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エピソード

302_04

慰安婦決議案と日本の外交(2)
 慰安婦決議案について、新しい状況が展開されました。前回に続いて、取り上げます。
 2007年3月16日
(1)ニューヨーク・タイムズは、「シーファー駐日米大使は、太平洋戦争中の従軍慰安婦について、”強制的に売春をさせられたのだと思う。つまり、旧日本軍に強姦されたということだ”と語った」「河野洋平官房長官談話を日本政府が見直すことのないよう期待を示した」報じました。
(2)政府は、閣議で、辻元清美衆院議員(社民)の質問主意書(史料1)の扱いについて協議し、いわゆる従軍慰安婦問題に関し、旧日本軍の関与を認め謝罪した河野洋平官房長官談話(93年)について「政府の基本的立場は談話を継承している」とする答弁書(史料2)を決定しました。
*コメント:閣議で、「政府の基本的立場は談話を継承している」と決めたことは重要です。しかし、外圧によって、決定したことは、相変わらずの体質を露呈しています。
 2007年3月18日
 ロサンゼルス・タイムズは、「従軍慰安婦問題で安倍晋三首相が”狭義の意味での強制性を裏付ける資料はなかった”との立場を堅持していることについて、”強制性”を否定していることで北朝鮮による日本人拉致問題で日本政府の立場を支持する人たちを”困惑させている”」と報じました。
 また、ロサンゼルス・タイムズは、「拉致問題では”北朝鮮を非難”するが、慰安婦問題では”強制を否定している”と指摘し、シーファー駐日米大使の”元慰安婦は旧日本軍によって強姦された”という記事を紹介して、”ワシントンの日本の最大の支援者たち”にも困惑が広がっている」「首相は旧軍によって恐怖を強いられた多くの女性に対し、拉致被害者にたいするのと同じ同情を持てないでいる」と報じています。
 2007年3月19日(毎日新聞)
 衆議院予算委員会で、審議がありました。
 稲田朋美氏(自民)は、「決議案は、日本軍が若い女性を強制的に性奴隷にして、あげくの果てに殺したり、自殺に追いやったとしている。外相は同じ認識なのか」と質問しました。
 麻生太郎外相は、「決議案は、客観的事実に基づいていない。日本政府の対応を踏まえておらず、はなはだ遺憾だ」と答えました。
 稲田氏は、河野談話について、「安倍晋三首相も(首相就任)以前は問題だという認識を示していた」と指摘しました。
 塩崎恭久官房長官は、「政府として河野談話を受け継いでいる」と答えました。
*コメント:この段階においても、研究者でない政治家が歴史認識について質問し、外交の最高責任者が答弁するアナクロ映画を見せられます。前回、河野談話の全文を紹介しましたが、要点を再掲すると、(1)慰安所の設置・管理及び慰安婦の移送は旧日本軍が直接・間接的に関与していた(2)慰安婦の募集は、軍の要請を受けた業者が主として当たった(3)甘言・強圧などで本人の意思に反して集められた事例が数多くあり、官憲が加担したこともあった
 2007年3月24日
 ワシントン・ポストは、社説の見出しを「安倍晋三のダブル・トーク」とする記事を掲載しました。
 「6者協議で、拉致問題の進展を最重要課題とする日本政府の姿勢について、”平壌の妨害に文句を言う権利がある”としながら”第2次大戦中に数万人の女性を拉致し、強姦し、性の奴隷としたことへの日本の責任を軽くしようとしているのは、奇妙で不快だ”と報じました。
 そして、安倍首相には、「拉致問題で国際的な支援を求めるなら、彼は日本の犯した罪の責任を率直に認め、彼が名誉を傷つけた被害者に謝罪すべきだ」と指摘しました。
 さらに、河野談話を後退させることは、「民主主義大国の指導者として不名誉なことだ。日本政府の直接の関与を否定すれば、北朝鮮に拉致問題の回答を求める正当性を高めると考えているかもしれないが、それは逆だ」と報じています。
*コメント:double talkとは、「表裏のある話し方」とか「ちんぷんかんぷん」という意味です。アメリカの有力紙に日本の総理大臣もなめられたものです。
 2007年3月25日(朝日新聞)
 「女性のためのアジア平和国民基金」が果たした役割を、河野官房長官談話に官房副長官として携わった石原信雄・同基金副理事長は、次に様に語りました。
 「基金の起点になったのは河野談話だ。政府の調査では、政府や軍が直接女性たちを強制的に集めたと裏付ける直接的な資料はなかった。しかし、証言を直接聞くと、明らかに意に反して慰安婦になった人たちがいると認めざるを得なくなった。
