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エピソード

044_04

浄土思想W(地獄の思想1)
 私が子供の頃、母から聞いた話です。
(1)ウソついたら、閻魔さんに舌を抜かれる(2)悪いことをすると、地獄に落ちる(3)大人の言うことを聞かないと地獄に落ちる(4)蟻を殺すと、地獄に落ちる(5)食事後すぐ横になったら、牛になる(6)あれが欲しい、これが欲しいと言ってばかりいると、餓鬼になる(7)食べ物を粗末にすると、餓鬼になる 
 地獄の鬼を主役にした遊びがありました。鬼ごっこの一種で、3〜10人でする「缶蹴り」という遊びです。
 ルールは次の通りです。
(1遊び場の中央に直径1メートルほどの円を描いて、そこに空缶を置きます。じゃんけんで鬼を決めます。
(2)鬼以外の子供が空缶を遠くへ蹴り、鬼が空き缶を取りに行っている間に、他の子供らは隠れます。
(3)鬼は空缶を円内に戻して、隠れた子供らを探します。
(4)鬼は、見つけた子供より早く空缶を3度踏んで、見つけた子供の名前を言います。これで鬼に捕まったことになり、円内に留置されます。
(5)全員が捕まれば、この遊びは終ります。最初に見つかった子供が次の鬼になります。
(6)全員が捕まる前に、隠れていた誰かが鬼より早く空缶を蹴れば、捕まっていた子供らも、解放され、再び隠れる権利を得ます。
 (イ)空缶を遠くに蹴れば安全に隠れられるし、蹴り損ねて、近場の場合は、隠れる前に全員が捕まる可能性があります。
 (ロ)解放させようと、空缶を蹴りに行って、その前に、鬼に見つかって、自爆する場合もあります。
 (ハ)解放させようと、残っている子供らが全員で、一斉に四方から空缶を蹴りにいくという人海作戦があります。
 (ニ)鬼は、遠くへ探しに行く振りをして、隠れている子供らをおびき出す陽動作戦をとることもあります。
 (ニ)全員が捕まるまで、遊びは終わらないのです。
 これは私の子供の頃の体験です。
 子供にとって、「缶蹴り」はとても、様々な遊びの要素があって、楽しいものでした。しかし、長時間すると最後には飽きてきて、その都度、だれかが、人海作戦の犠牲者になりました。その後、いくら隠れていても探しに来なくなります。肩を落として自宅に帰る子供の背中を見て、その時は「悪いことをした」という気持ちになります。
 近道である山道を通って帰る途中に、お地蔵さんがありました。その前に来ると、足が止まるのです。思わず手を合わせて、謝っていました。お地蔵さんの前で、年寄が合掌している姿を目撃していたからです。
 今考えてみると、場所は墓場の近くで、お地蔵さんは六体、つまり六地蔵でした。
 当時の子供らの生活には、地獄の思想が根付いていたことが分ります。
 前回は、六道を総括的に紹介しました。今回は、源信の『往生要集』の原文に従って、地獄を詳細に説明したいと思います。善い悪いは別として、日本人の人間観の根底にある思想を再発見できればと思います。
 人間は死ぬと、7日目に此岸の三途の川に辿り着きます。この初七日を司るのが泰廣王です。
 三途の川の河原が賽の河原です。親に先立って死んだ子供は、親を悲しませた罰として、賽の河原で石を積まされます。積んでも積んでも、鬼にこわされます。終わることのない苦行です。
 『地蔵和讃』には次のような一説があります。
 「これはこの世のことならず 死出の山路の裾野なる 賽の河原の物語 きくにつてもあわれなり
