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天平文化W(『万葉集』) | |
1 | 茅上娘子は情熱家です。古代こんなすごいお姉ーチャンもいたんです。明治の与謝野晶子を見る思いです。次の過激な恋の歌を詠んで、皆さんはどう感じますか? ●「君が行く 道の長路を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも」 (あなたが行く長い道中を、全部たぐり寄せてたたみ込み、焼き滅ぼす天の火があればいいのに) ●「天地の そこひのうらに 吾がごとく 君に恋ふらむ 人は実あらじ」 (天地の果てまで行っても、私のようにあなたに恋焦がれている人は、絶対にいないでしょう) ●「ぬばたまの 夜見し君を 明朝 逢はずまにして 今そ悔しき」 (ぬまたまのような暗い夜に見たあなたを、次の朝、会わないままで別れた今、とても悔やしい) ●「わが宿の 松の葉見つつ 吾待たむ 早帰りませ 恋ひ死なぬとに」 (わが家の松の葉を見ながら、私は待っています。早く帰って来て下さい 恋に死なないうちに) ●「逢はむ日の 形見にせよと 手弱女の 思ひ乱れて 縫へる衣そ」 (再び会える時の形見にしてほしいと、かよわい女が思い乱れて縫った衣です) |
2 | 次の読み人知らずの歌を集めてみました。 ●「我が背子に 我が恋ふらくは 奥山の 馬酔木の花の 今盛りなり」 (あなたのことを思っている私の心は、奥山の馬酔木の花のように、今盛りです) ●「春日なる 羽がひの山ゆ 佐保の内)へ 鳴き行くなるは、誰れ呼子鳥」 (春日にある羽がひの山から佐保に向かって、鳴きながら飛んでゆくのは、誰を呼ぶ呼子鳥でしょうか) ●「年のはに 梅は咲けども うつせみの 世の人我れし 春なかりけり」 (毎年、梅の花は咲くけれども、この世の人である私には春が来ないのです) ●「春日野に 煙立つ見ゆ 娘子らし 春野のうはぎ 摘みて煮らしも」 (春日野に煙が立っているのが見える。娘子らしい。春の野のうはぎを摘み取って煮ているらしい) |
3 | 次も読み人知らずの歌を集めてみました。 ●「ひぐらしは 時と鳴けども 片恋に たわや女我れは 時わかず泣く」 (ひぐらしは時を決めて鳴くが、片想いのか弱い女である私は、いつも泣いてます) ●「卯の花の 咲くとはなしに ある人に 恋ひやわたらむ 片思にして」 (卯の花のようにはっきりしないあの人に、恋し続けています、片想いのままで) ●「春は萌え 夏は緑に 紅の まだらに見ゆる 秋の山かも」 (春は萌色、夏は緑色に、紅のまだらに見える、秋の山なのです) ●「秋風の 寒く吹くなへ 我が宿の 浅茅が本に こほろぎ鳴くも」 (秋風が寒く吹くにつれて、私の家の茅萱の下で、コオロギが鳴いています) |
4 | 次の有名な人の歌を集めました。 ●額田王 「君待つと 我が恋ひをれば 我が宿の 簾動か 秋の風吹く」 (あなたを恋しく待っていますと、私の家の簾を動かして、秋の風が吹いてきます) ●大伴坂上郎女 「思はじと 言ひてしものを はねず色の うつろひやすき 我が心かも」 (あなたのことは思わないようにと言ったのに、はねずの花の色が移ろいやすいように、私の心も移ろいやすいのです) ●柿本人麻呂 「いにしへの 人の植ゑけむ 杉が枝に、霞たなびく、春は来ぬらし」 (昔の人が植えたでしょうか、杉の枝に霞がたなびいています。春が来たのでしょう) |
『万葉集』より | |
1 | 高校時代、古典の勉強をまじめにせず、こんな愛の歌をいたく鑑賞していて、怒られた記憶が甦ります。 |
2 | 本当に『万葉集』は日本が誇る文化財の宝庫です。日本人の心のふるさとです。 |
3 | 藤原鎌足は、美女と誉れの高い釆女である安見児を、天智天皇から贈られました。 その時詠んだのが次の歌です。 「われはもや 安見児得たり 皆人 得難にすとふ 安見児得たり」 (私は、ついに、安見児を得ました。みんなが得難いという安見児を得ました) 本当に楽しいですね。『万葉集』は! 天皇からお古の女性をもらって、権力者のナンバーツーがこのように喜ぶんですから…。 |