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エピソード

126_01

名産の成立T(輪島塗)
 ウルシノキは、植生して10年ほどで高さ10メートル、直径が15センチになります。6月から10月頃、幹を傷をつけて、滲み出してくる樹液を金べらで掻き取ります(漆掻き)。
 ウルシノキ1本あたりの産出量は、10年ほど育てて、わずかに200グラムです。漆の樹液は、非常に貴重だということがわかります。
 漆の木に傷をつけると、樹液(フェノール系の天然樹脂)が出ます。主成分はウルシオールと言われる油です。この油の中にある少量の酵素ラッカーゼが、空気中の水分から酸素を取り込み、硬い皮膜をつくり、乳液状になったものが「荒味うるし」です。
(1)「荒味うるし」に熱を加えて濾過し、ゴミや木の皮などを除去したものを「生漆」といいます。
(2)「生漆」は、撹拌して、均質にしたり、滑らかさや光沢を与えます。これを「なやし」といいます。
(3)「生漆」に熱を加えながら撹拌し、水分を3%にする作業を「くろめ」といいます。この時、酵素ラッカーゼが、熱で死なないように、温度を一定に保ちます。これが非常に重要です。
 原料生漆を精製したものは、精製生漆といわれ、「生漆」・「透漆」・「黒漆」の3種類あります。
 生漆は、65%が漆、30%前後が水分の状態です。
(1)生漆は下地漆・拭き漆・上摺漆とにわけられます。
 @下地漆は、砥の粉や地の粉などと混ぜて漆下地として使います。
 A拭き漆は、そのまま拭き漆用として使います。
 B上摺漆は、仕上げ用の摺漆として使います。
(2)透漆は、「生漆」に荏油などの植物油や顔料を調合した透明な精製漆で、淡黄茶から赤茶の仕上がりです。
(3)黒漆は、「なやし」「くろめ」前の生漆に、着色反応剤として鉄粉や水酸化鉄を入れ、漆と反応させウルシオール鉄塩を作り、漆特有の深みのある黒を得ます。 
 製造工程を説明します。輪島塗は、20以上の工程と120以上の手数をかけています。輪島にしか産しない「地の粉」や、最良の材質であるアテ(アスナロ)・ケヤキを使い、歴史と伝統が作り上げた商品と言えます。
(1)木地型→木地→切彫→刻苧→木地固め→木地磨き→布着せ→着せ物けずり
(2)惣身付け→惣身磨き→一辺地付け→から研ぎ→二辺地付け→二辺地研ぎ→三辺地付け→三辺地研ぎ
(3)中塗り→中塗り研ぎ→小中塗り→小中塗り研ぎ→拭き上げ→上塗り→加飾(沈金・蒔絵)→完成
 塗りの工程は、大別して、下地塗り・中塗り・上塗り・絵付け・金粉蒔になります。
(1)下地塗りは、木地に「生漆」を薄めたものを土台としてたっぷり塗ります。中塗りや上塗りの漆を吸い込まないようにするのが肝心です。下地塗りは1日で乾きます。
(2)中塗りは、「生漆」の濃いものを使います。中塗りは、1回塗ると3日乾かします。その後、研ぎます。これを3回繰り返します。
(3)上塗りは、「朱合い漆」に赤色や青色の顔料を混ぜて赤や青などの色を出しした漆を使います。部屋の湿度を取り、1週間かけて固めます。
(4)絵付けは、固まるのが早い漆を使うので、時間と勝負の大変な作業となります。
(5)金粉蒔きは、固まりつつある絵付けの漆に純金粉を蒔きます。漆が固まると金粉がくっつきます。漆は接着剤の代わりをするのです。
いい物は、いいのだ!!
 Japanは日本ですが、japanは漆です。日本を英語でJapanという起源は、マルコ=ポーロのジパングから来ていると説く人が多いですが、ジパングはどこから来ているのかというと、沈黙する人も多い。
 日本を中国語では、日(ji)本(ben)と発音します。そして、英語のjapanは、漆の国日本が起源ではないかと思っています。
 塗られた漆が乾いても、ラッカーゼ酵素は生き続けています。だから、表面の色艶が褐色から徐々に透明感を増し、美しい色へと変化するのです。
 漆の優れているのは、色の美しさだけでなく、色が生きています。また、酸や塩分に対して防水・防腐性があり、電気に対して絶縁性もあるからです。
 以前、1本500円から1000円の輪島塗の箸を使っていました。1年もしない間に、口に入れる方の先端の塗りがはげて木地が見えたり、ポロッと欠けたりしました。箸というものは、そんなものだと思っていました。しかし、5年前に、塗りの詳しい人に出会い、1本1万円の輪島塗の箸を買いました。使えば使うだけ手になじみ、黒の艶も出てくるし、毎日お世話になるだけに、今は「元をとった」感じです。
 おなじ時に、本物の輪島塗の椀も買いました。持てば、ドッシリ重量感があり、手に吸い付くように納まる感じです。
 それならばと、正月に使う「三段重」を買いました。わが家の食器で最高の価格です。黒の色といい、金の蒔絵といい、使えば使うほど、見れば見るほど、味わいがあります。次の世代に譲る価値はあります。

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