 二つや三つ四つ五つ 十にもたりぬ幼な児が 賽の河原に集まりて 親をたずねてたち巡り
 峰の嵐の音すれば 父かと思いよじ登り 谷の流れをきく時は 母かと思いはせくだり
 西や東をかけめぐり 手足は血汐に染みながら 父上こいし母こいし 恋し恋しと叫べども
 影も形も見えざれば 泣く泣くその場にうちたおれ 恋いこがるるふびんさよ げにも哀れな幼な児が
 河原の石を取り集め これにて回向の塔をつむ 一重つんでは父のため 二重つんでは母のため
 三重につんでは故郷(ふるさと)の 兄弟(はらから)わが身と回向して 昼はひとりで遊べども
 日も入りあいのその頃に 地獄の鬼があらわれて つみたる塔を押しくずす またつめつめど責めければ
 幼な児あまりの悲しさに もみじのような手を合わせ 許したまえと伏しおがむ」
 此岸から彼岸の冥土に行くには、三途の川を渡ります。その渡し賃が6文で、それがないと、正塚の婆さんに衣服全てを剥ぎ取られます。三途の川には、三つの川(三つ瀬)があります。
(1)山水瀬は、浅瀬で、罪浅き人が渡ります。
(2)江深淵は、深瀬で、罪深き人が渡ります。
(3)有橋渡は、金銀瑠璃玻璃の橋で、罪無き人が渡ります。
 三途の川の彼岸には衣領樹という木があり、その下には「奪衣婆」、その上には「懸衣翁」がいます。奪衣婆が死者の衣服を脱がせ、懸衣翁に渡しします。懸衣翁が衣服を木の枝に掛けると、その重みで枝が垂れ、その枝の垂れ方で生前の罪の軽重が分かるというのです。
 死後27日を司るのは初江王です。三途の川を渡って出会う最初の王という意味です。ここでは殺人や強盗などの罪を裁きます。
 死後37日を司るのは宋帝王です。不倫などの罪を裁きます。
 死後47日を司るのは五官王です。肉体と言葉で成した五つの罰を、天秤で量って裁きます。
 死後57日を司るのは閻魔王です。閻魔王の前には、「浄破離の鏡」があって、死者が生まれてから死ぬまでをすべて映し出します。閻魔さんの前では、ウソをついてもすぐバレてしまいます。ウソを言うと、特大のペンチで舌を抜かれます。
 死後67日を司るのは変成王です。
 死後67日を司るのは泰山王です。閻魔王の子で、閻魔王の命をうけて、三悪道(地獄道・餓鬼道・畜生道)への転落先を指示します。
 死後100日を司るのは平等王です。地獄道・餓鬼道・畜生道に堕ちた子女を救います。
 死後一周忌を司るのは都市王です。地獄道・餓鬼道・畜生道に堕ちた亡者を救います。亡者とは、成仏する前の死者や地獄にいる死者のことです。
 死後三周忌を司るのは五道転輪王です。泰廣王から都市王までの九王の報告を受けて、転生(六道輪廻)の決定をしります。六道輪廻とは、人間も虫も、生きとし生けるものはみな、天道・人間道・畜生道・阿修羅道・餓鬼道・地獄
道の六つの世界を生まれかわり、また生まれ変わりすることです。
 芥川竜之介は『蜘蛛の糸』で、御釈迦さんがカンダタを救おうとした情景を描いています。
 地蔵は、天道・人間道・畜生道・阿修羅道・餓鬼道・地獄道の六つの世界にいて、そこから救い出す役目を負っています。そこで、六道能化といわれたり、六地蔵と言われたりしています。
 地獄については、様々な書籍が出版されています。解釈も種々雑多です。概説はそちらで読んでいただくとして、ここでは源信の『往生要集』の原文を紹介し、簡単な解説を付します。
 源信は八大地獄として、地獄を8種挙げています。今回は、【1】等活地獄【2】黒縄地獄【3】衆合地獄【4】叫喚地獄の4種を紹介します。
【1】等活地獄
