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エピソード

112_01

格式(親藩・譜代・外様)、大名配置と統制
格式
 大名は、御目見得以上・1万石以上の者をいいます。幕府安定期には260〜280家が存在しました。
 大名の格式には、色々あります。というより、家康の分裂政策により、作り出した格式です。
(1)将軍との親疎による格式があります。
 親藩とは、家康の親戚の大名で、御三家・御三l・御家門があります。
 御三家は、将軍候補の家柄で、尾張62万石・紀伊54万石・水戸24万石をいいます。
 御三lは、将軍吉宗が創設した新御三家で、将軍候補の家柄で、田安・一橋・清水をいいます。当主が民部卿や刑部卿の官名を用いたので、こう呼ばれました。
 御家門は、御三家・御三卿以外の分家大名をいいます。徳川家康の次男結城秀康を祖とする越前松平家、徳川秀忠の三男保科正之を祖とする会津松平家、久松松平家、越智松平家などの大名で、20家ありました。
 十八松平は、徳川家康以前、松平氏がまだ三河の一豪族であった頃に成立した庶流の諸家をいいます。譜代大名や旗本として活躍しました。
 次に、譜代で、関ヶ原の戦い以前から徳川氏に臣従していた大名で、幕末で145家ありました。重要な拠点に配置されました。禄高は、井伊家30万石や酒井家14万石以外は1〜5万石ですが、老中など要職に就いています。
 最後に、外様で、関ヶ原の戦い以後に徳川氏に臣従した大名で、幕末で98家ありました。加賀前田家102万石、薩摩島津家73万石、筑前黒田家43万石、萩毛利家37万石、仙台伊達家56万石などの大大名でしたが、江戸から離れた地に配置され、幕政にも参画することができませんでした。
(2)家格による格式があります。
 国主は、1国以上、もしくはそれに相当する広大な所領を持つ大名をいい、高い官位と格式が与えられました。加賀前田家、薩摩島津家、仙台伊達家、熊本細川家54万石、筑前黒田家、広島浅野家38万石、萩毛利家、佐賀鍋島家36万石、鳥取池田家32万石、岡山池田家32万石、津藤堂家32万石、徳島蜂須賀家26万石、高知山内家17万石、久留米有馬家21万石、秋田佐竹家21万石、米沢上杉家30万石の外様大名16家に越前松平家45万石、松江松平家19万石の家門2家を併せた18家があり、のち盛岡南部家8万石と対馬宗家10万石も加えられました。
 準国主は、国主に準ずる格式を与えられた大名で、宇和島伊達家7万石、柳川立花家12万石、二本松丹羽家11万石の3家があります。
 城主は、国主・準国主以外で居城を持つ大名をいいます。
 城主格は、城は持たないが、城主と同一待遇を受ける大名をいいます。
 無城は、城を持たない小大名でをいいます。その居所を在所、居館を陣屋といいます。
(3)江戸城の詰め所による格式があります。
 大廊下上部屋は、御三家(尾張徳川、紀伊徳川、水戸徳川)当主とその嫡子が詰めます。水戸は定府し、尾張・紀伊はいずれかが上府することになっています。
 大廊下下部屋は、越前松平、矢田松平、鳥取池田、阿波蜂須賀、前田家が詰めます。
 大広間は、薩摩島津家、仙台伊達家、秋田佐竹家、対馬宗家など国主・準国主格で10万石以上・四位以上の官位を持つ外様大名と松江松平家など御家門の大名が詰めます。仙台伊達家、薩摩島津家のいずれかが上府することになっています。
 帝鑑間は、徳川一門である水戸家や越前家の分家、柳沢など城主格以上の譜代60家(従四位下、従五位下)と願譜代(外様大名で譜代大名に準ぜられるもの)が詰めます。
 黒書院溜の間は、会津松平家、桑名松平家、彦根井伊家、姫路酒井家など御家門や譜代大名の上級者、老中を務めた大名が詰めます。この溜の間に席を有するものを溜席といい、名誉席の性格をもっています。
 雁の間は、白書院と黒書院の間にあり、城主格以上で10万石以下の譜代大名と高家が詰めます。ここに詰める大名は詰衆とよばれ、老中に選ばれるクラスといえます。
 柳の間は、大広間と白書院の間にあり、7万石以下・五位以上の官位を持つ外様大名と大広間詰の外様大名の分家、表高家などが詰めます。
 菊の間は、白書院と黒書院の間にあり、2万石以下で無城の譜代大名、一部の旗本が詰めます。
大名配置と統制
 ここに1664(寛文4)年の大名配置図があります。外様を赤、親藩を緑、天領を白に塗ってみました。それを見ると、徳川家康の分裂政策の意図がよく分かります。 
 東北地方には、秋田に佐竹氏21万石、仙台に伊達氏56万石、米沢に上杉氏30万石などの外様大藩を配置しています。彼らが江戸に攻め上れないように、太平洋側の平に内藤氏7万石、棚倉に内藤氏5万石、白河に本多氏10万石、会津若松に保科氏23万石、日本海側の村上に松平氏15万石など親藩・譜代大名を配置して、遮断しています。
 江戸周辺には、天領・親藩・譜代を完全に配置し、外様が攻め込めないようにしています。
 北陸地方には、富山に前田氏10万石、金沢に前田氏102万石などの外様大名を配置しています。彼らが江戸・京都(朝廷)に攻め上れないように、高田に松平氏26万石、松本に水野氏7万石、加納に松平氏7万石、福井に松平氏45万石など親藩・譜代を配置して、遮断しています。
 近畿地方には、太平洋側の桑名に松平氏11万石、彦根に井伊氏30万石、小浜に酒井氏12万石、丹後に天領、篠山に松平氏5万石、大坂に天領、和歌山に徳川氏54万石などの天領・親藩・譜代を配置して、京都(朝廷)を完全に包囲しています。
 中国地方には、萩に毛利氏37万石、広島に浅野氏38万石、岡山に池田氏32万石、津山に森氏19万石、鳥取に池田氏32万石を配置しています。彼らが京都(朝廷)に攻め上れないように、瀬戸内海の姫路に榊原氏15万石、日本海側の丹後に天領を配置して、遮断しています。
 四国地方には、徳島の蜂須賀氏26万石、高知の山内氏17万石、宇和島の伊達氏7万石を配置しています。彼らが京都(朝廷)に攻め上れないように、高松に松平氏12万石、松山に松平氏15万石など親藩・譜代を配置して、遮断しています。
 九州地方には、鹿児島に島津氏73万石、熊本に細川氏54万石、佐賀に鍋島氏36万石、福岡に黒田氏43万石、秋月に有馬氏21万石を配置しています。彼らが京都(朝廷)に攻め上れないように、小倉に小笠原氏15万石、中津に小笠原氏8万石など親藩・譜代を配置し、遮断しています。
 家康の親戚でない譜代大名は、145大名のうち、94大名が5万石以下に抑えています。それは、譜代同士、或いは譜代と外様が団結しても、大きな被害がでることを防ぐ手段にするためです。
 と同時に、譜代大名の転封を頻繁にさせています。このことを、「鉢植の大名」といいます。最も有名なのが譜代大名越前松平氏の例です。これでは、だれと仲良くする暇もないです。
@1635年勝山→大野 D1667年村上→姫路 H1741年白河→姫路
A1644年大野→山形 E1682年姫路→日田 I1749年姫路→厩橋
B1648年山形→姫路 F1686年日田→山形 J1767年厩橋→川越
C1649年姫路→村上 G1692年山形→白河 K1866年川越→厩橋