 政府は、多くの国民の気持ちがどの辺にあるかをふまえて対応することが大事だ。基金を発足させた村山内閣の方針は決して間違いではなかった。ただ、元慰安婦の認定は各国政府の協力がなければ成り立たない。韓国では「償い金」を拒否する団体があり、中国も戦争被害者から慰安婦だけ抜き出すのに消極的だった。
 基金として完全に償いを終えた、と胸を張って言えるような立場じゃない。しかし、非常な制約のなかで、日本国民の善意を彼女たちに届けた基金の役割は、評価されてしかるべきだ」
*コメント:従軍慰安婦問題を歴史から抹消したい人たちから、官房長官談話の時の官房副長官で、生き字引として再三引用される石原信雄氏は「政府の調査では、政府や軍が直接女性たちを強制的に集めたと裏付ける直接的な資料はなかった。しかし、証言を直接聞くと、明らかに意に反して慰安婦になった人たちがいると認めざるを得なくなった」と明確に語っています。紙データはないが、実体験した婦人はいると!。誰がそのような証拠を残すもんですか
 2007年3月26日
 下村博文官房副長官は、記者会見で、いわゆる従軍慰安婦問題について「(強制連行をめぐり)軍の関与はなかった、直接的な関与はなかったと私自身は認識している」と語りました。
 下村氏は、その根拠として、1997年に平林博内閣外政審議室長が参院予算委で「公的な資料の中には軍や官憲による組織的な強制連行を直接示すような記述は見いだせなかったと答弁している。発見されなかった以上、軍や官憲による強制連行はなかったというのが個人的な見解だ」と説明しまた。
 しかし、平林氏が「直接示す資料は発見されなかった」と否定したのは、軍による従軍慰安婦の強制連行や強制募集に関してで、一般的な「軍の関与」は否定していません(史料1)。
 安倍晋三首相は、夜の記者会見で、「下村氏の発言は聞いていないが、私の考えは既に述べている通りだ」と述ベて、河野談話を継承する考えを重ねて強調し、「強制性」には言及しない姿勢を表明しました。
*コメント:安倍首相は、外圧に屈した形で、強制性への言及を封印し、河野談話を継承する意向と慰安婦への「おわび」を繰り返し表明するようになりました。しかし、首相を支えるbQの官房副長官の立場の人が、歴史修正主義者の如く、答弁書を自分勝手に解釈して、首相と食い違う発言をしています。一体、この国はいつから下剋上になってしまったのでしょうか。
 2007年3月26日
(1)イギリスのBBCテレビは、安倍首相が、参議院予算委員会で、従軍慰安婦問題について「首相としておわびしている」と発言したことを報じました。
 「旧日本軍による慰安婦の強制性に疑問を呈した首相の発言がアジアの近隣諸国の批判を招いた」「一連の発言がおよぼした悪影響を減らそうという試みの一環だ」とも報じています。
(2)米国務省のトム・ケーシー副報道官は、定例記者会見で、「日本政府は過去に犯した罪の重大さを認める率直かつ責任ある態度をもって対処していくべきだ」と述べました。
 また、ケーシー副報道官は、安倍首相が慰安婦問題について謝罪する発言をしたことに関し、「安倍首相の謝罪発言を歓迎する。米国は日本がこの問題に引き続き取り組んでいくことを強く望んでいる」とも語りました。
 その後、ケーシー副報道官は、「第2次大戦当時、当該の女性たちは、とても悲惨な待遇を受け、人権を蹂躙された。日本政府はこの問題の解決にきちんと取り組むことを望み、周辺国との関係改善や関係の進展のために努力していくことを要望する」と声明を発表しました。
*コメント:アメリカの国務省が日本に対して、このような声明は出したのは初めてのことだそうです。米国政府は、慰安婦問題については、内政問題として静観してきたためですが、これ以上の日本のどたばたは、アメリカの国益に反すると感じたのでしょうか?。
 2007年3月27日(朝日新聞の星浩編集委員)
 従軍慰安婦について「強制的な状況の下での痛ましいものであった」 「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と明記した談話の内容は、韓国政府などから一応の評価を受け、この間題はひとまず沈静化していた。
 自民党には談話見直しを求める意見もある。安倍首相が「強制性を裏付ける証拠はなかった」と発言したら、米国の新聞が「強制性を否定」と報じるなど波紋が広がっている。
 河野氏自身は、議長という立場もあって多くを語らないが、周辺によると(あのタイミングで決断しなければ、その後の自民党政権下でまとまることはなかっただろう。その場合、韓国や中国の対日不信は、さらに募っていたのではないか)と考えているという。