 初に等活地獄といふは、 この閻浮提の下、 一千由旬にあり。 縦広一万由旬なり。 このなかの罪人、 たがひにつねに害心を懐けり。 もしたまたまあひ見れば、 猟者の鹿に逢あへるがごとくして、 おのおの鉄の爪をもつてたがひに掴み裂く。 血肉すでに尽きて、 ただ残骨のみあり。 あるいは獄卒、 手に鉄の杖・鉄の棒を執りて、 頭より足に至るまで、 あまねくみな打ち築くに、 身体破砕すること、 なほ沙揣のごとし。 あるいはきはめて利き刀をもつて分々に肉を割くこと、 廚者の魚肉を屠るがごとし。涼風来たりて吹に、 尋で活みがえること故のごとし。 こつねんとしてまた起きて、 前のごとく苦を受く。 あるいはいはく、 空中に声こえありていはく、 「このもろもろの有情、 また等しく活みがえるべし、 また等しく活みがえるべし」 と。 あるいはいはく、 獄卒、 鉄の叉をもつて地を打ちて、 唱えへて 「活活」 といふ。 かくのごとき等の苦、 つぶさに述すべからず。殺生せるもの、 このなかに堕つ。
 この地獄の四門のほかに、 また十六の眷属の別処あり。
解説(等活地獄は、人間のみならず、生きものを殺したものが落ちる所です)
(1)屎泥処
 一は屎泥処。 いはく、 きはめて熱き屎泥あり。 その味はひ、 もつとも苦し。 金剛の嘴ある虫、そのなかに充満せり。 罪人、 なかにありてこの熱屎を食くらふ。 もろもろの虫、 聚集して、 一時に競ひ食らふ。皮を破りて肉をくらひ、 骨を折りて髄をすふ。 昔、 鹿を殺し鳥を殺せるもの、 このなかに堕つ。
解説(等活地獄の1つである屎泥処は、鹿や鳥を殺したものが落ちる所です)
10 (2)刀輪処
 二は刀輪処。 いはく、 鉄の壁、 周そうして、 高さ十由旬なり。 猛火熾然として、つねにそのなかに満てり。 人間の火はこれに比ぶれば雪のごとし。 わづかにその身に触るるに、 砕くること芥子のごとし。また熱鉄を雨ふらすこと、 なほ盛りなる雨のごとし。 また刀林あり。 その刃はきはめて利し。 また両刃ありて、雨のごとくして下だる。 もろもろの苦、 交はり至りて、 堪忍すべからず。 昔、 物を貪ぼりて殺生せるもの、このなかに堕つ。
解説(等活地獄の1つである刀輪処は、物欲のために生きものを殺したものが落ちる所です)
11 (3)多苦処
 四は多苦処。 いはく、 この地獄に十千億種の無量の楚毒あり。 昔、縄をもつて人を縛り、 杖をもつて人を打ち、 人を駆りて遠き路を行かしめ、 嶮しき処より人を落とし、煙を薫すべて人を悩まし、 小児を怖れしむ。 かくのごとき等の、 種々に人を悩ませるもの、 みなこのなかに堕つ。
解説(等活地獄の1つである多苦処は、子供を恐れさせたものが落ちる所です)
12 (4)闇冥処
 五は闇冥処。 いはく、 黒闇の処にありて、 つねに闇火のために焼かる。 大力の猛風、金剛山を吹きて、 合わせ磨り、 合わせ砕くこと、 なほ沙の散らすがごとし。 熱風に吹かるるに、利き刀の割くがごとし。 昔、 羊の口・鼻をふさぎ、 二のかわらのなかに亀を置きて押し殺せるもの、このなかに堕つ。
解説(等活地獄の1つである闇冥処は、羊や亀を殺したものが落ちる所です)
13 (5)不喜処
 六は不喜処。 いはく、 大きなる火炎ありて昼夜に焚焼す。 熱炎の嘴ある鳥・狗犬・野干の、その声極悪にしてはなはだ怖畏すべし。 つねに来たりて食だんす。 骨肉狼藉たり。 金剛の嘴ある虫、骨のなかに往来して、 その髄を食らふ。 昔、 貝を吹き、 鼓を打ち、畏るべき声をなして鳥獣を殺害せるもの、 このなかに堕つ。
