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エピソード

034_01

嵯峨天皇の政治(藤原薬子の変)
 783(延暦2)年、安殿親王(父は桓武天皇)は、藤原種継暗殺事件に関与したとして皇太子を廃された叔父の早良親王に代わり、皇太子になりました。
 藤原薬子の父は式家で桓武天皇の信頼が厚い藤原種継でした。薬子は式家の藤原縄主(父は倉下麻呂)と結婚して、3男2女を生みました。薬子は長女を皇太子安殿親王(後の平城天皇)の妃として後宮に入れました。薬子は娘の付き添いで後宮に入ったのですが、皇太子は母親の薬子を寵愛し、東宮坊宣旨として寝所に出入させるようになりました。娘の妃はつらかったことでしょう。
 そのことを知った桓武天皇は薬子を宮廷から追放しました。
 806(延暦25)年、桓武天皇がなくなり、安殿親王が即位して、平城天皇となると、再び薬子を呼び戻し、尚侍に任じました。薬子の兄藤原仲成も、天皇と薬子の「関係」を利用して天皇の側近とり、やがて権勢をふるうようになりした。
 807(大同2)年、平城天皇は謀反の嫌疑を受けた異母弟の伊予親王(父は桓武天皇)を自殺させました。
 809(大同4)年4月、病弱な平城天皇は天皇在位わずか3年で、同母弟の嵯峨天皇に位を譲り、自分の皇子高岳親王を皇太子としました。平城天皇の病気には「早良親王の祟り」という占いが原因とも言われています。上皇は病気療養(早良親王の邪気払い)のために転居を繰り返し、桓武遷都により捨てられ荒れ果てていた平城宮に落ち着き先を求めました。
 11月、右衛士督である藤原仲成を派遣して平城宮を造営させました。
 12月、上皇は平城に赴むきました。ここで体調が回復すると、再び政治の表舞台に出たいと思うようになりました。上皇の復権を願う薬子や、平安遷都によって権益を失った旧勢力などが集まってきました。そこで、嵯峨天皇も式家と対立関係のある北家の藤原冬嗣蔵人頭に抜擢し、秘密が上皇側に漏れないよう体制を整えていきました。
 810(大同5)年9月6日、平城上皇は「上皇の名において平安京を廃して平城京に遷都する」と命じました。
 9月10日、上皇側の準備ができる前に、嵯峨天皇は使者を出して、伊勢・近江・美濃の三関を固め、地方から兵力が集まるのを防ぎました。そして、薬子の内侍司の長官という位を剥奪し、藤原仲成を右兵衛府に監禁しました。
 天皇方は、美濃路から東国へ入ろうとする上皇方を討つため、大納言坂上田村麻呂らを派遣しました。この時、田村麻呂は、上皇方について捕らえられていた文室綿麻呂を起用することを願い出て、桓武天皇から許されました。田村麻呂はひどく感激したと言います。天皇は兵を配置して平安京の南と西の防備を固めました。
 11日夜、藤原仲成が射殺されました。あわてた上皇らは、自ら東国に赴き挙兵しようとしました。
 12日、中納言藤原葛野麻呂らが「東国入り」を思いとどまるよう進言したましが、上皇は薬子を連れて平城京を出ました。上皇が大和国越田村に来た時、天皇方の兵が行く手を遮りました。そこで、上皇は平城京に引き返して剃髪し、薬子は毒をあおいで自害しました。これを藤原薬子の変といいます。
 事件後、嵯峨天皇は上皇の皇子高岳親王を廃し、異母弟の大伴親王を皇太子にしました。
毒薬で自害した薬子、薬子とは誰が命名したか
  薬子は以前、上皇の弟皇子が皇位を狙っているという噂を知り、上皇に弟皇子を捕らえさせました。薬子は1週間も食事を与えず、やっと与えた食べ物には毒薬を盛り、弟皇子とその母親を毒殺したことがありました。
 ライバルを毒殺し、自らも毒薬で自殺した、その人の名は薬子。余りにも出来すぎています。式家のライバルである藤原の北家の人が付けた名前ではないでしょうか。人間の凄まじいまでの、醜い怨念が感じられます。後の歴史家がこの一連の事件を薬子の変(乱)と言ってますが、それでいいのでしょうかね。
 平城天皇の本名は小殿(おて)親王といい、後に安殿(あて)親王と改名しています。普通は今上天皇とか、閣下、陛下、主上とか言います。死後、天皇の生涯を振り返って、その天皇に相応しい諡号をつけます。親王が平城という諡号を贈られたのも、嵯峨天皇側の意図が読み取れるような気がします。
 それにしても叔父で皇太子の早良親王(兄桓武天皇)が廃されて、自分が皇太子になり、異母弟の伊予親王(父桓武天皇)を自殺させたり、この天皇には自分と関係のない所で、暗い歴史をひきずっているような気がします。それが、異常な行動に駆り立てたのでしょうか。桓武・嵯峨天皇の間に挟まれた悲しい歴史もあったのですね。
系図の見方(天皇、藤原式家、藤原南家、今回の被害者)
藤原宇合 藤原清成 藤原種継 ━━━━ ━━━━ ━━━━ 藤原仲成
藤原縄主
 ‖━
藤原薬子
南家藤原是公 ━━━━ 藤原吉子  ‖
藤原百川 藤原旅子  ‖━ 伊予親王  ‖
光仁天皇  ‖━━ 大伴親王  ‖  ‖
   ‖━ 桓   武   天   皇  ‖
高野新笠   ‖━ 安 殿 親 王(平 城 天 皇)
 ‖   ‖━ 高岳親王
 ‖ 伊勢継子
 ‖ 賀美能親王(嵯峨天皇)
 ‖   ‖━ 正良親王(仁明天皇)
 ‖ 橘嘉智子
藤原良継 藤原乙牟漏

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