 一連の論議の中で、米国の知日派マイケル・グリーン氏(前国家安全保障会議上級アジア部長)の発言が目を引いた。
 「慰安婦が強制されたかどうかは関係ない。日本以外では、誰もその点に関心はない。問題は慰安婦たちが悲惨な目にあったということであり、永田町の政治家たちは、この基本的な事実を忘れている」。
  そうした歴史に正面から向き合って、謝罪すべきは謝罪するのか、それとも「強制性」の細部にこだわって日本の責任を軽視するのか−政治家の対応が問われる点だ。
10  2007年3月27日
 今月末に解散する「女性のためのアジア平和国民基金」の石原信雄副理事長らは、外務省に麻生外相を訪ね、村山富市理事長の「慰安婦問題を歴史の教訓としていくことは、なお日本国民の課題だ」申入書を手渡しました。
 麻生太郎外相は、基金の活動に「深い敬意」を表明し、「基金解散後も、基金の事業に体現された国民と政府のこの問題に対する真摯な気持ちが引き継がれていくよう努力していきたい」と応じました。
*コメント:「慰安婦問題を歴史の教訓としていくことは、なお日本国民の課題だ」というのが、今、最も引用されることの多い河野談話の生き字引である石原信雄氏の基本的態度です。この段階でも、石原氏は、慰安婦問題を歴史の教訓としてとらえています。どうして、石原氏の発言の都合のいい部分だけをつまみ食いするのでしょうか。こういう人を歴史修正主義者といいます。日本を破滅に導いた歴史修正主義者がテレビで発言する機会がメッキリ多くなりましたね。再び同じ方向に向かうのでしょうか。
11  2007年3月27日(朝日新聞)
 カナダ下院の国際人権小委員会は30日までに、第2次大戦中の「従軍慰安婦」問題をめぐり、日本政府に謝罪を求めるべきだとする決議を採択した。決議は上部の外交国際開発委員会で4月に審議される見通しだ。
 決議は、日本の国会が公式の謝罪決議を出し、被害者に正当な補償をするよう、カナダ政府が必要な措置をとることを要請している。
 野党・新民主党の議員が提出し、27日の採決は、賛否が3対3で割れたが、与党・保守党の委員長が賛成に回った。
 決議を推進したマーソトン議員は声明で「安倍首相が公式に謝罪して被害女性に補償するよう圧力をかける必要がある」と述べた。
 またブラック議員は、カナダ政府が昨年、中国系移民に対する過去の不公平な人頭税に対して謝罪したことを指摘して、「アジア女性に対する歴史上の不正を正すため、さらに影響力を使うべきだ」と主張している。
12  2007年3月28日
 公明党の北側一雄幹事長は、記者会見で、下村博文官房副長官が従軍慰安婦をめぐり「直接的な軍の関与はなかったと認識している」と記者会見で語ったことについて、「官房副長官は、自分の意見を言う立場にない。安倍首相をしっかり守るのが役割で、個々人の意見についての発言は、慎重にしてほしい」と批判しました。
 安倍首相が河野官房長官談話を継承する考えを繰り返しているなか、問題を蒸し返す形で下村氏が自らの意見を表明したことに、強い不快感を示したものです。
戦前との違いはバランス感覚のある老人が健在
 三宅久之さんが、他の人と違って、微妙な発言をしたのは、私が知る限りでは、2007年3月18日の読売テレビ「そこまで言って委員会」です。
 「安倍さんはですよ、公式に河野談話を継承するって言ってるわけですよ。政府の立場として。だからそれは今さら否定のしようがないでしょ。安倍さんが継承するって言ったんだから。だからその、継承するという一点で、もうこれ、突っぱねるよりしょうがない」
 4月2日の「TVタックル」では、三宅さんの発言は、もっと明解になっています。
 「2月15日にアメリカ下院の外交委員会の公聴会が開かれた。その時、親日的な共和党の議員が日本を弁護している。それは、日本の総理大臣は河野談話を出して謝っている。それを罰しようとするのは、日米関係に亀裂が生ずるではないか。そういう趣旨で日本を弁明している。
 これは安倍さんにとっても苦汁の決断だったと思うけれども、河野談話で謝っているということで収拾せざるを得なくなっている。安倍さんにとっても、これまでの主張から言えば、”狭義の強制連行はなかった”ということを確信していますよ。しかし、一国の総理大臣がそこらへんの勇み肌のあんちゃんみたいにいきりたつことにはいかない」
 そこに同席していた外交官で、安倍首相のブレーンである岡崎久彦氏も「河野談話を継承するで、ひたすら行くしかない」と発言しました。