解説(等活地獄の1つである不喜処は、びっくりさせて追い込んだ鳥獣を殺したものが落ちる所です)
14 (6)極苦処
 七は極苦処。 いはく、 嶮岸の下にありて、 つねに鉄火のために焼かる。 昔、 放逸にして殺生せるもの、このなかに堕つ。
解説(等活地獄の1つである極苦処は、わがままで節度なく生きものを殺したものが落ちる所です)
15 【2】黒縄地獄
 二に黒縄地獄といふは、 等活の下にあり。 縦広、 前に同じ。 獄卒、罪人を執りて熱鉄の地に臥せて、 熱鉄の縄をもつて縦横に身にすみうちて、熱鉄の斧をもつて縄に随ひて切り割く。 あるいは鋸をもつて解き、 あるいは刀をもつて屠ふりて、百千段になして処々に散在す。 また熱鉄の縄を懸かけて、 交へ横たふること無数なり。罪人を駆りてそのなかに入れしむるに、 悪風暴かに吹きて、 その身に交絡して、 肉を焼き、 骨を焦がして、楚毒極まりなし。
 また左右に大きなる鉄山あり。 山の上におのおの鉄の幢を建て、 幢の頭に鉄の縄を張り、縄の下に多く熱かくあり。 罪人を駆りて、 鉄の山を負はしめ縄の上より行かしめ、はるかに鉄のかなえに落として摧き煮ること極まりなし。
解説(黒縄地獄は、生きものを殺し、盗みをはたらいたものがおちるところです)
16 (1)等喚受苦処
 また異処あり。 等喚受苦処と名づく。 いはく、 嶮しき岸の無量由旬なるに挙げ在きて、熱炎の黒縄をもつて束縛して、 繋けをはりて、 しかして後にこれを推して、利き鉄の刀の熱地の上に堕とす。 鉄の炎の牙ある狗のだんじきするところなり。 一切の身分、分々に分離す。 声を唱なへて吼喚すれども、 救ふものあることなし。 昔、 説法せしに悪見の論によりてし、一切不実にして、 一切を顧えりみず、 岸に投げて自殺せるもの、 このなかに堕つ。
解説(黒縄地獄の1つである等喚受苦処は、邪教を教えたり、自殺したものが落ちる所です)
17 (2)畏鷲処
 また異処あり。 畏鷲処と名づく。 いはく、 獄卒杖を怒からかして急に打ち、昼夜につねに走らしめ、 手に火炎の鉄刀を執り、 弓を挽き、 箭を弩ち、 後に随ひて走り逐ひ、斫き打ち、 これを射る。 昔、 物を貪ぜしがゆゑに人を殺し、 人を縛りて食を奪ひしもの、 ここに堕つ。
解説(黒縄地獄の1つである畏鷲処は、物欲のために、人を殺したり、食物を奪ったりしたものが落ちる所です)
18 【3】衆合地獄
 三に衆合地獄といふは、 黒縄の下にあり。 縦広、 前に同じ。 多く鉄山ありて、両々あひ対へり。 牛頭・馬頭等のもろもろの獄卒、手に器仗を執りて、罪人を駆りて山のあひだに入らしむ。 この時に両の山、 迫め来たりて合わせ押す。
身体しんたい摧くだけ砕くだけ、 血ち流ながれて地じに満みつ。 あるいは鉄てつの山やまありて空そらより落おちて、 罪人を打つに、砕くること沙揣のごとし。 あるいは石の上に置きて巌をもつてこれを押す。
 あるいは鉄ての臼に入いれて鉄の杵をもつて擣く。 極悪の獄鬼、ならびに熱鉄の獅子・虎・狼等のもろもろの獣、 烏・鷲等の鳥、 競ひ来たりて食だんす。