10  法による統制は別項に譲ります。
論より証拠」「しゃくはしゃくでも、講釈の釈では、水は汲めない」
 昔の諺に「論より証拠」というのがあります。「しゃくはしゃくでも、講釈の釈では、水は汲めない」とも言います。やはり水は「杓」がなければ、汲めません。つまり、現実にあてはめないと、理解できません。
 忠臣蔵の有名な吉良上野介に、浅野内匠頭が刃傷に及びました。「この間の遺恨覚えたるか」という史料は残っていますが、「遺恨」(うらみ)については、何も残っていません。何もないから、自由に色々なイジメの話になるのでしょう。
 吉良上野介は、高家筆頭ですから、雁の間に詰めます。ここは、エリートクラスの人が集まる所です。浅野内匠頭は大広間詰の外様大名の分家ですから、柳の間に詰めます。ここは、地方の大名の分家クラスの人が集まる所です。
 ある同窓会が終わって、二次会でのことです。ある生徒が「僕のことを”エリートクラスの○○君やな”と言うんです。僕は一度もそう思ったこともないのに、どう思いますか」と聞かれたことがあります。そういえば、習熟度別を採用している場合、様々なクラスが集まる同窓会ともなると、グレード上位クラスの生徒は「僕は上位クラスや」という発言はありませんが、基礎クラスの生徒から「僕ら出来んクラスやから」という発言をよく聞きます。
 これを上野介と内匠頭にあてはめると、上野介は自分をエリートクラスと感じたことはないでしょうが、内匠頭からするとそう感じられる「何か」があったと想像されます。よくあることですが、それが人一倍臭わす人と、感じる人だったのでしょうか。
 次に、徳川家康の分裂政策を見てみます。この制度のお陰で、徳川政権は、1603年から1867年まで265年間も続きました。
 これを巧妙と見る考えもあります。家康の統治方法を経営の基本に考える人もいます。
 他方、徳川時代を近世と言います。しかし、英語には近世という単語はありません。古代・中世・近代はあります。では、どう表現しているかというと、プレ・モダン(pre-modern)といいます。日本語に直訳すると前近代となります。ヨーロッパにはない付録の時代です。中世は、日本もヨーロッパも封建時代といいます。近世も封建時代といいます。
 つまり日本では、ヨーロッパにない封建時代(分裂統治の時代)が265年間も余分に続いたのです。その結果、先輩・後輩のいびつな上下関係、男尊女卑の考え方、同和問題などの課題が色濃く残ったのです。
 逆に、日本独特の文化・思想が形成されたこともあります。

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