 国内問題では、私は、彼らと意見を異にすることが多いのですが、この点に関しては、同感です。年配の2人が柔軟なのに、これも安倍首相のブレーンである八木秀次氏らの原理原則な態度とは対照でした。
 2007年4月8日のフジテレビ『報道2001』で、慰安婦問題が再度取り上げられました。秦郁彦氏・中西輝政氏・古森義久氏ら産経新聞の『正論』レギュラー出筆陣は、「正式な文書はなかった」という理由で、外交問題化している従軍慰安婦問題を矮小化します。
 4月1日のTBS(関西では毎日テレビ)「サンデーモーニング」で、岸井成格毎日新聞特別編集員は「”先の戦争を侵略戦争でなく、仕掛けられた自衛戦争だった”としたいある一部のグループの動きがある」と指摘します。次回は、この一部グループを取り上げますが、この『正論』レギュラー出筆陣もそのグループであることは、発言から明確です。
 産経新聞系列のフジテレビのレギュラー・コメンテーターの竹村健一氏は、以前にも紹介しましたが、ことアメリカになると、バランス感覚を取り戻します。今回も、「どの国でも、過去には恥ずかしいことをやってきた。アメリカでも、日本人を戦争中に強制収容所入れた。そいう問題でも、アメリカの方は、率直に謝るんだ。どこの国でもそういう経験はある。それを踏み越えて、前向きのことを考えようではないですか」と『正論』レギュラー出筆陣を批判します。
 政治家は、マキャベリストである。しかし、小さい嘘は直ぐばれます。私のような者にも、安倍首相の今回の発言はバレバレです。こんな小粒な総理大臣に、国家の命運を任せていいのだろうかと不安になっています。
 学者や評論家が、政治化すると、マキャベリ化します。マキャベリ化学者や評論家が、戦前、実証主義的な美濃部達吉や津田左右吉を弾圧するのに、力を発揮しました。
 次は、辻元清美議員(社民党)の質問主意書です(史料1)
 安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
平成一九年三月八日
提出者  辻元清美
衆議院議長  河野洋平殿
安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書
 米国議会下院で、「慰安婦」問題に関して日本政府に謝罪を求める決議案(以下決議案)が準備されている。これに対し安倍首相が総裁を務める自民党内部から「河野官房長官談話」見直しの動きがあり、また首相自ら「米決議があったから、我々が謝罪するということはない。決議案は客観的な事実に基づいていない」「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」と述べ、談話見直しの必要性については「定義が変わったということを前提に考えなければならないと思う」と述べたことから、米国内やアジア各国首脳から不快感を示す声があがっている。
 同時に安倍首相は、米国に対して「引き続き理解を得るための努力を行っている」と述べている。米下院外交委アジア太平洋地球環境小委員会のファレオマバエンガ小委員長もまた、「米国を訪れる安倍首相に恥ずかしい思いをさせたくない」と述べ、下院決議の採択を四月下旬に予定される首相訪米後へ先送りすることを明言した。首相訪米に先立ち、日本政府は米国の誤解を解き、「慰安婦」問題に対する態度を明確にすることが求められている。
一方、新聞報道によれば、安倍首相は「河野談話が閣議決定されていると誤認していたこともあり、河野談話を継承すると表明した」(二〇〇七年三月六日・産経新聞)とされている。「河野談話」については明白な政治の決定プロセスを欠いていることも米国の誤解を生む一因と考えられるため、「河野談話を踏襲する」と首相や官房長官が明言している現内閣において閣議決定を検討すべきでは、という意見もある。
 さらに、米国議会下院では、日本軍当局が慰安所運営に直接関わったことを示す証拠として中曽根康弘元首相の回顧録『終わりなき海軍―若い世代へ伝えたい残したい』(発行年月日:一九七八年六月一五日、発行所:株式会社文化放送開発センター出版部、編著:松浦敬紀)が提出された。同書の中で中曽根元首相は、「三千人からの大部隊だ。やがて、原住民の女を襲うものやバクチにふけるものも出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある。」(同書第一刷九八頁)と記述している。「慰安婦」「慰安所」に関する証言を得ることは年々困難になっている。日本の首相経験者が当時大日本帝国の軍人として直接的に慰安所設立・運営に関わり証言まで残している以上、日本政府には早急かつ充分な調査を期待するものである。