 また獄卒、 地獄の人を取りて刀葉林に置く。 かの樹の頭を見るに、好き端正にして厳飾の婦女あり。 かくのごとく見をはりて、 すなはちかの樹に上ぼれば、 樹の葉は刀のごとくして、その身肉を割く。 次にはその筋を割く。 かくのごとく一切の処を劈き割りをはりて、 樹に上ぼることを得をはりて、かの婦女を見れば、 また地にあり。 欲の媚たる眼をもつて、 上ざまに罪人を看て、 かくのごとき言をなさく、「なんぢを念ふ因縁をもつて、 われこの処に到れり。 なんぢ、 いまなんがゆゑぞ、 来たりてわれに近づかざる。なんぞわれを抱かざる」 と。 罪人見をはりて、 欲心熾盛にして、 次第にまた下だれば、 刀葉、上に向かひて、 利きこと剃刀のごとくして、 前のごとくあまねく一切の身分を割く。 すでに地に到りをはりぬれば、しかもかの婦女はまた樹の頭にあり。 罪人見をはりて、 また樹に上ぼる。殺生・偸盗・邪婬のもの、このなかに堕つ。
解説(衆合地獄は、生きものを殺したり、盗みをしたり、不倫にふけったものが落ちる所です)
19 (1)悪見処
 いはく、 一処あり。 悪見処と名づく。 他の児子を取りて、 強ひ逼めて邪行して、 号哭せしめたるもの、ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 罪人みづからの児子を見れば、 地獄のなかにあり。 獄卒、 もしは鉄の杖をもつて、もしは鉄の錐をもつて、 その児子の陰のなかを刺す。 もしは鉄鉤をもつて、 その陰のなかに釘うつ。すでにみづからの子のかくのごとき苦事を見て、 愛心をもつて悲しみ絶ゆること堪忍すべからず。 この愛心の苦く、火焼の苦においていふに、 十六分のなかにその一にも及よばず。 かの人、 かくのごとく心の苦に逼められをはりてまた身苦を受く。
 いはく、 頭面を下に在き、 熱き銅の汁を盛りて、 その糞門に潅ぐ。 その身内に入るに、その熟臓・大小腸等を焼く。 次第に焼きをはりて、 下にありて出づ。つぶさに身心の二の苦を受くること、 無量百千年のなかに止まず。
解説(衆合地獄の1つである悪見処は、他人の子供にいやがることを強要し、泣き叫ばせたものが落ちる所です)
20 (2)多苦悩処
 また別処あり。 多苦悩処と名づく。 いはく、 男の、 男において邪行を行ぜるもの、ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 本の男子を見るに、 一切の身分、 みなことごとく熱炎あり。来たりてその身を抱くに、 一切の身分、 みなことごとく解散しぬ。 死しをはりてまた活みがえり、 きはめて怖畏をなして、走しり避がれて去るに、 嶮しき岸より堕ち、 炎の嘴ある烏、 炎の口の野干ありて、 これをだんじきす。
解説(衆合地獄の1つである多苦悩処は、よこしまの男色をしたものが落ちる所です)
21 (3)忍苦処
 また別処あり。 忍苦処と名づく。 他の婦女を取れるもの、 ここに堕ちて苦を受く。 いはく、獄卒これを樹の頭に懸けて、 頭面は下にあり、 足は上にあり。下に大きなる炎を燃きて一切の身を焼く。 焼き尽くせばまた生じぬ。 唱喚して口を開らけば、火口より入りて、 その心・肺・生熟臓等を焼く。
解説(衆合地獄の1つである忍苦処は、他人の女を奪ったものが落ちる所です)
22 【4】叫喚地獄
 四に叫喚地じ獄といふは、 衆合の下にあり。 獄卒の頭、黄なること金のごとし。 眼のなかより火出づ。 赭き色の衣を着たり。 手・足、 長大にして、疾く走ること風のごとし。 口より悪声を出だして罪人を射る。 罪人惶怖して、 頭を叩きて、哀を求む。 「願はくは慈愍を垂れて、 少し放捨せられよ」 と。 この言ありといへども、 いよいよ瞋怒を増す。
解説(叫喚地獄は、生きものを殺したり、強盗、不倫、飲酒の罪をおかしたものが落ちる所です)
23 (1)火末虫処
