
  このクーデタにより天武系の高級官僚が歴史から消えていきました。逆に冷遇されていた天智系の中小官僚が抜擢されました。その結果、天皇系のより強固な基盤が形成される準備が出来たことになります。
 権力闘争とは古い支配体制が打倒され、新しい支配体制が樹立されることです。そのことによって歴史はより自由とより民主に近づいて行くのです。
 でも。個人を単位に考えると、喜怒哀楽、人生の縮図を、歴史に見ることが出きるのです。
 独裁者の道鏡は、一族をどんどん登用します。だれもこれを止める人がいません。その結果、大破綻がやってきます。これは歴史が教える教訓です。
 「殿、ご乱心!」と、これをを止める人・組織が必要です。
 中曽根康弘元首相は、戦前の海軍主計太尉でした。海軍のエリートです。戦後、見事に総理大臣になりました。今尚、その輝きを失わず、TVに出て靖国問題などで、自説を披露しています。
 中曽根康弘元首相は、自分のチェック機関として、自分と相反する考えの後藤田正晴氏を起用しました。普通は、自分に苦言を呈する人は避けたいものです。避けたい人を側近にする中曽根さんも、ある意味では大した人物だと思いました。長期政権を支え、輝きを失わせない極意も知りました。
━━━━ ━━━━━ ━━━━ 光明皇后
武智麻呂 仲麻呂
永手
房前 真盾 内麻呂
宇合 良継 乙牟漏    ‖━━ 孝謙・称徳天皇
清成 種継
百川 旅子
天武天皇 文武天皇 ━━━━ 聖武天皇
舎人親王 淳仁天皇  ‖━━ 井 上 内 親 王
県犬養広刀自  ‖
天智天皇 ━━━━━ 施基皇子 ━━━━━━ 白壁王(光仁天皇)
 ‖━━ 桓武天皇
高 野 新 笠

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