ごあいさつ
第ニ十九回は新人物往来社
津川安男著『元禄を紀行する』
ブロードバンド(光ファイバー)の時代 もう一度、ビデオ撮影の旅へ 先ずデスクワークから 指針になる諸先輩の本をひも解く そしてフィールドワークへ |
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私はこの欄の第四回目に、司波幸作氏の『元禄忠臣蔵の舞台』(←ここをクリック)を紹介しました。その本は、今も私たち夫婦に全国の義士関係の史跡巡りという大きな生きがいを与えてくれた1冊の本です。 そこでも書きましたが、この本のガイドとして優れているのは、苦労して現地を取材していることである。北は岩手県一関市の祥雲寺に行っては「浅野内匠頭供養塔」を撮影している。 南は鹿児島県鹿児島市に行っては西郷隆盛が郷中教育の教材に利用したという「赤穂義士伝」を撮影している。 忠臣蔵史蹟めぐりの色々な本を読むうちに、見たり、読んだりした人のためになる自分らしさのガイドブックが作りたくなった。既に「史跡忠臣蔵」の引き上げルートの部(←ここをクリック)では実施しているが、もう一度諸先輩の本をゆっくりと紹介しながら、何が必要かを検証したいと思います。 その第3回目に選んだのが、津川安男著『元禄を紀行する』です。 |
津川氏は元NHKのプロデューサーで、ディレクター |
私の忠臣蔵新聞第210号・211号(時空警察を検証する)でも書きましたが、プロデューサーが誰をシナリオライターに選ぶかで、その作品の殆どがが決まります。それを如何に演出するかがディレクターの仕事であり、その人物をどう演ずるかが役者の仕事です。 そういう点で、プロデューサー津川氏が忠臣蔵の世界でどんな切込みをするのか、『元禄を紀行する』はとても興味があります。 |
忠臣蔵を二十二景に切り取り |
第一景は音羽の伽藍です。護国寺、『江戸名所絵図』(護国寺、日本橋の高札場)。『名所江戸百景』(昌平橋・聖堂・神田川) 第二景は六義園です。六義園、柳沢吉保。 第三景は日本橋界隈です。日本橋。『武相名所手鑑』(大磯の鴨立庵)、義仲寺の芭蕉の墓(大津)、大高源五の家の跡(赤穂)、宝井其角。 第四景は松之大廊下です。松之大廊下跡、東京国立博物館蔵(松之大廊下の小下絵)、浅野内匠頭、吉良上野介、田村右京大夫屋敷跡、多聞伝八郎の墓、『赤穂義士真観』(殿中刃傷)。 |
第五景は播州・赤穂です。赤穂城隅櫓、復元された赤穂の塩田、大石内蔵助邸の長屋門、息継ぎ井戸、浅野家鉄炮洲屋敷跡(東京)、原惣右衛門の家。 第六景は花岳寺です。花岳寺山門、小野寺十内、小野寺幸右衛門、間瀬孫九郎、山鹿素行の銅像、花岳寺。 第七景は瀬戸内です。夕暮れの赤穂御崎、大石内蔵助が仮住まいしたおせど、堀部弥兵衛、大石名残りの松。 |
第八景は山科閑居です。大石内蔵助の山科閑居跡、大石閑居跡、内蔵助が寄進した来迎院の茶室、堀部安兵衛、奥田孫太夫。 |
第九景は吉良庄です。吉良町の吉田港、華蔵寺の御経堂、吉良上野介木像、上杉綱勝(米沢)、黄金堤跡。 |
第十景は摂津・箕面です。萱野三平の旧宅、萱野三平と一族の墓、萱野三平が切腹した部屋、萱野三平の墓(東京泉岳寺)。 |
第十一景は山科と江戸です。山科の大石内蔵助邸への道標、内蔵助が滞在した三田松本町付近、浅野内匠頭の墓、吉田忠左衛門、浅野大学の墓、徳川綱吉。 |
第十二景は北野天満宮です。北野天満宮、神田明神(東京)、堀部安兵衛、神崎与五郎、大石りく。 第十三景は伏見撞木町です。撞木町遊郭跡、一力茶屋、七段目「一力茶屋の場」、おかるの墓。 第十四景は円山・重阿弥楼、円山の安養寺、左阿弥、間瀬久太夫、大高源五。 |
第十五景は逢坂山です。逢坂の関、貝賀弥左衛門、綿屋善右衛門の墓、内蔵助の生母くまの墓、蝉丸神社、大石主税。 第十六景は箱根越です。箱根の山々、花遊小路、大野九郎兵衛伝説が残る板谷峠の洞窟、新居関、箱根神社、金銀請払帳。 |
第十七景は八百八町です。大高源五、『切絵図』(本石町付近)、大石主税が住んだ小山屋付近、荷田春満。 第十八景は深川です。深川八幡宮、回向院、吉良家の図面、堀部安兵衛の本所の家跡。 第十九景は本所です。『切絵図』(本所)、寺井玄渓の墓(京都)、前原伊助、杉野十平次 第二十景は松坂町です。吉良邸跡、吉良邸跡の「首洗いの井戸」、『赤穂義士真観』(討入り表門・裏門)、武林唯七、両国橋たもとの大高源五の句碑、永代橋。 第二十一景は泉岳寺です。泉岳寺山門、泉岳寺、仙石屋敷跡、毛利屋敷跡、細川邸跡、細川越中守の墓。 第二十二景は江戸城です。江戸城、荻生徂徠、評定所跡付近、吉良義周が預けられた高島城、細川邸跡の切腹石、小野寺丹の墓(京都)。 |
この本の特徴は、NHKの元プロデューサー・ディレクターである津川氏らしく、忠臣蔵を22のシーンで構成している点である。それを大まかにくくると、刃傷の第一幕、城明渡しの第二幕、山科時代の第三幕、吉良の第四幕、萱野三平の第五幕、第1次東下りの第六幕、討入り決定の第七幕、第2次東下りの第八幕、討入りの第九幕で構成されています。芝居調に表現すると「9幕22場」という大芝居になります。 この九幕から忠臣蔵を見るというのも、面白い。 もう1つの特徴は、出版社の取材用の車で現地に行っているのではない点です。「山陽新幹線を相生で降りて、赤穂線に乗りかえるのが普通である。ただ、アクセスがあまりよくない。そこで、相生からタクシーに乗った。…鷹取峠…から見る…景観はすばらしい。欲をいえば目の前の電線がなければよいのだが…」。自前で行った人でなければ、書けない表現があちこちに出てきて、それが妙に味わい深い。 |
この書の問題点 |
私も行ったことがない史跡が何ヶ所かある。しかし、この書には大まかに目印はあるが、詳細なデータが不足しているので、ガイドブックには適していない。 旅行中のできごとや感想などを書きしるした文を紀行文という。確かに、旅行者自身の記録かも知れない。しかし、その記録を見て、追体験をしたい人もいる。私もその1人であるが、残念ながらそうなっていない。 |