 そのなかに一処あり。 火末虫と名づく。 昔、 酒を売りしに、 水を加わへ益せるもの、 このなかに堕つ。四百四病を具せり。 風黄冷雑に、 おのおの百一の病あり。 合して四百四あり。その一の病の力は、 一日夜においてよく四大洲のそこばくの人をしてみな死せしむ。 また身より虫出でて、その皮・肉・骨・髄を破りて飲食す。
解説(叫喚地獄の1つである火末虫処は、酒に水を加え、儲けたものが落ちる所です)
24 (2)雲火霧処
 また別処あり。 雲火霧と名づく。 昔、 酒をもつて人に与たへて、 酔はしめをはりて、 調戯して、これを弄して、 かれをして羞恥せしめたるもの、 ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 獄火の満てること厚二百肘なり。獄卒、 罪人を捉へて火のなかに行かしめて、 足より頭に至るまで一切洋消せしむ。足を挙ぐれば還りて生じぬ。 かくのごとく無量百千歳、 苦を与たふること止まず。
解説(叫喚地獄の1つである雲火霧処は、酔わせた相手を、からかったり、ふざけたり、はずかしめたものが落ちる所です)
現代に通用するか、地獄の思想
 地獄絵を見て、大人の私が恐怖心に襲われたものが何点もあります。その1つを紹介します。
 それは、大焦熱地獄に属する肉剥地獄です。火をふきあげている刀で罪人の背中の皮を、刺身の魚の皮を剥ぐようにペロリと剥ぎます。皮を剥がれて生身の肉の上に、どろどろに溶けた鉄湯を浴びせます。指先の皮が少しめくれても痛くて眠れないのに、その指の肉に熱湯をかぶったらどうなるだろうか。想像するだけにぞっとする怖さです。
 母親は、残酷すぎて、子供には説明しなかったのか、この肉剥地獄はずーっと後に知り、今もその絵の凄さを覚えています。
 最近、いじめによる自殺が増えて、TVや新聞がキャンペーンを張っています。
 有名人が登場してきて、「立ち向かうことなく、癒しの場をさがそう」と発言しています。傑作なのは、巨人から大リーグのヤンキースに移った松井秀喜選手の発言です。常に困難に立ち向かい、あきらめることなくチャレンジ精神を発揮した成功者が、どんな言葉を発しても、心優しい子供たちには通じません。
 いじめた者に対して、「いじめられた者の気持ちを思いやれ」とか「いじめても心は満たされないはずだ」と説教する。いじめている者も、実は競争社会のいじめられっ子なのである。
 「いじめられている子を守るのは、親しかない」というもっともらしい説もあります。しかし、その親自身がいじめられていたり、保護する状況にないということです。
 私の体験からいっても、小さい時は子供社会、在職中は会社社会、定年後は地域社会で、いじめは見聞します。
 今、いじめを子供社会に限定した、偏った政府の政策や報道が行われています。子供社会は大人社会の鏡です。
 いじめは悪いということは皆知っています。スローガンでなくなるものではありません。
 合理的にはよくないと分っていても、体験的にいうと、小さい時に、お寺の日曜学校や近所のおばあさん、それに私の母親が語った昔話や地獄・極楽の話が、情に訴えて、有効ではないでしょうか。これが小さい頃の自制心に役立っていました。
 寺院にも近所にも昔の力はありません。やはり、最後は親力です。小さい時に語る時、語る親も聞く子も、自制心は育まれます。
