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エピソード

087_01

室町時代の産業の発達(藻塩、揚浜式製塩、入浜式製塩)
 土豪・国人の台頭の背景には、経済力の発展が必要です。農民の逞しい工夫や努力によって、室町時代には三毛作も行われるようになりました。用水の管理として、水車龍骨車を作り出しました。稲の品種改良もしました。その結果、早稲中稲晩稲が作られるようになり、三毛作も可能となったのです。
 自然に、二毛作や三毛作が行われるようになったのではないということです。彼らの創意工夫や絶え間ない努力の賜物です。
 生産力があがると、余剰人員が出てきます。進んだ考えの家では、手先の器用なものは、手工業に進みます。この時代、特に発展したのが製塩方法です。
 『万葉集』には「藻塩焼く」という表現がよく出てきます。海藻を焼いて、ろ過して7倍に濃縮した海水を、その灰かぶせてます。そこで出来た濃い茶色のかん水を、大釜で8時間ほど煮詰めると、塩の結晶ができます。
 次に発達したのが、揚浜式製塩です。細かい砂を敷き詰めた塩田に、桶で汲み上げた海水を散水します。塩を含んだ砂を太陽で乾燥させます。塩の結晶がついた砂に海水をかけ、塩の結晶を溶かしながら砂と分離させます。こうして出来たかん水を、大釜で8時間ほど煮詰め、不純物を取り除きます。再び大釜で16時間ほど煮詰め、最後に苦汁と分離させると塩の結晶が出来ます。
 室町時代から江戸時代に発達したのが、入浜式製塩です。塩田に撒き砂を撒きます。撒砂の水分が太陽と風で蒸発すると、毛細管現象が起こり浜溝から浸透した海水が床下から床面へ上昇し、海水の塩分が次々に撒砂に付着します。次に、塩分の付着した撒き砂を沼井台に集めて海水を注ぐと、砂についた塩分が溶けてかん水となり、受け壺へたまります。
 入浜式塩田は、満潮時に海水を塩田に入れ、干潮時に海水を排水て、毛細管現象が起こりやすい状況をつくりという、自然を利用する智恵が必要です。。
 かん水を塩の結晶にするまでは、揚げ浜と同じです。
 手工業をもっと発展させようとして誕生したのが、という組織です。従来の座は、公家や寺社に保護され、従属関係にありました。
 この時代の手工業者には、自主・独立の気鋭に溢れていました。別々に交渉したのでは、相手に隙をあてます。彼らは同業組合をつくり、権力者を相手に一致して交渉しました。この同業組合が座です。
 今までと同額の営業税を納めて、自立を勝ち取りました。そして、売る目的の品物=商品を生産するようになりました。これが、地域特有の特産物の誕生につながりました。特に目立ったのが製紙です。
 製紙では、播磨の杉原紙美濃紙、越前の鳥の子紙が有名です。
 紙の原料は、楮・雁皮・三椏があります。
 は、太く長いので、和紙らしい感じを受けます。奉書紙(福井県)・杉原紙(兵庫県)・美濃紙(岐阜県)に使用されています。
 雁皮は、細く短かいので、緻密で緊密な紙となり、紙肌は滑らかで、赤クリームの自然色が特色です。鳥の子紙がその代表です。
 三椏は、細くて短く雁皮に類似していますが、雁皮よりやや大きく、紙面も滑です。雁皮は、野生ですが、三椏は、栽培が出来る特徴を持っています。現在の紙幣は、この三椏に印刷されています。
生活に根ざした技術は、大変だが、素晴らしい
 私は、小学生の子供と一緒に、赤穂の海水から塩を作ったことがあります。バケツ一杯の水を夏に日光で、殆ど水分がないほど蒸発させます。1ヶ月かかりました。これがかん水です。このかん水をガスで煮詰めます。不純物が混じった塩の結晶ができました。夕飯になめましたが、苦い苦い。
 雁皮は、通学途中の山に生えていました。その木を切って、皮をはぎ、ブチ駒をぶって回して遊んだものです。それを見知らぬ「おっちゃん」が、時々買ってくれたことを覚えています。そのことから、雁皮は繊維性に富んでいることを、知りました。
 少し前の12月13日、杉原紙で有名な兵庫県の加美町で、「忠臣蔵」を講演をしました。前泊したので、加美町の紙の史料館を見学しました。
 (1)3mほどの楮を1mほどに切り揃え、1年ねかせます。その後、皮を剥ぐために大釜で蒸します。
 (2)蒸した楮は、熱いうちに皮を剥ぎます。単純で、根気の要る作業でした。
 (3)剥いだ黒皮の外皮を包丁で削り取って、白皮にします。単純で、根気の要る作業でした。
 (4)白皮を杉原川に一晩浸しておき、雪や冷たい水にさらして白くします。その後、大釜で煮た楮の皮は、清流で不純物を取り除きます。
 (5)水を張った漉舟に、細かくした繊維とサナ(トロロアオイの根からとったのり)を入れ、よくかき混ぜ、薄い糊状にします。単純で、根気の要る作業でした。
 (6)紙は簀桁を揺らしながら1枚1枚漉いていきます。漉き終わると、簀を桁からはずし、湿紙を紙床に200枚ほど積み重ねます。技術を要する作業でした。
 (7)漉いた紙を一晩放置し、圧搾は時間をかけゆっくりと行います。圧搾した紙を1枚ずつはぎ取り、干し板に刷毛で貼り付け天日で乾燥させます。
 私が当日見た行程は、(2)・(3)・(5)・(6)でした。TVでよく見る場面は(6)ですが、そこへ行くまでの過程が大変だとよく分かりました。ありがとうございました。
 紙すきの行程を見て、喋ったり、考えたりしただけでは、物は作り出せないという、最も基本的で、最も欠けている部分を抉り出してくれました。
 手を汚し、服を汚して、汗にまみれ、単純で、根気の要る仕事に従事する人々がいて、TVに出演して喋るだけで生活できるのだし、研究するだけで飯の糧になるのです。その気持ちをいつも大切にしたいと思いました。

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