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エピソード

030_04

天平文化W(『万葉集』)
 茅上娘子は情熱家です。古代こんなすごいお姉ーチャンもいたんです。明治の与謝野晶子を見る思いです。次の過激な恋の歌を詠んで、皆さんはどう感じますか?
●「君が行く 道の長路を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも」
(あなたが行く長い道中を、全部たぐり寄せてたたみ込み、焼き滅ぼす天の火があればいいのに)
●「天地の そこひのうらに 吾がごとく 君に恋ふらむ 人は実あらじ」
(天地の果てまで行っても、私のようにあなたに恋焦がれている人は、絶対にいないでしょう)
●「ぬばたまの 夜見し君を 明朝 逢はずまにして 今そ悔しき」
(ぬまたまのような暗い夜に見たあなたを、次の朝、会わないままで別れた今、とても悔やしい)
●「わが宿の 松の葉見つつ 吾待たむ 早帰りませ 恋ひ死なぬとに」
(わが家の松の葉を見ながら、私は待っています。早く帰って来て下さい 恋に死なないうちに)
●「逢はむ日の 形見にせよと 手弱女の 思ひ乱れて 縫へる衣そ」
(再び会える時の形見にしてほしいと、かよわい女が思い乱れて縫った衣です)
 次の読み人知らずの歌を集めてみました。
●「我が背子に 我が恋ふらくは 奥山の 馬酔木の花の 今盛りなり」
(あなたのことを思っている私の心は、奥山の馬酔木の花のように、今盛りです)
●「春日なる 羽がひの山ゆ 佐保の内)へ 鳴き行くなるは、誰れ呼子鳥」
(春日にある羽がひの山から佐保に向かって、鳴きながら飛んでゆくのは、誰を呼ぶ呼子鳥でしょうか)
●「年のはに 梅は咲けども うつせみの 世の人我れし 春なかりけり」
(毎年、梅の花は咲くけれども、この世の人である私には春が来ないのです)
●「春日野に 煙立つ見ゆ 娘子らし 春野のうはぎ 摘みて煮らしも」
(春日野に煙が立っているのが見える。娘子らしい。春の野のうはぎを摘み取って煮ているらしい)
 次も読み人知らずの歌を集めてみました。
●「ひぐらしは 時と鳴けども 片恋に たわや女我れは 時わかず泣く」
(ひぐらしは時を決めて鳴くが、片想いのか弱い女である私は、いつも泣いてます)
●「卯の花の 咲くとはなしに ある人に 恋ひやわたらむ 片思にして」
(卯の花のようにはっきりしないあの人に、恋し続けています、片想いのままで)
●「春は萌え 夏は緑に 紅の まだらに見ゆる 秋の山かも」
(春は萌色、夏は緑色に、紅のまだらに見える、秋の山なのです)
●「秋風の 寒く吹くなへ 我が宿の 浅茅が本に こほろぎ鳴くも」
(秋風が寒く吹くにつれて、私の家の茅萱の下で、コオロギが鳴いています)
 次の有名な人の歌を集めました。
●額田王
「君待つと 我が恋ひをれば 我が宿の 簾動か 秋の風吹く」
(あなたを恋しく待っていますと、私の家の簾を動かして、秋の風が吹いてきます)
●大伴坂上郎女
「思はじと 言ひてしものを はねず色の うつろひやすき 我が心かも」
(あなたのことは思わないようにと言ったのに、はねずの花の色が移ろいやすいように、私の心も移ろいやすいのです)
●柿本人麻呂
「いにしへの 人の植ゑけむ 杉が枝に、霞たなびく、春は来ぬらし」
(昔の人が植えたでしょうか、杉の枝に霞がたなびいています。春が来たのでしょう)
『万葉集』より
 高校時代、古典の勉強をまじめにせず、こんな愛の歌をいたく鑑賞していて、怒られた記憶が甦ります。
 本当に『万葉集』は日本が誇る文化財の宝庫です。日本人の心のふるさとです。
 藤原鎌足は、美女と誉れの高い釆女である安見児を、天智天皇から贈られました。
 その時詠んだのが次の歌です。
 「われはもや 安見児得たり 皆人 得難にすとふ 安見児得たり」
(私は、ついに、安見児を得ました。みんなが得難いという安見児を得ました)
 本当に楽しいですね。『万葉集』は!
 天皇からお古の女性をもらって、権力者のナンバーツーがこのように喜ぶんですから…。

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