 いじめた者が落ちる地獄は、衆合地獄の1つである悪見処です。ここでは、獄卒が鉄の杖や鉄の錐で、罪人の子供の陰部を突き刺します。あるいは鉄の鉤を陰部に打ちつけます。これを見た罪人は、自分の子供がいとしく、悲しみに耐えられない。その後、罪人自身も、裸で逆づりにされ、肛門から、どろどろの熱い銅の湯をながしこまれます。その結果、はらわたが焼きただれます。やがて、熱い銅の湯が体中を通って、口から流れ出てきます。この身心の苦しみは、永遠に続くのです。
 六星占術の細木数子さんは、『ズバリ言うわよ!』というTV番組で、出演する女優やタレントが独身であることを理由に先祖や墓を大切にしないと「地獄に落ちるわよ」という言葉を連発するらしい。1938(昭和13)年生まれですから、この記事を書いている2006(平成18)年で68歳です。私より4歳上ですから、同体験をしているのかも知れません。
 しかし、細木数子さんは、京都府内に豪邸を持っています。『ウンナンの気分は上々』というTV番組で、多数の高価な骨董品やブランド物を自慢げに紹介していました。
 どのTV番組かは覚えてみませんが、細木数子さんがパリに行って買い物をするのがありました。宝石や衣服を何億という単位で買っていました。総計で十数億だったと思います。私は一瞬、死んだらどこへ持って行くのだろうと思いました。そして、母親から教えられた「物をむさぼる者は餓鬼になる」を想像しました。
 つまり、細木数子さんは、餓鬼になるのです。その上、細木数子さんは、邪教を説き、著書は100冊以上・3900万部以上を売って金儲けした罪で、黒縄地獄の1つである等喚受苦処に落ちるでしょう。
 細木数子さんが落ちるとされる黒縄地獄とはどんな地獄でしょうか。
 細木さんは鬼につかまえられて裸にされ、熱した鉄の地面に押し付けられます。そして、太った体中に、熱い鉄の墨縄で縦横に墨うちされます。これがとても痛いのです。その後、墨縄に沿って熟した鉄の斧・鋸・刀などで切り裂かれ、幾百幾千の断片にして、あちこちにまき散らされるのです。これが痛いの痛いの、耐え難い痛さなのです。
 次の朝には、元の体に戻って、同じ苦しみを味わうのです。
 当然、細木数子さんを批判して餓鬼にしたり、地獄に落としたのですから、私も当然、地獄に落ちます。しかし、失うものや持って行く物もないので気楽です。その上、私は私の人生観に従って、地獄の住人である獄卒と仲良く、楽しくします。
 そうこうしている内に、地獄にいるという六地蔵の1つのお地蔵さんとも知り合いになるでしょう。
 人間は、前世の善悪の行いに応じて、地獄へ落ちたり、天上に生まれたりします。畜生(鳥・魚・虫)にもなります。今人間であるのは、前世の因縁で人間に生まれ変わっただけのことなのです。
 浄土教では、この世界は、天上道・人間道・畜生道・阿修羅道・餓鬼道・地獄道の六つで構成されているとしています。生きとし生けるものはみな、この六つの世界(六道)を、生と死をくりかえしながら、生まれ変わるといいます。これが輪廻です。
 ですから、人間も牛や虫ケラと同じ生命があるのです。人間は、今、仮の姿として人間に生まれているということを自覚する必要があるのです。
 六道のうち、天上道以外は、苦しみに満ちています。その苦しみを救うのが仏なのです。俺が俺がとか、私が私がという自己中心的な考えを捨て、仏にすべてを任すとき、人は救われるのです。これを六地蔵の思想といいます。
 つまり、自分の言動・行動を、誰かが見ているという意識が、自制心を育成するということでしょうか。

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