従って、以下、質問する。
一 《安倍首相の発言》について
1 「定義が変わったことを前提に」と安倍首相は発言しているが、何の定義が、いつ、どこで、どのように変わった事実があるのか。変わった理由は何か。具体的に明らかにされたい。
2 「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」と安倍首相は発言しているが、政府は首相が「なかったのは事実」と断定するに足る「証拠」の所在調査をいつ、どのような方法で行ったのか。予算を含めた調査結果の詳細を明らかにされたい。
3 安倍首相は、どのような資料があれば、「当初、定義されていた強制性を裏付ける証拠」になるという認識か。
三  《「河野官房長官談話」の閣議決定》について
1 「河野官房長官談話」が閣議決定されていないのは事実か。事実であるなら、どのような扱いなのか。
2 安倍首相は、「河野官房長官談話」を継承すると発言している以上、「河野官房長官談話」を閣議決定する意思はあるか。ないのであれば、その理由を明らかにされたい。
3 政府は「慰安婦」問題について「すでに謝罪済み」という立場をとっているが、いつの、どの文書や談話をもって謝罪しているという認識か。すべて示されたい。
 次に、辻本清美議員(社民党)から出されていた質問主意書に対する答弁書です(史料2)
 内閣衆質一六六第一一〇号
平成十九年三月十六日
              内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議長 河野洋平殿
衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書
 一の1から3までについて
 お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。
三の1について
 官房長官談話は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである。
三の2について
 政府の基本的立場は、官房長官談話を継承しているというものであり、その内容を閣議決定することは考えていない。
三の3について
 御指摘の件については、官房長官談話においてお詫びと反省の気持ちを申し上げているとおりである。
 最後に、読売(購読者数1003万部)・朝日(購読者数800万部)・毎日(購読者数393万部)・産経(購読者数219万部)四大全国紙の慰安婦問題に関する社説を紹介します。原文は、タイトルをクリックして下さい。
(1)産経新聞(2007年2月21日):慰安婦決議案 正しい事実関係で反論を
(2)朝日新聞(2007年3月06日):「慰安婦」発言 いらぬ誤解を招くまい
(3)読売新聞(2007年3月07日):[慰安婦問題] 「核心をそらして議論するな」
(4)産経新聞(2007年3月07日):慰安婦決議案 一時しのぎのツケがきた
(5)毎日新聞(2007年3月08日):「従軍慰安婦」問題 「河野談話」の継承は当然だ
(6)産経新聞(2007年3月10日):慰安婦問題 偽史の放置は禍根を残す
(7)朝日新聞(2007年3月10日):慰安婦問題 国家の品格が問われる
(8)朝日新聞(2007年3月28日):下村発言 首相のおわびが台無しだ
(9)産経新聞(2007年4月08日):慰安婦問題 誤解解く努力を粘り強く
 各社の社説(個人の見解でなく、新聞社全体の意向)を読むと、朝日と毎日が河野談話の継承は当然だという意見です。読売と産経が、河野談話の見直しを主張しています。
 しかし、三宅久之氏・岡崎久彦氏・竹村健一氏らの発言を受けて、産経新聞の論調に変化が起こっています。
(A)米国下院の慰安婦非難決議案と米紙の誤りには、首相が出るまでもなく、その都度、日本政府として訂正を求めるべきだ。歴史事実の誤認や誇張をそのまま放置すると、偽史が独り歩きし後世に禍根を残す。→偽史と決め付け
(B)与野党で学識経験者を交えた徹底検証を行い、見直すべき方向を政府に指し示してほしい。→徹底検証
 (A)は3月10日付け産経新聞、(B)は4月8日付け産経新聞です。字面通り解釈すると、徹底検証とは、歴史修正主義的な偽史説を引っ込め、実証主義的に結論を出そうという方針です。字面通りなら私も賛成です。

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